日本IBMは11月29日、記者発表会を開催し、伊藤忠テクノソリューションズがIBM Cloudの上でハイブリッドクラウド支援サービス「OneCUVIC」の提供を開始すると発表するとともに、IBM Cloudに関する最新アップデート情報を明らかにした。
日本IBMの今野智宏氏(執行役員 クラウド・プラットフォーム事業部長 兼 コンテナ共創センター 所長)が明らかにしたIBM Cloudの最新動向は、以下の4点である。
① サステナビリティ
まず、データセンター戦略と環境への取り組み。環境問題に対応すべく、IBMではデータセンターの冷却効率や脱炭素について、具体的な目標を設けてコミットしている。2023年早々には、データベース別やサービス別の二酸化炭素排出量を可視化する「Carbon Calculator」の運用をスタートさせる予定である。
また企業間共創による社会問題への挑戦として、IBM社内だけでなく、他企業との協業を推進している。たとえば三菱重工業を中心にした、CO2流通を可視化するデジタルプラットフォーム「CO2NNEX」の構築。三井化学を中心にした、ブロックチェーン技術による資源循環プラットフォームの構築。旭化成を中心とした、プラスチック資源循環プラットフォーム「BLUE Plastics」の構築など。いずれでも、IBM Cloudがインフラとして利用されている。
② 業界向けクラウド
昨今はユーザーが権限をもち、自国でデータを管理・保存・利用するクラウド形態である「ソブリンクラウド」が注目されている。ソブリンクラウドではセキュリティ、コンプライアンス、データ主権が各国の法律や規則を遵守することが求められ、クラウド上のデータを国外で利用せず、各国の司法権の範囲内で保存・処理される必要がある。
たとえば欧州の公共、銀行、保険、ヘルスケアといった業界では、欧州の法律要件に準拠するため機密データの保護が最優先事項として検討される。このように各国・各地域でデータ保護基準を定め、その基準に準拠するクラウドサービスがソブリンクラウドである。
IBM Cloudでは、ソブリンクラウドの代表的な要件に対応するサービスを以下のように提供している。
また金融業界向けのパブリッククラウドとして、世界の金融業界との協業で構築された初めてのクラウドサービスが、「IBM Cloud for Financial Services」である。世界120以上の金融機関が参加し、日本からは三菱UFJフィナンシャル・グループが参加している。
イタリア第3位の銀行グループであるBPERが、これを利用してコンプライアンス維持コストの削減に成功したり、スペインの金融系ITベンダーであるRural Servicios Informaticosがデジタル化とエコシステムを強化予定など、すでにいくつかの事例が登場している。
また日本IBMでは、国内の金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)を提供している。国内の代表的な金融機関、約30行が参加しており、すでに金融サービス向けのサービスを開始。今後は同様のアーキテクチャを活用して、金融業界同様に規制の厳しい通信・政府・ライフサイエンス業界向けにも展開する予定である。
③ ミッションクリティカルを支えるクラウド品質
IBM Cloudでは、2021年に比較して、2022年では重要度1障害(クラウド環境に大規模な影響が出て多くの利用が正常に利用できない障害)が大幅に減少し、大きな品質改善を果たした。
日本IBMでは2021年6月から、IBM Cloudに起因する障害データを過去12カ月分にわたり収集・分析して、事前に対処する取り組みを開始しており、トラブルの発生を未然に防止することで、品質改善の向上に寄与したと見ている。
④ マルチプラットフォーム
日本IBMのいうIBM Cloudのマルチアーキテクチャとは、x86系、IBM iやAIX、Linuxなどが稼働するPower系、およびz/OSやZ/Linuxなどが稼働するIBM Zのメインフレーム系など、多様なワークロードのクラウド化が実現していることを意味する。
このマルチアーキテクチャには、量子コンピュータも含まれる。IBM Cloudでは現在、127量子ビットまでの量子コンピュータが利用可能で、発表されている下記の量子コンピュータの開発ロードマップに沿って、従来型コンピュータと量子コンピュータの棲み分け、最適なリソース配置・制御による処理の高速化を目指しながら、メニューの拡充を図っていくとしている。
さらに、分散クラウドを実現する「IBM Cloud Satellite」も、マルチアーキテクチャの重要な要素であると、今野氏は指摘する。
IBM Cloud Satelliteは、任意のクラウド、オンプレミスのデータセンター、エッジコンピューティングなど必要な場所からIBM Cloudを利用可能にするサービスのこと。その事例として、東京電力グループのITインフラを企画・構築・運営するテプコシステムズでの活用を挙げた。
テプコシステムズでは、電力事業のITや工場・プラント、ビルなどの制御機器をコントロールする基幹システムを、安全かつセキュアに運用するためのコミュニティ型クラウドサービス「TEPcube(テプキューブ)」を提供している。同社では2022年4月から、IBM Cloud Satelliteを利用して、TEPcube上でオンプレミス相当のセキュリティレベルを備える動画配信用プラットフォームを構築し、運用を開始した。
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