台湾は社会の至るところにシビックハッカーが存在し、その数の多さはアジア最大規模、世界でも3本の指に入ると言われている。
そのシビックハッカーコミュニティの中でも最大規模でいて、社会問題を解決するためにエンジニア以外も広く参加しているのが2012年に設立された「g0v 零時政府(gov-zero)」だ。台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンも、設立時から入閣後の現在に至るまで長年参加している。
そのg0vが2年に1度行うサミットが、台湾南部の古都・台南で2002年12月3日から4日間にわたって開催された。世界中がコロナ禍で苦しむ中、台北から新幹線で片道約1時間半の台南まで来場した人の数およそ500名。そこにリモートによる参加者200名も加わり、全97の熱いセッションやワークショップが行われた。
text : 近藤 弥生子
コロナ禍でもリアルで開催
新型コロナウイルス感染症という厄災に見舞われた2020年、世界的にさまざまなイベントがオンラインに切り替えられたなか、感染拡大の抑え込みに成功している台湾で、サミットはリアルで行われた。残念だったのは海外からの参加者だ。毎回日本を含む海外からも多くの参加者がいるサミットだが、今年はオンラインでの参加・登壇となった。
会場内に入るにはオンラインで健康チェックシートに記入のうえ、入場の際にはその都度両手の消毒・マスク着用、そして食事厳禁が義務づけられていた。
セッションに登壇するオードリー・タンも、健康チェックシートを記入し、提示して会場入りしていた。
(著者撮影、以下同じ)
初となる台南での開催
これまでは台北で行われてきたサミットだが、今年は初となる台南での開催となった。その会場の1つとして場所を提供したのが、日本にまで広く知られることになったコロナ禍での「マスクマップ」を開発した台南在住のシビックハッカー、ハワード・ウー(Howard Wu)の経営するコワーキングスペース「好想工作室」だ。
ハワードはg0vに長年参加しているが、ハッカソンやミートアップなどのリアルイベントはほぼすべてが台北で行われているため、なかなか参加する機会がなかったという。
セッションで司会を務めるハワード・ウー(写真中央)
さまざまなテーマのセッション
g0vは多元性を持ったコミュニティだ。組織ではないので「代表」もいない。よってサミットのテーマも多様性に富んでいる。
今回4日間で行われた全97セッションのうちの60は、およそ260以上のエントリーから公開選抜を経て絞られたものだ。
g0vの設立者である高嘉良(g0vなどシビックハッカー内では愛称「clkao」で呼ばれることのほうが多い)と瞿筱葳(愛称:Ipa Chiu)夫妻は2021年から導入される台湾のデジタル身分証について、国家から監視されるディストピアを想像するワークショップを開催。
g0vの設立者である高嘉良(clkao)と瞿筱葳(Ipa Chiu)夫妻。
台湾の国会に相当する立法院でオープンガバメントを推進する現役ヘヴィメタルミュージシャンのフレディ・リム(Freddy Lim)立法委員も駆けつけ、その難しさなどについて言及した。
台北から駆けつけて登壇したフレディ・リム(左側の椅子に座っている男性)
g0vに参加しているシビックハッカーの中には、その功績が認められて政府にアドバイザーとして招聘されているメンバーもおり、そういったメンバーも自らが政府内で得た見聞をシェアするなどしていた。
筆者がg0vのエースだと思っているロニー・ワン(Ronny Wang)。
これまで政府の各機関にオープンデータを推進するコンサルタントとして幾度となく招聘されている。
台湾にはオープンソースなど技術系のコミュニティが数多く存在し、g0vサミットへの参加者の中にはそういったエンジニアも多かった。g0vは技術ではなく、社会問題をテーマとしているためだ。また、公務員の参加も多い印象だった。ほぼすべてリモートで行われるオープンソースコミュニティの効率的な働き方を、公務においても取り入れてみたいと思って参加したという声もあった。
デジタル担当大臣オードリー・タンらによる基調対談
最終日は、デジタル担当大臣のオードリー・タン、中央研究院の法律所副研究員の陳舜伶、台南社区大学環境行動タスクフォース召集人の黃煥彰の3名による基調対談「台湾のコミュニティが民主を守る」が行われ、司会をオープンカルチャー基金会の李欣穎が務めた。
オードリーは民主を守るために蔓延してはならない3つの感情「無力感」「恐怖感」「怒り」について15分ほどの短いスピーチを行った。
台南という場所で、朝の9時半からの開催だったが、会場は超満員。スーツケースを持って聞きにきている人も少なくなかった。会場で出たQ&Aに回答するオードリー・タン(右写真の中央)。
台湾ならではの宴会「辦桌(ばんどぅ)」
最終日前日の夜には、大宴会が開かれた。
ボランティアによる運営
g0vにはコミュニティとは別に、タスクフォース「揪松團、g0v jothon」という名前の事務局があるが、今のところスタッフは3人。このサミットは彼らを中心にほぼすべてがボランティアによって運営されている。
セッションの同時通訳や手話といった特定の技術が必要となるものは外注されているが、受付スタッフや議事録、撮影、ライブ配信、公式サイトの制作やデザインなどはすべてg0vメンバーによるボランティアだ。
議事録は参加者誰もが「HackMD」上で共同編集できるようになっており、セッションを聞きながら多くの来場者がノートパソコンを広げて議事録を書いていた。
サミットの各セッションの様子は、ライブ映像が「g0v.tw 台灣零時政府」のYouTubeチャンネルでアーカイブ配信されている。「g0v.tw 台灣零時政府」チャネルはこちら。
開催概要
名称:g0v Summit 2020
日時:2020年12月3日(木)〜6日(日)
場所:臺南市美術館2館、国立成功大学内「綠色魔法學校」「C-Hub 創意基地」、好想工作室、 吳園藝文中心(計5カ所)
公式サイト(英語・繁体字中国語):https://summit.g0v.tw/2020/en/
参加費用:リアルフリーパス2200元(学生チケット1500元など各種優待あり)
リモートフリーパス600元
著者プロフィール
近藤弥生子(こんどう・やえこ)氏
台湾在住の編集・ノンフィクションライター。1980年福岡生まれ・茨城育ち。
東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年2月に駐在員との結婚がきっかけで台湾へ移住。現地デジタルマーケティング企業で約6年間、プロデューサーとして日系企業の台湾進出をサポートする。
台湾での妊娠出産、離婚、6年間のシングルマザー生活を経て、台湾人と再婚。独立して2019年に日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を設立。
雑誌『&Premium』(マガジンハウス)、『Pen』で台湾について連載中。個人ブログ「心跳台湾(www.yaephone.com)」では、台湾での暮らし、子育て、仕事のことなど台湾の「いま」がわかる情報を執筆している。
2021年2月には日本でも話題となった台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏への20時間近くにわたるインタビューをまとめた『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』(ブックマン社)を出版。
発行:ブックマン社
発売:2021年2月18日
単行本(ソフトカバー): 304ページ
定価:1980円
ISBN-10:4893089404
ISBN-13:978-4893089403
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*一部書店で限定特典あり(オードリー・タン氏公認のノベルティ)
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