最高データ責任者(CDO)を対象にした初の調査
日本IBMは7月 26日、IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が、日本を含む世界30以上の国で29業種に及ぶ3000名、うち日本から180名の最高データ責任者(チーフ・データ・オフィサー。以下、CDO)を対象に実施した最新調査結果として、「データから価値を創造する」と題した「グローバル経営層スタディ:CDO スタディ」の日本語版を公開した。
IBMではCEO、CIO、CTOなど、いわゆるC-Suiteを対象とした一連の「グローバル経営層スタディ」を定期的に発表しているが、CDOを対象とした調査は、これが初めてとなる。
データはビジネス上の意思決定や戦略、オペレーティング・モデルの基盤となっており、データを活用し新たな価値を創造していくことが企業には求められている。その中でデータの品質・ガバナンス・戦略・管理に責任を負う経営幹部であるCDOにかかる期待は高まっている。
ただしCDO という役職が2002 年頃に登場して以来、20年以上が経過した現在も、その役割は明確に定義されていないと、同調査は指摘している。確かにCDOの役割が見えにくいことは間違いなく、同調査では広くグローバル視点で、先駆的な CDO の行動様式や特性を明らかにしようと試みている。
仕事上の役割について周囲の合意がないと、優れた成果を達成することが難しいのは確かだ。取締役会は CDO の就任早々にコスト減・収益増を同時実現する “マジック” を期待する。CEO は大企業でも半年以内にデータ主導へ完全移行できるという幻想を抱く。
そうした中で、CDO にかかるプレッシャーは過去にないほど高まっている。プレッシャーの一例として、CDO の52%が自分の最重要責務はデータ・セキュリティの確保だと回答している。しかし、自社のデータが安全に保護されていると考える CDO は 61%に満たない。こうした状況を受け、CDOはデータから価値を創造するだけでなく、データの安全性を高める方法も探っていると考えられる。
また、データ価値創造に取り組む先駆的なCDOがいる企業は、収益に占めるデータ対策費の比率は他社より低いものの、他社と同等以上のビジネス価値を創出していることが明らかになった。同調査では、それを実現している回答者全体のうちの8%、日本では11%を「エリート・グループ」およびそのCDOを「データ価値創造型CDO」と呼んでいる。
ちなみにIBMが定義するデータ価値創造型CDOの特性は、以下のように表現されている。
・データとアナリティクスの経歴を持つ傾向が強い。
・CEO に直属する割合が高い
・トップダウンのアプローチと現場チームへの権限強化を併用する。
・非上場企業よりも上場企業に多い
・データ管理上の喫緊の課題は、データの信頼性確保とROI の明確化である。
そして彼らに共通する4つの特長を以下のように公開している。
❶ データから価値創造に至る道筋を明確化する
・組織内のデータ・リテラシーを高め、データの活用によってテクノロジーとビジネスの両面で成果を生み出す「二重の視点」を確立させ、投資利益率(ROI)を高める。
・データ・リテラシーを高め、データ・ドリブンな組織になるため「研修を拡充して人材を育成する」「ワークフォース・アナリティクス(労働力分析)の導入」などを実践している。
・データ価値を脅威から守るため、サイバー・セキュリティに重点を置く
❷ データ投資によってビジネスの成長ペースを加速する
・自社のデータ管理戦略をDXに明確に連携させている。
・意思決定の自動化にAIを利用しているなど、他のCDOよりAIを有効活用している
❸ データをビジネスモデルのイノベーションの中核として位置付ける
・データ投資を通じて、価値を創出する新たな源泉を追求し、イノベーションを促進する。
・イノベーションを進めるため、データの可視化を推進するためデータ実務関連に投資を行い、サイロの打破と集中型データ・アーキテクチャの構築に注力している。
❹ エコシステム・パートナーとの連携を最大化する
・複雑なエコシステムにおいてパートナーシップの実効性を阻害する要因を分析する。
・顧客企業とその保有データに積極的関わる傾向を強めている。
日本のCDOの状況と今、取り組むべきこと
同調査の最後には、日本語版監修者から国内リーダーへの提言と題し、日本の CDO が取り組むべき内容・アプローチの要点を、以下の「4つの学び」としてまとめている。
学び 1 ROI を高める「二重の視点」を確立する
学び 2 データ投資をより広範な全社的デジタル投資に連携・包含させる
学び 3 ビジネスの保護だけでなく、ビジネスモデルのイノベーションも重視する
学び 4 エコシステム・パートナーと全面的に連携する
日本のCDOはデータ価値を大きな脅威から守るため、サイバー・セキュリティに重点を置く傾向が強く、またサイロを打破するため、集中型データ・アーキテクチャの構築に注力している。データ価値創造型CDOは他のCDOよりAIを有効活用しているが、意思決定の自動化にAIを活用している日本のCDOは世界と比べて約半分となっている。
今後、日本のCDOはデータ投資によってビジネスの成長ペースを加速し、データROIの向上に貢献していくため、「データ管理・統制」に加え、「データ活用推進」に対する取り組みを強化していくことが重要であると指摘している。
同調査の全内容は以下から参照可能
https://www.ibm.com/downloads/cas/L8ZVNZKW