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プロジェクトdX|農業DXの実証実験の中で考える「DX人財に必要なコミュニケーションスキル」(田中良治)

経営には予測と準備が欠かせません。デジタルトランスフォーメーションを目指す我々にとって、テクノロジーの進化、特にAIの進化によるデータを活用した意思決定支援は、経営のための予測と準備に大きな力となると考えています。

弊社ソルパックの沖縄拠点では、新規事業創出への挑戦として、データを活用したスマート農業、農業DXの実現に取り組んでいます。まだ開発段階にありますが、このほどその実証実験を開始しました。

実証実験は、営農に必要なデータを収集してそれを基に営農の意思決定を支援し、農業DXを実現しようというものです。今回のコラムは、この取り組みで得た“Findings”を皆さんと共有させていただきます。

今回使用する営農アプリは、「圃場」(ほじょう、農産物を育てる場所)における温度・湿度・照度・水分などのデータをセンサーで取得し、それを情報として「日記」に記録できるものです。そして取得したデータを過去の実績データと掛け合わせて学習させ、その結果を予測として意思決定支援に利用します。

 

営農アプリで使用するテクノロジーのコアはAIです。実証実験では大規模言語モデル(LLM)と生成AIをフルに活用しています。

LLMと生成AIを使い倒すには、プロンプトエンジニアリングが重要になります。その前提となるデータを学習させるためのテクノロジーは成熟してきていると認識しています。

プロンプトエンジニアリングは、人がAIとコミュニケーションするためのスキルとして、デジタルトランスフォーメーションの実装・実現を目指す人にとって、今や必須のスキルと考えられます。ここではその理由と難しさについてフィードバックします。

プログラミングは、人がコンピュータを利用するためのコミュニケーション・スキルと捉えることが可能です。そう考えると、プログラミングはコンピュータにわかる言葉を用いて漏れなく情報を伝えることがキーアクションとなります。論理的な思考に基づいて開発されたプログラムによって、コンピュータは初めて正確に動作するのです。

AIも同様です。最適なプロンプトがあって初めて、意思決定を支援する有益な情報を還元してくれるのです。

プログラミングとAIに共通する重要なファクターは、人は身ぶり手ぶりで情報を補完しつつコミュニケーションできますが、コンピュータとAIにはそれができないということです。言い換えれば、人は暗黙知化した肉体を使って情報を漏れなく伝えることができますが、コンピュータとAIにはそれができません。

プログラミングのための言語は機械語のようなコンピュータにしかわからない言葉から始まり、人が理解しやすい現在の高水準言語とも呼ばれるプログラミング言語へと進化してきました。

プログラミング言語は多くの人にとって利用しやすいものになり、今や国語や英語と並ぶコミュニケーションのための重要な知識として、低年齢層の学校教育においても義務化されています。このことは社会のニーズを反映した当然の動きと言えるでしょう。

一方AI分野では、生成AIと大規模言語モデル(LLM)が登場し、プロンプトという人が理解できる言葉でコミュニケーションできるようになりました。このことからAIはプログラミングよりもハードルが低くなったと思えるところがあります。しかし言葉しか理解できないAIとのコミュニケーションは、これまで我々が経験したことのない新しいコミュニケーション方法やスキルを必要としていると考えられます。

実証実験が始まりましたが、農家の方々からは変革に対する強い意欲ばかりが聞こえてきます。農家の方々が、自分たちがどう変わればいいのかについて聞く耳を持ってくれていたことは、私たちの挑戦に大きな勇気を与えてくれました。

その一方で私たちソルパックは、責任と誠意ある姿勢で取り組み、農家の方々から信頼を獲得できなければ一歩も前へ進めない、ということを痛感しています。

実証実験では、テクノロジーで正解を求めるという技術的側面は当然のことながら、農家の皆さんに貢献しようという熱意と自分事として取り組む真剣さが必要で、それを何よりも優先させなければなりません。覚悟を新たにして、挑戦を継続していくつもりです。

著者
田中 良治 氏

株式会社ソルパック
取締役CDTO
(沖縄経済同友会、一般社団法人日本CTO協会、一般社団法人プロジェクトマネジメント学会所属)

プロジェクトdX|実現を支えるプロフェッショナルの流儀は人間力  ◎コラム掲載

第1回 今こそ変革の武器に! 日本企業の持つ強みは元サッカー日本代表監督イビチャ・オシム氏も評する“現場力”

第2回 変革実現に求められる企業カルチャー(前編) ~対極の発想をする

第3回 変革実現に求められる企業カルチャー(後編)~経営層の意識改革

第4回 DXプロジェクトがこれまでのプロジェクトと異なる理由

第5回 迫られる企業経営変化への対応と変革に必要とされる3つのエンジン

第6回 これから企業が取り組むべく3つのトランスフォーメーション・ロードマップ 

第7回 デジタル先進企業へ進化するための3つのポイント

第8回 デジタルトランスフォーメーションで高度化する事業活動

第9回 DX人材になることは自身の意識改革? Behavior Transformationかも?

第10回 DXと千羽鶴 変わる勇気と変わらない勇気

第11回 デジタルトランスフォーメーション実現には、人材育成変革が必然

第12回 デジタルトランスフォーメーションへの挑戦 ~ソルパックの取り組み、その先の真の変革

第13回 2022 FIFA ワールドカップに見る「デジタルトランスフォーメーションがもたらした勇気」

第14回 Jリーグ30年に学ぶ、リスキリング(学び直し)の必要性

第15回 「当たり前」を当たり前と思わないーーそれが変革を生みだすスタート

第16回 来間島の持続可能性を考える“寄り合い”に参加して

 

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