text:アッシュ・ギディングス Maxava
IBM iのデータやアプリケーションを
クラウド環境に移行する手段
ほとんどの企業は、少なくとも最初の段階では、災害対策または高可用性を目的にクラウドを検討し始めます。そして、「Maxava HA Suite」のようなIBM i向けのレプリケーションツールを利用して、リスクやダウンタイムの軽減を図ろうとします。
最近は開発やテスト用の環境を求めて、クラウドを利用するユーザーも増えてきました。リソース要件が変化しやすいワークロード、あるいは規制や制約の少ないワークロードなども、クラウド利用の候補となります。
IBM iは、クラウド分野ではやや遅れをとってきました。数年前から小規模にスタートしましたが、クラウドという選択肢を検討する企業が増えつつあり、現在はそれが大きな流れに変わってきています。
この流れの変化には、新型コロナのパンデミックが影響しています。バックアップテープの交換といった日常業務は手作業でしか行えませんが、新型コロナが猛威をふるう中、スタッフをデータセンターに出社させることが難しくなり、そのためデータセンターの閉鎖を真剣に考える企業が出てきました。
IBM、Skytap、GoogleなどのパブリッククラウドがPaaS (Platform-as-a-Service)を提供し、さらに従来のマネージド・サービス・プロバイダーがIaaS (Power Cloud Infrastructure-as-a-Service )を提供するなど、クラウドの選択肢も増えています。
パブリッククラウドではOSを選択できますが、これは通常、IBMがサポートする現行バージョン、すなわちV7R3またはV7R4となります。またマネージド・サービス・プロバイダーが提供するプライベートクラウドでは、V7R1やV7R2といった少し古いバージョンを選ぶことも可能です。
どちらの場合も、プリインストールされたライセンスプログラムを豊富に揃えており、追加オプションは有料で利用できます。
どのクラウドを選択するかが決まったら、次の、そしておそらく最大のハードルとなるのが、アプリケーションとデータをクラウドに移行するための最適な方法を決定することです。
クラウドベースのパーティションには、物理的に接続されたデバイスという概念がないため、テープ媒体はこの移行手段の選択肢にはなりません。
IBM iのアプリケーションでは膨大なデータを処理している場合が多く、選択肢は次の2つの要素から検討されます。1 つはデータ量、もう1つは企業がどのくらいの規模のシステム停止を許容できるかです。
開発やテストのように、ダウンタイムをあまり心配する必要のないワークロードを移動する場合、バックアップ&リストアベースのアプローチは十分に現実的な選択肢となるでしょう。
しかしIBM iは世界中で、銀行、金融、製造、ヘルスケア、流通、物流、および通信といった幅広い業種で重要な業務システムを稼働させています。たとえ計画的なものであっても、システム停止は歓迎されません。いったん停止すれば、ダウンタイムの長期化というリスクが高まり、収益や生産性への影響、さらには風評被害や企業イメージの棄損なども懸念されます。
オンプレミスからクラウドへ
本番データを移行する際の課題
BRMS(Backup、Recovery & Media Services)は多くのIBM iパートナーにとって、事実上のバックアップ・ソリューションであり、クラウドへの移行支援に利用できます。しかし前述したように、物理的なテープ媒体は使用できません。
BRMSと有償のIBM Cloud Storage Solutions for i (5733-IC1)を組み合わせる場合は、仮想メディアを使用できます。しかし仮想メディアの性質上、ディスク上の仮想ボリュームへの書き込みを保存するため、バックアップするデータと同じ容量が利用可能なストレージを用意する必要があります。多くの場合、十分なディスクスペースを確保するのは簡単ではありません。
BRMSとIBM Cloud Solutions for iでは、仮想ボリュームをIBM Cloud Object Storage、IBM Spectrum Protect、Amazon Web Services(AWS)またはGoogle Cloud Storageなど、選択したターゲットに自動的にFTP送信できます。
これらはデータを取得し、クラウド上に復元するまでの一時的なロケーションとして使用できます。クラウドプロバイダーは、一時的な代替ロケーションとして使用するための FTP または SFTP サーバーを提供しています。
IBM Cloud Storage Solutions for iは、保存されるデータ量が2TBを超えないような中堅中小規模のユーザーを対象としています。これ以上の大容量データをクラウドに移行したい場合には、「Cloud Mass Data Migration」(IBM)や「Data Box」(Skytap on Azure)などのハードウェアデバイスが用意されています。
これらのデバイスはユーザーへ物理的に発送され、ユーザーはバックアップデータをデバイスに書き込み、クラウドプロバイダーに返送します。クラウドプロバイダーはリストアするために、ユーザーのパーティションでこれらのデバイスを利用可能にします。
もちろんデバイスにバックアップを取得してから、クラウドパーティションへリストアするまでの間に実行されたトランザクションの変更はバックアップデータとして取得されません。バックアップされない期間は、ハードウェアデバイスを物理的に輸送する時間により、数日に及ぶことがあります。
このことが結果として、論理レプリケーションの必要性に気づき、その準備に向けて最初の一歩を踏み出すきっかけになります。
Maxava HA Suiteで
クラウドへのスムーズで安全な移行を実現する
Maxava HA Suiteの基盤であるIBM iの論理レプリケーションは、OSに統合されたリモートジャーナル上に構築されています。データとIFSをほぼリアルタイムに同期し、IBM iのパートナーの間ではHA(高可用性)やDR(ディザスターリカバリー)の選択肢としてもよく知られています。
さらにMaxava HA Suiteを使えば、空のターゲット(バックアップ)パーティションにデータを同期することが可能です。このような方法で最初にターゲット(バックアップ)環境を準備することで、ネットワーク上ですべてを転送する必要がなくなり、クラウドへの移行期間を短縮できます。
ターゲット(バックアップ)クラウドパーティションを準備する際、Maxavaは指定された開始点(通常は完全保存が実行された時点)からデータを同期するように設定でき、移行中はデータおよび全トランザクションを最新の状態に保ちます。
貴重な安全網を提供し、並行でテストできる環境を用意し、移行に伴うリスクを軽減します。データが同期され、サードパーティーのライセンスに適切に対応できることを確認したら、クラウド上のパーティションを本稼働させるためにロールスワップを実行します。
つまり、比較的データ量が小規模であったり、データの保存・転送・復元に時間がかかるような場合でない限り、データ転送(ネットワーク経由もしくは物理デバイスによる)とMaxava HA Suiteのような論理レプリケーションツールの組み合わせが、クラウド移行には必要だということです。
もちろんクラウド移行が完了した後も、Maxava HA Suiteをオンプレミスとクラウド間で利用したり、クラウド間もしくは地域間の耐障害性を高めるために異なるリージョンのクラウド間 (たとえば東京のIBM Cloudと米国ダラスのIBM Cloud)などで継続的にご利用いただけます。
Maxavaサイトはこちら
著者|アッシュ・ギディングス(Ash Giddings) 氏
Maxava
プロダクトマネージャー
◎Maxavaコラム・シリーズ
・IFSのデータのHA・DRを見過ごしていませんか? ~重要性と利用頻度が増すIFSのリプリケーションへの考え方
・Navigator for i、SQLサービスなど、IBM iシステム管理で大きな前進 ~2021年9月の発表をどう見るか|Maxavaのプロダクトマネージャーがコメント