今回は、前回のコラムでご紹介した“島とデジタル”座談会に出席した際のことを振り返るところからスタートしたく思います。
私にとってこの座談会は、カーボンニュートラルの実現や環境課題の解消に向けて、デジタルへの期待を理解するよい機会となりました。またIT業界での経験や学んできたことは、社会が持続していくうえでの課題解消に貢献可能なことも再認識できました。そこで、そうした課題解消に貢献できる人材に求められること、発揮を期待される能力について、以下のように整理してみました。
1.柔軟な発想
2.課題解決、問題解決能力
3.これまでの常識や過去の成功ばかりにとらわれない
4.失敗しても成功するまで、それを乗り超える精神力と振り返る分析力
上記1、2は、製品や技術の仕様を知っていても、それをそのまま適用するプロダクトアウトのアプローチではお客様のデマンドやニーズの実現には不十分で、その実現にはテクノロジーを組み合わせて方法・方式を創出する創造的な応用力こそが、これからの人材に、今風に言えばDX人材に求められるということです。
座談会ではデジタルへの期待やデジタルで解決できないかと望まれていることを数多くお聞きでき、個客(人)のデマンド、ニーズはこれまでになく高度化し多様化していることを再認識しました。
今回のコラムでは、そんな今の時代にこそ求められ、最近、新聞などでも目にする「リスキリング」(学び直し)の必要性について触れてみたいと思います。
高度経済成長期の舞台は“昭和”でした。そしてその後の30年については、“失われた30年”とか“失った30年“と表現されることがあります。後者は、失われたのではなく、自責によって失ったということです。私は後者に近い感覚をもっています。未来を思い描く努力と工夫と挑戦を怠った30年間と思える部分があるからです。
ただしそんな平成の時代にも、それまでの日本にはなかったビジネスモデルを打ち出して成功した取り組みがありました。数は少なくとも「成功」と認め得るリファレンスモデルがあったのです。Jリーグはまぎれもなく、その1つであったと思います。
Jリーグは今年(2023年)30年を迎えました。Jリーグのこの30年間は、“失われた”とか“失った”どころか進化をし続けた年月で、輝かしい30年と言うことができます。それは地域に密着して粘り強く貢献を続けるとともに、「Jリーグ100年構想」というビジョンを一方で掲げて、先を見据えたビジネスモデルを追求してきたからにほかなりません。
地域創生は、今でこそ日本が解決しなければならない重要な課題です。しかしJリーグは30年前のスタート時からその重要性に着目し、先行して取り組んできたのです。Jリーグはそのことだけでも大きな賞賛に値します。
Jリーグの発展には、そのコンテンツであるプレーヤーの質に支えられた試合の面白さがあります。そしてJリーグのスタート当初は、地域創生のための地域に根差した多数のチームと、それを支える競技人口の確保が不可欠でした。
Jリーグでは、競技人口の確保と競技の普及には、何をおいても選手の育成が重要と考え、育成システムの充実に日本サッカー協会とともに取り組んできました。そしてJリーグの各チームは、若年層の選手の育成に貢献してきたのです。
その育成システムの充実・整備によって、日本のプレーヤーは世界で通用するまでに成長し、ワールドカップや世界最高峰と言われるヨーロッパのトッププロリーグで活躍する姿が見られるようになりました。
しっかりとした育成システムの構築には、将来を見据えた継続的なアップデートが必要です。Jリーグは、コーチングスタッフや世界で通用するプレーヤーを育成するためのカリキュラムを継続的にアップデートし、そのために多くのリソースを投入し投資を継続してきました。Jリーグはそうした投資に躊躇しなかったのです。
現在のプレー環境は、私がサッカーをやっていた頃(Jリーグ以前)とは比較にならないほど整備され、継続的な投資を実感できます。
大きな成果を勝ち取るためには、将来を見据えた投資が必要です。それは言わずもがなですが、高度経済成長後の失われた30年、失った30年に多くの経営者が将来を見据えた投資に躊躇したことは明らかです。
今、どの企業でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が急務の課題です。そのことは、DXに必要なスキルを学び、変化に応じて学び直し(リスキリング)を続け、そしてそれへの投資を続けることが課題、と言い換えることができます。
ほんの数年先のことではなく、多くの人に必要な未来を実現するために、将来にわたって学び直し続けることの重要性は、Jリーグに成功をもたらしたビジネスモデルをリファレンスにすると腹落ちしやすいのではないかと思います。
何を学ぶべきかは、将来に必要とされるモノ・コトを考えたうえでの判断です。昭和の高度成長期には、学校教育の整備により、ある一定のスキル・知識をもった人材が大量に育成され、高度経済成長を後押ししました。
これからのデジタル人材、DX人材の育成は、正解が特定しにくい不透明な領域です。それゆえに、今までの延長ではない取り組みの中で新しいスキルを学び、学び直し(リスキリング)を続けることが必要なのです。
私はそうした中で、デジタルトランスフォーメーションによってもたらされる新しい仕事のための能力の育成とともに、冒頭で紹介したデジタルトランスフォーメーションそのものを遂行するための4つの能力に長けた人材の育成こそが、何よりも優先されるべきと考えています。
著者
田中 良治 氏
株式会社ソルパック
取締役CDTO
(沖縄経済同友会、一般社団法人日本CTO協会、一般社団法人プロジェクトマネジメント学会所属)
プロジェクトdX|実現を支えるプロフェッショナルの流儀は人間力 ◎コラム掲載
第1回 今こそ変革の武器に! 日本企業の持つ強みは元サッカー日本代表監督イビチャ・オシム氏も評する“現場力”
第2回 変革実現に求められる企業カルチャー(前編) ~対極の発想をする
第3回 変革実現に求められる企業カルチャー(後編)~経営層の意識改革
第4回 DXプロジェクトがこれまでのプロジェクトと異なる理由
第5回 迫られる企業経営変化への対応と変革に必要とされる3つのエンジン
第6回 これから企業が取り組むべく3つのトランスフォーメーション・ロードマップ
第8回 デジタルトランスフォーメーションで高度化する事業活動
第9回 DX人材になることは自身の意識改革? Behavior Transformationかも?
第11回 デジタルトランスフォーメーション実現には、人材育成変革が必然
第12回 デジタルトランスフォーメーションへの挑戦 ~ソルパックの取り組み、その先の真の変革
第13回 2022 FIFA ワールドカップに見る「デジタルトランスフォーメーションがもたらした勇気」
第14回 南の島ですすむ持続可能な社会への挑戦 ~「島とデジタル」座談会に参加して
[i Magazine・IS magazine]