前半はIBMからの最新情報
後半はユーザーの取り組みを中心に
12月2日(月)、3日(火)の両日にわたり、日本IBM主催のIBM iのイベント「IBM i Advantage 2024」が開催された。6月の「IBM i World 2024」に続き、日本IBMが主催するIBM iのビッグイベントは今年2回目となる。
オンサイト会場および展示会場は、日本IBMの虎の門本社に設けられた。ブースは日本IBMを含めて11社が出展。また日本IBMの大阪事業所にも、オンライン会場が設けられた。参加者数は12月2日・3日の2日間で「約300名」(日本IBM)という。
初日の前半はIBMからの情報提供が中心となった。まずIBM Power 事業部の原寛世事業部長の挨拶を皮切りに、 これが10回目の来日となる米IBMのIBM i CTOであるスティーブ・ウィル氏がIBM iの製品ストラテジーを解説した。
続いて、日本IBMの今尾 友樹氏(IBM Power テクニカルセールス)が、IBM iの最新機能である「拡張ジョブ・スケジューラー」や、本番稼働中のIBM iをクラウドサービス(Power Virtual Server)を含めた別のPowerサーバーに移行させる「IBM i Migrate While Active」、そして最新のセキュリティ機能などを紹介した。
さらに久野朗氏(テクノロジー事業本部 IBM i 統括部 IBM i カスタマーサクセスアドバイザー)からは生成AI時代におけるIBM iの強みや活用法、 茂木映典氏(IBM Power テクニカルセールス)からは、日本での取り組みが進む「RPG コード・アシスタント」の現状と最新情報が語られた。
後半は、ユーザー事例が中心となった。
まず今年スタートしたIBM iの若手技術者コミュニティである「IBM i RiSING」の発表のなかから、ジャストオートリーシングの取り組みを発表。
さらに立命館大学が 『多様な技術者の参画を可能にする、 RISING4Gアーキテクチャーと「立命館スタンダード」』と題して、同大学のIBM i活用やそれを主体にした人材育成の現状を発表。フェリシモからは、『新アーキテクチャー導入によるフェリシモ流技術者課題の解決策』と題して、同社のアーキテクチャー戦略と技術者育成のコンセプトが語られた。
2日目は、前半は前日と同じくIBMからの解説が中心。後半は、まず「IBM i RiSING」の発表のなかから日本サニパックの発表を紹介。
続いてユーザー事例として、 『IBM iを武器にサービスの差異化を続けるマルテー大塚の「IBM Cloud 統合大作戦」』と題したマルテー大塚の発表、続いて 『協和自動車DXはローコードツール+生成AIで。エンド・ユーザーによるDXアプリ開発物語』と題した協和自動車の発表、そして 『新卒入社4年目の若手メンバーが語る、コメリ「デベロッパー塾」の秘密』と題したコメリグループのIT会社であるビット・エイの発表が行われた。
スティーブ・ウィル氏
米国での取り組みが進む「RPG コード・アシスタント」を紹介
今回の話題の中心は、「生成AI」と「IT人材の育成」にある。前半のIBMのセッションはIBM iにおける生成AIの活用と取り組みが話題の多くを占め、ユーザー事例の発表ではIBM iユーザーにおけるIT人材の育成が要になっていた印象がある。
たとえば米IBMのスティーブ・ウィル氏のセッションでは、IBM iの基本戦略や2025年の登場が期待されるIBM iのメジャーリリースなどに触れつつ、IBM iのRPGコードを生成AIで自動生成する「RPG コード・アシスタント」(RPG Code Assistant)に関する米国での取り組みが話題の中心であった。
ウィル氏は、世界中のIBM iユーザーと会話した経験を踏まえながら、IBM iでの生成AI活用の期待が、「Db2 データ分析」「オペレーション」「アプリケーション開発」の3つにあると語る。
「Db2 データ分析」は、基幹データベースであるDb2 for iに蓄積された基幹データをベースにしたトレンド分析や異常検出に生成AIを適用するユースケース。「オペレーション」は、アクティブ監視やアラート検出、自己修復など、IBM iを運用するうえで必要な日々のオペレーションを生成AIによって効率化させるユースケース。そして「アプリケーション開発」は、IBM iアプリケーション開発で必要なコーディング支援やコード内容の説明を生成AIによって効率化し、開発生産性を高めようとするユースケースである。
なかでもウィル氏が注目するのは、アプリケーション開発における生成AIの活用である。米Fortra社(旧Help System)が実施したIBM iユーザーのアンケート調査結果を引用しつつ、IT環境を計画する際の関心事項の上位に「アプリケーションのモダナイズ」(2位)と「IBM iのスキル習得」(3位)の2つがあり、さらにIBM iの新規開発言語は89%がRPGであることから、RPGによるアプリケーション開発を生成AIで支援することが重要であると示唆した。
そしてこのための取り組みとして、「RPG コード・アシスタント」について解説した。
「RPG コード・アシスタント」には、大きく次の3つの機能がサポートされる。まず既存コードの説明、次に使用記述に基づいた最新フリーフォーマットRPGの生成、そしてRPGテストプログラムの生成である。さらに可能であれば、既存の旧RPGコードを、ILEベースのフリーフォーマットRPGに変換することも重要だと指摘する。
ちなみにここで、ウィル氏は、「RPG コード・アシスタントはRPG開発者の仕事を奪うものではない」ことを強く強調した。RPGのことを何も知らない開発者に比べれば、「RPG コード・アシスタント」はかなり使える、という狙いで開発していることを説明する。
そして「RPG コード・アシスタント」は、IBMが開発した基盤モデルである「IBM Granite」をベースとしており、この大規模言語モデル(LLM)を訓練するプロジェクト「Ready for Prime Time」を開始したとのこと。IBMが開発したRPGコードはもちろん、ベンダーの開発者やIBM iチャンピオンなどIBM iコミュニティ全体から広くトレーニング用のコードを募集し、RPG用の大規模言語モデルを作成するプロジェクトが進行している。
ウィル氏はこのプロジェクトのスケジュールについて、2024年夏にトレーニングデータの収集とモデルトレーニングを開始。同年秋に初期トレーニングを開始するとともに、コミュニティアドバイザーとの意見交換を始めており、2025年の第1四半期内には、α版モデルをテクニカルコントリビューターやチャンピオンと共有し、同年の後半にはβ版モデル(とおそらく製品版)を、大小を問わず多くのユーザーと共有したいと明らかにした。
来年、2025年はIBM iのメジャーリリースが登場するとともに、「RPG コード・アシスタント」が何らかの形でお披露目されることになりそうだ。
[i Magazine・IS magazine]