2020年、IBMユーザー研究会(以下、U研)はその60年以上にわたる歴史に幕を閉じ、7月、新たなコミュニティとしてIBM Community Japanが誕生した。9月には設立記念イベントが開催され、本格的な活動を開始している。
日本IBMの運営による新たなコミュニティは、U研のDNAをどのように継承し、どのようなステージへ進もうとしているのか。担当役員である日本アイ・ビー・エム株式会社の福地敏行取締役副社長、および運営を担当する郷みさき理事(マーケティング お客様プログラム担当)にその理念と狙い、具体的な活動内容を聞く。
個人単位で参加し
参加費は無料
i Magazine(以下、i Mag) 長い歴史を誇るU研は2020年に活動を終了し、それに代わる形で新しいコミュニティであるIBM Community Japanが誕生しました。その背景と経緯をお話しください。
福地 U研はご存じのとおり、60年以上の歴史があり、ユーザーの方々がご自分たちの手で企画・運営を担ってこられた、ほかに例のない貴重なコミュニティです。今までU研を支えてこられた方々には、本当に心から感謝しています。しかし昨今はDXという言葉が象徴するように、ITで新しいビジネスモデルやチャネル、今までにない顧客体験を創出する時代になり、ユーザー・コミュニティの役割にも変化が必要になってきました。
IT部門だけでなく、ユーザー部門やビジネスの担当者と広く連携しながら、新しいビジネスモデルを生み出すことが求められるなか、U研には暦年にわたる会員数の減少や、事業部門の会員が少なく、メンバーが固定傾向にあるなどの課題がありました。新たなコミュニティの役割を追求し、それに沿って変革していく難しい作業を、ボランティアを基本とするU研の皆さんにお願いするのは心苦しく、日常業務を抱えるなかでは時間的にも厳しいと感じていました。そこでU研の理念や活動を継承しつつ、日本IBMが運営する新しいコミュニティとして発足させたのが、IBM Community Japanです。
i Mag IBM Community Japan に見られる、U研との最も大きな違いは何ですか。
福地 大きな変化として、IBM Community Japanは法人ではなく個人単位で参加する点があります。U研は会社単位の参加で、参加費を支払い、会社からの意向で各々のメンバーが参加する形態でした。それに対してIBM Community Japanは、「未来を創るテクノロジーで豊かな社会を実現する」という理念と活動にご賛同いただける社会人の方であれば、誰でも無償でご参加いただけます。会社の指示で参加するのではなく、志のある方々に自分の意志で参加していただきたい。個人のスキルを高めることに狙いがあり、それが結果的には企業の成長や社会への貢献につながっていくと考えています。
「マナブ」「ツクル」「ツナガル」で
構成する3つの活動の場
i Mag IBM Community Japanの理念を教えてください。
福地 IBM Community JapanではU研が活動の柱に据えていた「研鑽と交流」というDNAを継承しつつ、変えるべきことは変え、残すべきことは残そうと展開しています。その活動は、「マナブ」「ツクル」「ツナガル」という3つの場で構成されています。
「マナブ」では、IBMのプロフェッショナルや専門家がマナブプログラムの一環として、多種多様なオンライン動画を期間限定で公開しています。また「ツクル」では1人では実現できない、すなわち仲間や専門家との活発なコミュニケーションがあって初めて実現できるようなアイデアを共有し、切磋琢磨しながらカタチにしていくことを目指しています。これは、「ナレッジモール研究」と「ナレッジモール論文」の2つを柱にしています。ナレッジモールは、IBM Community Japanでの研鑽活動の総称だと考えてください。
i Mag ナレッジモール研究の具体的な活動には何がありますか。
郷 ナレッジモール研究は、U研のIT研究会やJGSを継承した活動です。ただしIT研究会が地区研単位の活動であったのに対し、ナレッジモール研究は全国を対象にオンラインを基本とする活動になります。現在は社会課題、技術探求、情報システムという3つの領域で合計65の研究テーマが提示されており、参加メンバーが揃ったら各テーマのワーキンググループを結成し、2021年1月から実際の活動をスタートさせます。これには日本IBMの社員もアドバイザーとして、またメンバーとしても参加します。
i Mag ナレッジモール論文はどのような活動ですか。
郷 これはU研時代のIBMユーザー論文と、日本IBMが社内で実施していたIBMプロフェッショナル論文を統合させたものです。2020年11月に募集を開始し、2021年1月末に締め切り、7月に論文提出、審査を経て10月に成果発表となります。コロナ禍の状況により実施形態は未定ですが、2021年秋に予定しているIBM Community Japanのイベントでその成果を発表していただきます。
i Mag それでは、「ツナガル」を狙いにした活動はどのようなものですか。
福地 論文、発表資料、実際に作成したアプリケーションやツールといった研究成果を共有する場となります。具体的には、ナレッジモールでの知見や成果の共有、秋の大型イベントでの研究成果の発表、IBMの技術者コミュニティとの交流、ロールモデルとなる先輩や新たな仲間との出会いなどが中心です。日本IBMのテクノロジーを統括する技術理事などともディスカッションする機会を設けます。業種・業界、所属、職位、年齢などの壁を越えて、多彩なメンバーが交流し、それによって生まれる化学反応を大切にしていく場でありたいと思っています。
外部コミュニティとも
活発な連携
i Mag 「IBM i Club」という活動もスタートしていますね。
郷 そうです。これはマナブ、ツナグ、ツナガルのどの観点からも重要なプログラムだと考えています。U研のいくつかの地区研では、「U研倶楽部」「AS/400倶楽部」など、IBM iユーザーが集まってディスカッションするコミュニティがありました。これを地域ではなく、全国展開の活動として継承しています。10カ月間で5回のオンラインミーティング開催を予定しており、すでに昨年11月26日に第1回のミーティングを開催して、多くのIBM iユーザーの方々にご参加いただきました。事前にヒアリングシートでご希望のテーマや課題を伺っており、それに沿ってディスカッションを深めていきます。
i Mag 外部コミュニティとも積極的に連携していくようですね。
郷 そのとおりです。たとえば情報処理学会とは論文の提携を開始しました。IBM Community Japanで発表された優秀なナレッジモール論文を、情報処理学会の学会誌である『デジタルプラクティスコーナー』に採録します。論文を執筆したメンバーにとっては、自身の技術成果を広くアピールでき、有識者からのフィードバックを得てキャリア形成にも役立てていただけます。
また海外のIBM Communityとも連携していく予定です。IBM Community Japanは、グローバルに展開するIBM Communityの活動の1つという位置づけであり、専用Webサイトの運用や年1回の大規模なユーザー・カンファレンスへの参加などで連携していきます。
グローバルなIBM Communityでは、「オープンイノベーションは多様な人との交流から生まれる」という理念を掲げており、たとえ競合相手であっても参加を拒みません。参加の門戸を狭めると、結局はいつも同じメンバーが集まることになり、そこでは新しい発想やイノベーションは生まれないと考えています。IBM Community Japanの運営は日本IBMが主導で行いますが、この理念は共有していきたいと考えています。
福地 IBM Community Japanは、IBMのビジネスの場ではありません。私たちと志をともにする人たちが集まり、広くつながることを目指して活動していきます。ぜひIBM Community Japanに参加していただき、豊かな知識と経験を得ていただきたいと願っています。
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IBM Community Japan
考える未来へ、仲間と
https://www.ibm.com/ibm/jp/ja/ibmcommunityjapan.html
[i Magazine 2021 Winter(2021年1月)掲載]