専任組織を設け
AI事業を4月からスタート
日本電通、NDIソリューションズ、三洋コンピュータ、NNC、四国システム開発、エス・アイ・シーの6社から成る日本電通グループでは、2017年3月にIBM Watsonを活用するチャットボット製品「CB1」、9月にその上位製品「CB2」の販売を開始し、顧客へのアプローチとサービスの拡充を進めてきたが、この4月に専任組織をエス・アイ・シー内に設けて「AIソリューションサービス事業:AI-labo」を立ち上げ、新たなスタートを切った。
同事業は、AIを中心とした先進技術の応用研究とその関連ソリューションの提供を柱としている。その特色について、日本電通の取締役 常務執行役員の岩井淳文氏(NDIソリューションズ 代表取締役社長を兼務)は、次のように語る。
「CB1とCB2を1年にわたって推進し、チャットボット市場の開拓に取り組んできてわかったのは、チャットボットを基幹システムと連携させたいというご要望が非常に多いのにもかかわらず、市場には基幹連携ソリューションをもつチャットボット製品がきわめて少ないことと、PoCの手間と工数が大きく、かつ十分な成果を得られないために本番への移行を断念されるケースが多く見受けられることでした。当社および当グループはISVパッケージのカスタマイズを中心とした基幹系のSIビジネスを長く行ってきた背景があり、基幹システムとの連携はお手のものです。また、チャットボットを実際に自社の業務に適用し、知見を蓄えてきた経緯もあります。ISVパッケージとチャットボットや他のAIソリューションとの連携、当グループ内の業務でPoCおよび効果検証済みのAIソリューションのご提供、中堅・中小企業へのフォーカスの3つを柱にスタートしたのが、AIソリューションサービス事業です」
CB1は一問一答型のチャットボットツールで、QA作成、運用管理、コーパス(学習データ)などの標準機能のほかに、さまざまなオプションを用意している。なかでも、基幹連携の対象として多数の外部サービス/製品をそろえているのが特徴だ(図表1)。この基幹連携には、システム連携アダプタを豊富に備えるDataSpiderを利用する(奉行シリーズとの連携には「Tsunagu for 奉行」を使用)。
「たとえば、チャット画面で『A商品の在庫数は?』と問い合わせると、その文言がトリガーとなって基幹プログラムをキックし、基幹データベース上の数量を参照して『A商品の在庫は、X倉庫に100、Y倉庫に200あります』と回答するようなチャットボットを、短期間に手軽に開発できます」と語るのは、NDIソリューションズの増田浩和氏(企画マーケティング部 部長)である。
CB2は対話型のチャットボットツールで、ユーザーの質問を絞り込んで応答メッセージを返したり、Watsonが提示する応答メッセージの確信度が低い場合は、ユーザーに聞き返したり複数の回答候補を提示するなど、柔軟なチャットボット・システムの開発が可能である。オプションは、RPA連携を加えているほかは、CB1と同様だ。
CB1とCB2のチャットボット機能の違いは、AIエンジンの違いによる。CB1はWatson NLC(Natural Langu
age Classifier:自然言語分類)で、CB2はWatson NLCのほかに複雑な対話シナリオを構成可能なConversation(現IBM Watson Assistant)を備えている。
CB1の月額料金は、IBM Cloudの利用料を含めて29万7500円。このほか、導入時の「CB1環境開発・導入支援サービス」と3カ月間のトライアル利用が可能な「CB1 PoCトライアルパック3カ月」があり(いずれも個別見積)、現在は人事・総務コーパステンプレートの提供も顧客向けに始めている。
自社業務へ適用し
その知見をもとにツールを自社開発
チャットボットの自社業務への適用は、人事・総務・経理部門における社員からの問い合わせ・回答業務と、機械保守業務を対象に実施した。ツールとして利用したのはCB1である。
人事・総務・経理部門への問い合わせ・回答業務ではFAQが整備されていなかったので、その作成から着手した。この作成に要したのは約3カ月。一方の機械保守業務ではFAQ集があったので、約1カ月で試行レベルの運用フェーズへ進むことができた。
ただし、どちらの業務でも、FAQをCB1に投入しただけでは正解率が低く、学習データのチューニングを繰り返すことよって実用レベルへ引き上げている。「人事・総務・経理部門への問い合わせ業務では、FAQを投入した当初は55%の正解率しかありませんでしたが、3回のチューニングを行うことによって93%まで向上させることができました」と、増田氏は振り返る。
同社は、このチューニングの経験と知見を踏まえて、「AI精度可視化ツール」を開発した(特許取得済み)。学習データ内の質問と回答の相関関係を可視化して(図表2)、両者を結ぶ線の距離と太さで確信度を示し、チューニングすべきポイントを特定できるツールである(中心の球が「回答」、その球につながる複数の球が「質問」)。
[図表2]AI精度可視化ツール 画面
「線が細く長いのは、確信度が低い関係を示しています。球をクリックすると質問や回答が表示されるので、そこで文章やフレーズを修正し再度ツールにかけると、修正による確信度の向上や低下を確認できます。学習データのチューニングは従来、手探りで行われていましたが、数値に基づくAI精度可視化ツールを使うことによって、チューニングを非常に効率的に行えます」と、ツール開発に携わったエス・アイ・シーの佐伯徹氏(AIソリューションサービス事業部:AI-labo 先進R&D プリンシパル)は説明する。
同社では、AI精度可視化ツールをCB1・CB2のユーザーに提供していく考えで、現在その提供方法を検討中という。
「チャットボットの導入で最初につまづくのは、学習データの作成とチューニングです。AI精度可視化ツールを幅広く使っていただくことによって、チャットボットの導入をスムーズに進めていただくのが当グループの狙いです」と、岩井氏は話す。
[IS magazine No.19(2018年4月)掲載]