今回は、「変革実現に求められる企業カルチャー」というテーマでお話しいたします。
筆者も変革への取り組みは道半ば、というよりスタート台に立った段階ですので、本内容は唯一の正解としてご紹介するつもりは毛頭なく、仮説に基づく解の1つとして、皆様の参考になればという思いで共有させていただくものです。
また、後続のコラムでご紹介するつもりですが、正解がないのがこれからのDXを実現するプロジェクトの特徴で、解を探すのではなく作り出せる人財が必要な時代になっている、というのが筆者の認識です。
昨今、テクノロジーは経営に影響を与える重要要因であると、多くの経営層がその動向と活用の優先順位に着目しています。その事実は、大手コンサルファームやITベンダーが毎年ユーザー企業のCレベル経営層に対して実施しているサーベイの結果が示しています。
筆者が現在所属する日本CTO協会では、進化するテクノロジーを企業経営に貢献させるための知見を還元する活動を行っています。その活動でも、変革には企業カルチャーの変化が必要としており、その妥当性をできるだけ客観的に訴求しています。
変革に求められる企業カルチャーは何なのかを探るにあたり、その対極にある変革が進まない組織を考えてみました。
私はかつて、ミッションクリティカルなシステムの開発、構築、保守に携わったことがあり、その際に、システムが提供するサービスの安心・安全・安定を求められたことがあります。そしてその解の1つとして、高品質の実現と維持こそがお客様からの期待値であると認識し、当時はそれをサービス提供活動における“一丁目一番地”、最優先事項と考えていました。
その当時、高品質とは何かを考えるために『先にしくじる』(*1)という書籍を参考にしたことがあります。その書籍から学んだことは、対極の発想をすることで得られる気づきは、目的、目標を達成するための理想像を描くのに非常に有効であるということでした。
『先にしくじる』という書籍のおかげで、高品質とは対極の“失敗=低品質になる要因”をシミュレーションしてその事象を起こさないためのアクションを導き出し、それを遂行するという経験ができました。
また最近、サイバーエージェント社のCHRO(*2)のお話を伺う機会があり、その方から、新しい人事施策の立案・発表の前には社員の白けをシミュレーションし、人事施策の妥当性や完成度を高めたという経験談をお聞きできました。これも同様の発想によるアプローチと認識しました。
筆者は、昨年7月に技術革新戦略室という組織を自社内に立ち上げ、その執行に責任を持つCDTO(*3)に就任しました。「高い技術力と人間力を持つ人財育成に貢献し、現場力を向上させ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する新しい武器で社会と自社を新化させる」という目標を掲げる組織です。
CDTO就任以降の活動の中で、筆者自身が社内のDisruptorになっていると日々実感していますが、その体験から、変革を成功させる組織文化の醸成に必要な3つのキーファクターを整理しました。
すなわち変革を成功させる組織文化の醸成に必要なキーファクターを、求める姿の対極を考えることで導き出したのが、次の言葉であり図です。
1.今を疑う
2.高速に仮説を検証する文化醸成と環境の構築
3.経営層自らが考え判断しリードする
今後もご紹介する内容は、筆者の私見だけではなく、客観的事実や有識者の見解と一致する、論拠に基づくご説明を心がけます。しかし限られた字数でのご紹介ゆえ、必要十分な論拠情報を示しきれないことを懸念するとともに、あらかじめご容赦をお願いします。
次回以降は、変革実現に求められる企業カルチャー(仮説)を実現するために、日本CTO協会において企業カルチャーの変革に重要であると訴求しているポイントの一部をご紹介します。また経営層の意識改革を後押しする経団連や経産省の取り組みもご紹介しようと思います。
さらに、DXプロジェクトがこれまでのプロジェクトと異なり難しい理由と、それにより変化を迫られるチームマネジメントのあり方についても、企業カルチャーが変革実現に必要とされる理由の1つとしてご紹介したいと思います。
そして、企業経営の変革に必要とされる3つのエンジン、これから取り組むべき3つのトランスフォーメーションロードマップの仮説をご紹介していければと思っています。
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*1 『先にしくじる』山崎裕二著、日経BP刊
*2 CHRO:Chief Human Resource Officer
*3 CDTO:Chief Digital Transformation Officer
著者
田中良治
株式会社ソルパック
CDTO 上級執行役員(一般社団法人CTO協会所属)
プロジェクトdX|実現を支えるプロフェッショナルの流儀は人間力
第1回 今こそ変革の武器に! 日本企業の持つ強みは元サッカー日本代表監督イビチャ・オシム氏も評する“現場力”