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日本IBMが「IBM watsonx」をベースにした新たなAI戦略を明らかに ~「ビジネスのためのAI」を追求するAIとデータの新プラットフォームとは

日本IBMは5月24日、AIについての方針と製品戦略を明らかにした。米フロリダ州オーランドで5月9~11日に開催された同社のイベント「Think 2023」で発表されたAIとデータの新しいプラットフォーム「IBM watsonx」について、あらためて日本市場向けに紹介した。

冒頭にIBMのAI戦略について、今までの「+AI」、何らかのソリューションにAIを付加するのではなく、これからは「AI+」、AIを前提にして自社の価値をAI化する、つまり「AIファースト」のコンセプトが中心になると語った。

IBMのAI戦略の基本は、「ビジネスのためのAI」である。「Think 2023」でも強調されていたように、今後はChatGPTのような一般向け大規模言語モデル(LLM)のユーザーになるだけでなく、自社の価値をAI化する「AI価値創造企業(AI Value Creator)になることが求められる。それこそが企業競争力の源泉となるだろう。そしてそのために必要なのが基盤モデル、それを実現するAIプラットフォームが「watsonx」なのである。

ここで鍵になるのが、基盤モデル(Foundation Model)である。これまでの機械学習によるAI開発では、用途ごとにモデルを作成するので、膨大な時間やリソースを学習に費やす点が問題であった。

しかし大量かつ多様なデータによる事前学習を実施して1つの巨大な基盤モデルを作成しておけば、個々の用途向けのAIは少量のデータで学習が可能となり、さまざまなアプリケーションの基盤になり得る。最初に大規模基盤モデルを構築する必要はあるが、特定のAIを実用化する場合、ゼロからデータを集めて学習させる負荷を低減し、簡単に素早く応用させられるメリットがある。

ただしその基盤モデルがビジネスに適しているかどうかは常に検証していかねばならない。それは正確さ、バイアス、透明性、データの出自、説明性、カスタマイズ性、実行環境、計算コストなどの要素で決定される。

「watsonx」は、こうした「ビジネスのためのAI」に求められるコンプライアンス条件を満たしつつ、基盤モデル作成のワークフローをend to endの全ライフサイクルにわたって実現するためのプラットフォームである。

出典:日本IBM

「watsonx」は、以下の3つのソリューションで構成されている。

watsonx.ai(ワトソンエックス・ドット・エーアイ)

従来の機械学習と、基盤モデルを活用した新しい生成AI機能の両方を学習・検証・調整・デプロイする、AI構築のための企業向けスタジオである。オンプレミスおよびクラウド環境を含む多彩な実行環境に対応する。

Watsonx.aiでは、IBM独自の基盤モデルとオープンソースの基盤モデルの双方に対応する。

IBM独自の基盤モデルとしては、fm.code(コード生成)、fm.NLP(大規模言語モデル)、fm.geospatial(地理空間データ)などがある。またオープンソースモデルとしては、「Think 2023」で発表されたHugging Face社との提携、またPyTorch、Ray、ONNXなどのオープンコミュニティとの協力が挙げられる。

IBMでは、単一の基盤モデルで企業のAI活用全域をカバーすることはできないと考えており、目的に応じた適切なモデルを選択し、自社データでカスタマイズしていける機能性を重視しているようだ。

watsonx.data(ワトソンエックス・ドット・データ)

データとAIを管理するオープン・レイクハウス・アーキテクチャ上に構築されたデータストア。単一エントリーポイントでデータへアクセス可能で、目的に応じた複数のクエリーエンジンを提供する。

出典:日本IBM

watsonx.governance(ワトソンエックス・ドット・ガバナンス)

データとAIガバナンスの両方を包含するツールキット。AIモデルのワークフローを自動化し、精度、公平性、バイアス、ドリフトを能動的に検知することでリスクを管理し、企業の信頼を保全する。

このようにwatsonxは、IBM独自のモデル、オープンソースやその他のモデル、ユーザー企業が独自に開発したモデルに対して、ユーザー企業の固有データを活用しながら、試行・チューニング・構築調整・デプロイ・保全まで、基盤モデル作成のワークフローをend to endで実現する。

IBMでは今後、IBMソフトウェア製品にもwatsonxで開発した基盤モデルを組み込んでいく予定である。

出典:日本IBM

たとえば自然言語による命令からコードを生成する「Watson Code Assistant」では、各ユーザー企業固有のデータをWatson Code Assistantの基盤モデルに適用することで、コード生成の精度を向上する。その結果、特定のニーズに合わせたプライベートなカスタムAIモデルが作成できるようになる。2023年後半から提供を開始する予定で、当初はAnsibleのコード生成からサポートする。

IBMでは、GPUベースのAIスーパーコンピュータである「IBM Vela」をはじめ、基盤モデル作成やAIワークロードに最適化したGPUオファリングをIBM Cloud上で提供したり、Watsonに含まれていたツール群をオープンソース化して、OpenShiftに統合することなどを発表。

さらにIBMコンサルティングでは、1000人以上のAIエキスパートを擁するIBM Consulting Center of Excellence for Generative AIを発足させ、AIの導入支援に向けて、watsonxおよび生成AIに関する新たなサービスを提供する。「AI+」(AIファースト)の戦略に沿った取り組みは着々と進んでいるようだ。

 

[i Magazine・IS magazine]

 

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