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ハイパーオートメーション実践の鍵 ~これからの自動化の方向性と反復可能な自動化ライフサイクルの重要性


Text=北本 和弘 日本IBM

ハイパーオートメーションは、ガートナーにより「2020年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」として提唱された概念です。

ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)に代表される自動化ツールや、人工知能(AI)、機械学習 (ML)、パッケージ・ソフトウェアなどを組み合わせて、組織ができる限り多くの業務プロセスとITプロセスを迅速に特定、検証、自動化することにより、組織の成長の加速と変化への対応力の向上を目指しています。

2020年に提唱されて以来、3年連続で戦略的テクノロジのトップ・トレンドとして挙げられおり、さまざまな市場調査で、ハイパーオートメーションのビジネス規模は2029年までに、平均年間成長率が20%を超えると予測されています。

この市場の伸びは、人工知能および RPAを中心とした自動化ツール市場の成長と、デジタル化の進展によって牽引されています。これは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)への企業の取り組みの方向性と一致しています。

本稿では、ハイパーオートメーションで活用される技術に着目し、それによってもたらされる変化について解説します。

図表1 ガートナーの「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」

なぜハイパーオートメーションが
継続的に注目されているか

ハイパーオートメーションを考える前に、まずオートメーション(自動化)を考えてみましょう。

最近は「業務効率化」という言葉より、「業務自動化」という言葉を聞くことが多くなりました。業務効率化を突き詰めていくと、人の介在を極小化し、作業を自動化し、業務のスピードと品質を向上していくので、これは当然の結果と言えます。

また組織がコスト削減だけでなく、売上や利益の向上を目指す中で、ビジネスの拡大に伴い業務量が増加することによって人員が不足するといった課題への対応にもまた、業務の自動化が求められます。

業務自動化そのものは目新しい考えではありませんが、なぜここに来て、注目され始めたのでしょうか。

多くの組織が自動化に取り組む理由として、コストの削減と業務の効率化を挙げています。

また、付加価値の高い作業への人員のシフト、人員の時間の有効活用、求められるスキルとのギャップの解消も自動化する理由となっています。

さらに、これまで自動化できなかった非定型的な業務や例外的な作業も自動化できるようになったこと、これまでのように大がかりなシステムを開発することなく、業務フローを見直し、自動化して運用を改善することが、より少ない時間と労力で実現可能になったことなども理由として挙げられます。

つまり業務自動化を推進するのは、自動化技術によるところが大きいと言えます。

技術を活用し、業務プロセス全体を通じて合理化を図り、人の介在を極力減らして業務を実行できるようにすることは、ハイパーオートメーション実践の1つの形であり、現在の自動化の潮流です。

ハイパーオートメーションが継続的にトップ・トレンドとして注目されている理由が、ここにあります。

自動化技術に大きな変化をもたらしたのは、ハイパーオートメーションで提唱されているように、これまでの自動化技術と組み合わせて活用されはじめたAIや機械学習です。

現在の組織は、さまざまな自動化に何らかのAIを活用していると言われています。たとえばIT運用ではセキュリティや脅威の検知に、顧客サービスでは問い合わせ対応の迅速化に向けて問い合わせ内容から適切な担当者へ自動で割り当てるといった活用が見られます。

ハイパーオートメーションを推進する7つの技術

ハイパーオートメーションは、AIに限らず複数の技術の組み合わせで一連の仕事を実現しますが、技術の組み合わせに「正解」があるわけではありません。

できるだけ多くのことを自動化しようとすると、多くの技術要素が必要になります。人の作業を自動化するRPAや、人の判断を自動化するルールエンジン(BRMS)といった自動化技術は、AIや機械学習といった技術を取り込むことで、ハイパーオートメーションを容易に推進できるように発展しています。

ハイパーオートメーショの推進に有用な技術として、主に次が挙げられます。それぞれを簡単に紹介しましょう。

中核となる技術
ワークフロー管理、意思決定自動化、コンテンツ管理、データ・キャプチャ

推進する技術
タスク自動化、プロセス・マイニング、オペレーショナル・インテリジェンス

図表2 ハイパーオートメーションの推進に有用な技術

ワークフロー管理

ワークフロー管理は、あらかじめ定義された業務の流れに沿って、業務の一連の流れを制御し、業務の流れの状況を可視化します。

ワークフローと聞くと多くの場合、いわゆる稟議ワークフローや申請承認ワークフローといった組織の手続き上のワークフローをイメージしますが、ここで言うワークフローはその枠にとどまりません。組織内だけでなく、組織を跨いだ業務の流れや、顧客や取引先とのやり取りも含めた一連の業務の流れを管理することを意味します。

ワークフローとして管理する業務については、現状の業務をそのままワークフロー化するのではなく、業務を標準化し、整流化した業務プロセスを定義し、ワークフローとして自動化していくことが重要です。

タスク自動化

タスクの自動化は、データの入力作業やレポートの作成といった繰り返し発生する作業に対して、RPAのような技術を使って実現します。

現行の作業を大きく変えず、また大きな投資をせずとも自動化できるので、ここ数年で急速に活用が拡大しました。

現場で独自に対応することも多いため、組織として管理されていない自動化が課題となっています。業務や作業の見直しや標準化を含め、自動化を統制管理していく仕組みづくりが重要になっています。

意思決定自動化

意思決定自動化は、チェック作業や判定条件による規定の判断など、人の判断をルールエンジンやイベント処理によって自動化する技術です。

従来の業務ロジックに固定的に組み込まれた意思決定の自動化ではなく、業務の変化に合わせて、システム改修せずに、業務部門で意思決定表を変更可能なので、変更に迅速に対応できることが特徴です。

また蓄積された意思決定結果から、機械学習とAIを活用して新たな判断条件を導き出し、自動判断できる範囲を拡げていけます。

オペレーショナル・インテリジェンス

オペレーショナル・インテリジェンスは、業務プロセスや業務処理をリアルタイムで監視し、業務の実行結果から業務イベントとデータを収集し、機械学習やAIを活用して分析する技術です。

主要業績評価指標(KPI)を提供し、ダッシュボードなどによる可視化にも対応します。人員の最適化や業務プロセスの合理化を狙いに活用したり、トレンドや気象情報など外部の情報と組み合わせて業務イベントの傾向やパターンを識別することで、業務担当者の意思決定に役立てたり、業務の見直しや自動化を促進します。

データ・キャプチャ

紙に書かれた文字をデータとして利用するには、人が読み取って文字に変換し、データとしてシステムに入力する必要があります。非常に効率が悪く、ミスも発生するため再検などの手間もかかっていました。

これを自動化するのが、紙の文書をスキャナで読み込み、記載されている文字を認識してテキスト化するOCRや、デジタル化されているイメージファイルから文字を認識してテキスト化するデータ・キャプチャ技術です。

従来のOCRは、手書き文字の識別や文書のフォーマットの違いに対応することが課題でしたが、その解決に向けて、AIを組み合わせたAI OCRが登場しました。これにより、機械学習による文字認識率の向上や、帳票フォーマットの設計なしにデータ項目を自動抽出することが可能になりました。

読み取った情報が何のデータ項目なのか、システムに入力する必要がある情報はどれか、といったことを識別し、ルールとして生成できるので、人がシステムへ入力する必要のある作業を大きく自動化しています。

コンテンツ管理

コンテンツ管理は、業務で作成・参照される企画書、説明資料や仕様書、画像、動画、顧客からの申込書や取引先への請求書、法定保存が必要な書類といったさまざまなファイルを管理する仕組みです。

いわば人の記憶や知識の代替とも言えます。コンテンツを業務と関連付けて集約し、統合管理することで、必要な情報にアクセスしやすくなります。

管理の負担も減り、セキュリティや情報ガバナンスも高めます。さらにAIによって、適切なタイミングで適切なコンテンツに素早くアクセスできるようになります。

プロセス・マイニング

プロセス・マイニングは、業務担当者の実際の作業を把握するため、アプリケーションが記録するログを対象に、業務プロセスに特化したデータ・マイニングによって、隠れたボトルネックや想定していない業務や処理の流れを検出し、プロセスの見直しや自動化によりプロセスの改善につながる場所を特定するための技術であり、業務をモニタリングし、改善するための分析手法です。

従来の人によるヒアリングでは検出できなかった改善点を客観的に、事実に基づき分析できます。既存の業務プロセスの改善だけでなく、監査にも役立ちます。

ハイパーオートメーションによる自動化は
2つの側面で進化する

ハイパーオートメーションには、「自動化できるものは、すべて自動化すべき」という考えがありますが、それには2つの側面があります。1つは自動化対象となる業務や作業の拡がり、もう1つは自動化する活動そのものの自動化です。

自動化技術は高度化しているのに加え、技術のバリエーションも増え、自動化できる業務や作業の範囲が拡がっています。

業務量が多く、かつ繰り返し作業が多いといった特性を持つ業務をRPAにより自動化するような、特定作業を対象とした「点の自動化」は、多くの組織ですでに取り組みが進んでいます。

次のステップとして、自動化を推進する技術を活用し、人の判断を必要とする複雑な業務の流れを自動化する「線の自動化」に展開する方向へ、徐々に適用範囲が拡がりつつあります。

さらに業務プロセスの実行状況を計測、モニタリングして、その結果を分析することにより、業務プロセス全体を最適化できるようになります。

こうした最適化の仕組みづくりによって、対象業務の種類の拡大や他の業務領域へ展開する「面の自動化」へと進展していくことが期待されています。この段階がハイパーオートメーションです。

一方で、技術の組み合わせの検証や、必要となるスキルや技術が増えたことにより、組織内での人員の育成が追いつかないという課題が大きくなりつつあります。

また自動化する対象が増えていくことで、自動化のための作業量が増えることも課題です。

こうした課題に対応するために、自動化に取り組む活動そのものを自動化していくことが必要です。それもハイパーオートメーションの特徴の1つです。

図表3 自動化の方向性

測定・モニタリング・再評価までを含めた
自動化の全ライフサイクルを考える 

ハイパーオートメーションの重要な点として、「自動化のあらゆる手順 (発見、分析、設計、自動化、測定、モニタリング、再評価) を考える必要がある」ことが挙げられます。

業務プロセスやITプロセスの自動化を推進するにあたり、業務や作業を自動化するだけでなく、自動化した作業が期待していた効果を発揮しているかを計測し、新たに自動化できる対象を見出して自動化していく、というサイクルを考えることが必要です。

測定、モニタリング、再評価のためのシステム的および運用推進体制を含めた仕組みづくりに手間がかかることが、自動化や改善の結果を評価しないままとなっている原因の1つでした。

測定、モニタリング、再評価の手順を実践するに際しては、対象となる業務に関係するシステムに手を加えて測定、モニタリングを可能にするのではなく、プロセス・マイニングやオペレーショナル・インテリジェンスといった技術を活用することで、これまでよりも容易にその仕組みを実現できる下地が整ってきました。

発見、分析といった活動に対しては、計測した情報を可視化するための自動化が大きく進み、また分析のためのツールも提供されつつあります。

しかし、分析そのもののスキルの補完や分析の自動化はまだ十分ではありません。分析すべてを自動化するのではなく、「分析の観点をどうするか」と検討するプロセスで、人の作業が重要になるでしょう。

システム部門では、アプリケーション開発の短納期、低コスト、高品質への対応といった組織内外からの圧力や必要性により、これまで開発作業や運用保守作業の自動化に取り組んできました。

ソフトウェアエンジニアリングの発展に伴い、手作業による変換作業をできるだけなくし、生産性および品質の向上を図ってきました。

設計からソースコード生成やテストの自動化、昨今のローコード/ノーコード開発は、その流れを汲むものであり、技術者のスキルギャップを埋めています。

また、短納期かつ頻繁なサービスのリリースに対応するためDevOpsは必須であり、IT運用ではAIOpsもまた、多くのシステムを運用する組織で必須となりつつあります。

さまざまな技術を活用して自動化を進めるという視点で見ると、これらはITプロセスに対するハイパーオートメーション実践の1例です。

一方で、業務を自動化するために必要な一連の作業は、前述のように記録、モニタリングといった一部の作業で自動化が始まりつつあります。これは、自動化ライフサイクル全体を反復可能にする動きと言えます。

システム開発を効率化してきたように、業務自動化をより効率的に実現するために、自動化する一連の作業そのものをできるだけ自動化することが必要です。

この先、自動化する対象が増えていくことを考えると、この領域の自動化の不足は、業務自動化のボトルネックになる怖れがあります。ハイパーオートメーションを考える上では、この側面を無視できません。

図表4 反復可能な自動化ライフサイクル

反復可能な自動化ライフサイクルの確立が
ハイパーオートメーションの鍵 

現状では、「ある自動化技術を活用することで、どの業務や作業を自動化できるか」に重きが置かれています。

たとえば定型的で業務量の多い作業や繰り返しの単純作業をRPAで自動化する場合、それによって効果が見込める対象を調査、発見、分析して、自動化に取り組んでいきます。

前述の「ハイパーオートメーションを推進する技術」で挙げた技術を中心に、当面はこうした自動化が進んでいきますが、ある程度進展すると、単独技術だけでは自動化できる業務や作業の刈り取りも終わり、投資対効果の面でも限界を迎えます。

もちろん自動化技術自体も複数の技術の組み合わせとして進歩しているため、結果として技術中心で自動化が進む流れが止まることはないものの、今後は「対象の業務をどのように自動化するか」という方法論が変化し、また自動化できる範囲が変わっていくと考えています。

また自動化対象が増えることにより、その自動化を実現する作業がボトルネックになります。業務も常に変化し続けるため、その変化に追随することが求められます。

これに対応するには、前述のように自動化ライフサイクル全体を反復可能にすることが必要であり、これが自動化の今後の大きな変化の1つです。

AIにしてもプロセス・マイニングにしても、業務プロセスに沿って記録される情報が存在しなければ、活用できません。業務実行結果をしっかりと記録・活用することにより、さらにその結果から高度な自動化へ進むことができます。

自動化した結果が期待されたとおりであったか、ほかにボトルネックを生じさせていないか、といった評価や分析、気付きといったフィードバックがあり、それをまた還元することで取り巻く環境の変化に素早く対応する。こうした自動化ライフサイクルの確立が、ハイパーオートメーションを実践する上で重要な鍵です。

技術を活用して
組織が積極的に自ら変革し続ける

ハイパーオートメーションが広く実践されて、多くの業務や作業が自動化されたあと、これまでその作業を担っていた人は何をすべきか。産業革命当時のラッダイト運動の再来はないとしても、仕事を奪われることを心配する人は増えるかもしれません。

しかし、これまで奪われていた時間を自動化によって取り戻し、時間の余裕を得ることで、思考や創造的な作業に時間を使えるようになると期待されています。また人が担う、これまでにない新たな役割が技術によって生み出されることも考えられます。反復可能な自動化ライフサイクルを実践し、より自動化を進めていく担い手となることもあるでしょう。

ハイパーオートメーションは、何かを成し遂げたら到達できるゴールではありません。ハイパーオートメーションを目指すことが重要なのではなく、技術を活用して、組織が積極的に自ら変革し続けることのできる仕組みづくりが重要です。

自ら変革するために、自動化のアイデアの種として技術を捉え、どのように自動化し、変化に対応していくかを考えて実践していく役割も、今後の組織の中では求められるかもしれません。


参考情報

ガートナー、2020年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10を発表
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20191113

世界の AI 導入状況2022 年(IBM Global AI Adoption Index 2022)
https://www.ibm.com/downloads/cas/DOMQ0OWA

著者
北本 和弘氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM コンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド・サービス ワークフロー・デリバリー
エグゼクティブ・アーキテクト
TEC-J Steering Committeeメンバー

金融・保険のお客様の業務変革プロジェクトを通じて、ワークフロー・ソリューションを中心にアーキテクトとして従事してきた。現在は複数のワークフロー・ソリューションをもとに、業務・ITのオートメーションを担当。IBM社内のアーキテクトの育成にも従事している。

*本記事は筆者個人の見解であり、IBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。


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