ITの全体像を理解し、多彩な技術要素を知る
IBM i技術者は大いに自信をもとう
箕手 幸広 氏
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
ISE アセット企画 コンサルティングITスペシャリスト
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IBM iユーザーを取り巻く
現在の状況を考える
i Magazine(以下、i Mag) まず最初に、箕手さんとIBM iとの関わりを教えてください。
箕手 私はAS/400が発表された1988年に日本IBMに入社し、主に関西圏のお客様を中心に、AS/400の導入やソリューションの開発・運用をご支援してきました。その間、1996年にIBMの米ロチェスター研究所でマルチメディア関連の研究・開発に携わったり、1999年に米ラーレイ研究所でIBM iのDCM (Digital Certificate Manager)関連のRedbookを執筆したり、2003年からはカナダのトロント研究所でWebFacingの開発に参加するなど、海外のプロジェクトも経験しました。2003年に日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングの幕張事業所に移って以降は、その時々の仕事内容に応じて、IBM iに関する業務の割合が比較的少ない時期もありましたが、ほぼ一貫して、IBM iとともにエンジニア人生を歩んできたと言えます。
i Mag 現在はどういった業務を担当しているのですか。
箕手 私の所属するアセット企画というのは、お客様の要望に応じて開発したソフトウェアをIBMで資産化し、販売していくのに必要な企画から開発・維持・保守などの業務を推進していく部署です。私はそこでさまざまな企画に携わる一方、システムの上流デザインを手掛けたり、個々のお客様のプロジェクトに参加して、IBM iを含む将来計画やアーキテクチャづくりをご支援するといった業務に携わっています。
i Mag 最近のIBM iユーザーを取り巻く状況やITへの取り組みをどう見ていますか。
箕手 企業の屋台骨を支える多数のRPGアプリケーションが今も稼働するなかで、多くのユーザーの方々がIBM iを今後どうするのか、どのような青写真を描いて先に進むべきかを真剣に考えておられます。これからもIBM iを中核に据えて運用を描くケースもあれば、Javaの相互運用性や移植性に着目し、アプリケーションをRPGからJavaへコンバートするケースも見られます。ただRPGからJavaへの安易なコンバージョンは、大きなリスクを招きかねないので、十分に注意する必要があると感じています。
i Mag Javaへのコンバージョンに際しては、具体的にはどういった注意が必要ですか。
箕手 まず、今後の運用を支えていけるようなJavaのスキルを社内で有しているかどうか、そして現在運用しているシステムの内容や構造をきちんと理解しているかどうかが重要です。とくに長期にわたって改良を重ねてきたものの、ドキュメントが残されておらず、開発を担当した技術者が異動・退職したなどの理由で、システムがブラックボックス化している例は少なくありません。ツールで可視化したとしても、担当者がそれを正確に理解し、企業の情報資産として共有できているか、という課題もあります。
それにジョブの優先順位制御のように、RPGでは当然のように利用できていた機能の多くがJavaではサポートされないことに、コンバートして初めて気づくケースも多いです。RPGとJavaでは、手続き型とオブジェクト指向型の違いという以上に、開発の考え方や進め方が根本的に異なります。Line to Lineでコード変換しても、RPGで最適に記述されていた内容が、Javaでも同じように有効に機能するとは限りません。
IBM i技術者は
幅広い知識が自然に身に付く
i Mag こうした課題に対して、どのような解決策が考えられますか。
箕手 今後のIT環境に対する考え方に応じて、進む方向はいくつもあるでしょう。でもまずは現在の資産を見える化し、構造を理解する。そして現行のアプリケーションをすべて捨てて新しい環境へ移行するのは時間も工数も必要で、大きなリスクがあると判断し、RPG資産はこのまま大切に使い続けると決めたなら、ILE RPGやフリーフォームRPG、あるいはスクリプト言語であるJavaScript、さらにオープンソース系のPHP、Perl、Pythonなどを積極的に活用して新しいアプリケーションやフロントエンド系などに対応させるのも、1つの手段でしょう。
また今号に掲載している記事で私が書いているように、JASONやRESTなど、AI、クラウド、IoTなど新しいソリューションとRPGアプリケーションを連携する方法はいくつも提供されています。それらを利用して、IBM i資産の価値を高めていくのもよいかと思います。
i Mag ユーザー側で、そしてビジネスパートナー側でIBM iの業務に携わる技術者に対して、伝えたいことはありますか。
箕手 海外のIBM iエンジニアはとても元気で、さまざまな情報が発信されていますし、Webでの交流も盛んです。IBM iの新しいテクノロジーにも皆、すぐに飛びつき、いろいろな意見が交わされています。だから日本のIBM i技術者もいろいろな情報に目を向けて、もっと元気になってほしいですね。
時々、「RPGをはじめ、IBM iで必要とされる言語やスキルはとても特殊で、オープン系技術のように汎用性や一般性がない。だから自分のスキルは、IBM i以外では役に立たない」と嘆くIBM i技術者の声を耳にしますが、それは違うと思います。オープン系の技術は、OS、DB、ミドルウェアと分業が進み、それぞれに難易度が増し、システム全体を理解しながら動かすことが難しくなっています。
しかしIBM iはOSからDB、ミドルウェア、アプリケーションとすべての要素を包含しており、それぞれの垣根がとても低い。IBM iで開発・運用していると、業務知識をはじめ、幅広いスキルが自然と身に付きます。常に全体像を捉え、全体としてどう動かせばよいかを的確に理解できるようになります。これは技術者としては大きな力であり、貴重な財産だと言えるでしょう。だからIBM i技術者は大いに自信をもって、この先の30年を歩んでほしいと願っています。