日本IBMは2月17日、IBM Institute for Business Value(IBV)が実施した最新の調査「経営層スタディ・シリーズ:CIO スタディ 2021」の日本語版を公開した。
同調査はここ19年間にわたって実施されており、今回は2021年5~9月に世界45 の国や地域で29業界に及ぶ2500名の最高情報責任者(CIO)と 2500 名の最高技術責任者(CTO)を対象に、オンラインでのインタビューを実施した調査の結果となる。
今年のタイトルは、「CIO革命:障壁を打ち破り、価値を生み出す」。
新型コロナによるパンデミックは企業のビジネスモデルやプラットフォーム、バーチャルオペレーションモデルを大きく変革してきたが、その変化の波はCIOやCTOの役割や職責にまで及びつつあることを同調査は明らかにしている。
IBV が実施した別の調査でも、3000名のCEOに、「組織の中で最も重要な役割を期待するのはどの分野の役員か」と尋ねたところ、CIOとCTOがともに上位3位以内にランクインした。
とくに高業績企業では、テクノロジー・リーダーはCFOに次ぐ第2位に挙げられている。このことは、CIOの果たす役割がかつてないほど重要になっている事実を浮き彫りにしている。
パンデミックによる変化とテクノロジーの活用状況
クラウドに続く今後のテクノロジーの投資分野としては、「IoT」と回答したのが60%でトップ。さらに「自動化」(59%)、「5G」(49%)、「AI」(48%)、「サイバー・セキュリティー」(40%)と続く(以下、図表の出典はすべて「経営層スタディ・シリーズ:CIO スタディ 2021」)。
また主要テクノロジーの成熟度向上を問う質問では、トップが「ハイブリッドクラウド運用」で、2019 年に比べて700%増加した。
続いて、「デジタル・プロセスの自動化」や「AI を活用したワークフロー」が高く、2019 年と比べて560%増加。さらに「クラウドネイティブ開発」(2019 年から 467% 増加)、「クラウドネイティブ導入」(2019年から327%増)、「データ洞察とAI」(2019年から292%増)が並ぶ。
コロナ発生前の2019年に比べると、クラウドやAIなどの主要テクノロジーを導入する組織が飛躍的に増加したことがわかる。
テクノロジーに期待する分野も変わってきている。今後 3 年間でテクノロジーが最も大きな影響を与えると期待される分野として、テクノロジー・リーダーたちが首位に挙げたのは、サステナビリティー(42%)であった。
さらにパンデミックが組織にどのような変化をもたらしたかを問う質問では、「パンデミックによって予期せずスタッフが欠勤し、重大な問題につながった」との回答が83%でトップ。
2位が「自分が率いるチームはパンデミックへの対応において、極めて重要な役割を果たした」で、回答者の77%が、新型コロナへの対応で自身のチームが重要な役割を担うようになったと評価している。
さらにこのあと、「アベイラビリティー(可用性)やキャパシティーに関する深刻な問題が事業継続に影響を及ぼした」(71%)、「サプライチェーンの問題のために、ビジネス・オペレーションに混乱をきたした」(70%)と続く。
ちなみに興味深い点として、「パンデミックによるリモートワークへの移行は、恒久的なものになる」と予想したCIOが23%にとどまったことが挙げられる。つまりリモートワークへの移行は、職場の大部分でこのまま継続されるだろうと考えるCIOの割合は、23%にすぎなかった。
これに対して、同時期に行われた IBV の別の調査では、従業員の39%が自宅またはリモート環境のみで働きたいと答えており、27%がハイブリッド・モデルを希望。CIOと従業員の間で意識の乖離が見られる。
さらに2021 年に自発的に転職した、またはしようとしている従業員の半数以上(56%)は、その主な理由として、スケジュールや勤務地に柔軟性を持たせたいからだと回答している。
このことから、現在の「大量退職時代」では、従業員の目から見て効果的なテクノロジーやアプリケーションと生産性が高いコラボレーション戦略をCIOが導入できるかどうかが、人財獲得競争で大きな優位をもたらす可能性があると指摘している。
ちなみに「リモートワークを成功させるためには」を尋ねる質問では、回答は以下のようになった。
完全なバーチャル環境でも十分にビジネスを行えると回答したCIOは 34% であった。これは業種で違いがあり、ITサービスでは60%、金融市場では 50%であったのに対し、石油では12%、工業製品では 18%、ライフサイエンス・製薬では19%と、製造分野では低い傾向にある。
CIOに期待される3つの職責と行動指標
CIO の担う役割は業界や組織によってさまざまであり、その責任の範囲や、部門の規模、成熟度、経営層の権限、また企業戦略の確実性によっても変わる。
CIO が他の経営層と比較して、自らの職務をより明確に把握できるように、IBVではCIO のタイプを「部門横断的なファシリテーター」「クリティカル・オペレーター」「ビジョナリー・ビルダー」の3つに区分している。
また、今後CIOが担う役割やCIOとCTOの役割分担にフォーカスし、職責にかかわらずすべてのCIOに適応可能な以下の行動指標を提言している。
◎組織における自らのポジションを確保し、テクノロジー・リーダーとしての影響力を高める
◎複雑な課題に正面から取り組み、独自の能力を最大限に発揮して価値の向上を目指す
◎フォース・マルチプライヤー(force-multiplier:力を増強させる存在)になり、最新テクノロジーやインテリジェントなプロセス、および大胆な人財登用によって、ダイナミズムを生み出す
「経営層スタディ・シリーズ:CIO スタディ 2021」日本語版
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