IBMは11月9日(米国時間)、433量子ビットの量子プロセッサ「Osprey」(オスプレイ)や量子システム「IBM Quantum System Two」など「10以上」(IBM)の量子コンピューティング研究・開発の成果を発表した。今回の発表についてIBMは、「2023年を大きな転換点として、量子と古典のワークフローをシームレスに統合しながらスケーリングが可能な、量子セントリック・スーパーコンピュータを実現する準備が整った」とアピールしている。
433量子ビットのOspreyは、ロードマップに沿った達成で(図表)、400量子ビット超のゲート型量子コンピュータは世界初。
Ospreyの技術としては、、昨年(2021年)発表の「Eagle」(127量子ビット)と同じ多層配線技術を採用し、信号の配線やデバイスのレイアウトに柔軟性をもたせるとともに、ノイズを低減し安定性を高めるためのフィルタリングを統合した。さらに配線密度を70%向上させ、「ラインあたりの価格を5倍削減することに成功した」という。
「第3世代の制御システム」も発表された。2016年当時の制御システムは10個の量子ビットの制御にラック全体の装置が必要だったが、今回の制御システムでは、1ラックで400量子ビットが制御可能になる。「前世代よりも低価格で提供できる」という。
また、量子プロセッサの性能指数である品質と速度においても、量子ボリュームが128から512へ4倍、1秒あたりの回路層演算量が1400CLOPS(Circuit Layer Operations Per Second)から1万5000CLOPSへと10倍以上に向上した(いずれも27量子ビットのFalconチップの計測)。
ソフトウェア面の主な新機能は以下のとおり。
・Qiskit Runtimeで「エラー抑制・エラー低減ツール」のベータ版をリリース
・動的回路へのアクセス
動的回路とは、量子ビットのコヒーレンス時間(量子性を保つ時間)に古典的な計算を取り入れ、より豊富な回路演算を実行するもの。
・量子サーバーレスのためのミドルウェア
Circuit Knitting ToolboxおよびQuantum Serverless libraryという2つのミドルウェアのα版をリリースした。完全版は2025年の予定。
IBM Quantum System Twoの設計の公開
IBM Quantum System Twoは、昨年(2021年)11月のEagleプロセッサの発表時に「将来の量子システムコンセプト」として公表されたもので、今回はその概要が発表になった。実機は2023年の公開予定という。
今回発表されたIBM Quantum System Twoの構造は、スケーラブルなモジュラー構造をもつシステム。コントロールラックの追加により単体でも最大4158量子ビットまで拡張でき、さらにIBM Quantum System Twoの冷却器間をケーブル接続して量子プロセッサを連結させることにより、2台を連結した場合は8316量子ビットまで、3台を連結した場合は1万6632量子ビットまでの処理が可能になる。また、古典コンピュータのラックやAIシステムと交換することによりシステムの計算能力をさらに拡張可能である。
このIBM Quantum System Twoが2023年に公開されると、2019年1月公開の「IBM Quantum System One」(27量子ビット)から4年あまりで、万を超えるオーダーの量子ビットシステムが射程に入ってくることによる。「IBM Quantum System Twoは私たちの進化の集大成であり、量子時代の方向性を示す象徴的なアーキテクチャ」と、IBMは述べている。
IBM量子コンピューティングのエコシステムであるIBM Quantum Networkへの参加組織は200以上となり、「45万人以上のユーザーが、クラウド上でアクセス可能な20台以上の量子コンピュータを利用中」という。
IBMは今年5月の「量子コンピュータの新しいロードマップ」で、以下のように今後の予定を公表している。改めて再掲しておきたい。
◇ 2022年
・433量子ビット・プロセッサ「Osprey」
・動的回路(ソフトウェア)
・量子回路速度を1400CLOPSから1万CLOPSへ
*CLOPS:Circuit Layer Operations Per Second
・量子ボリュームと現在の256から1024へ ★今回は512量子ボリューム
・量子安全のためのポートフォリオ製品「IBM Quantum Safe」(7月発表) *今回は、ボーダフォンとの協業を発表(ボーダフォンの技術インフラに量子安全暗号を適用する方法を模索)
◇ 2023年
・133量子ビット・プロセッサ「Heron(ヘロン)」の古典的並列化
*量子ゲートを再設計し高速化
・1121量子ビット・プロセッサ「Condor(コンドル)」
・Qiskit Runtimeにスレッドを導入し、量子プロセッサの並列処理を実現
・量子サーバーレスの導入 *開発者に高度な簡便性と柔軟性を提供
・IBM Quantum System Twoの実機公開
◇ 2024年
・チップ間結合器(カプラー)により量子プロセッサ間を量子ゲート接続させた408量子ビット「Crosbill(クロスビル)」
・量子並列化による1386量子ビット「Flamingo(フラミンゴ)」
・Qiskit Runtimeにエラー低減・エラー抑制を導入(~2025年)
◇ 2025年
・マルチ量子チップと量子並列化の組み合わせによる4158量子ビット「Kookabura(クーカブラ)」
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