
本州化学工業株式会社
本社:東京都中央区
創業:1914(大正3)年
設立:1949(昭和24)年
資本金:15億50万円
従業員数:366名 (2024年3月末現在)
概要:液晶ポリマー(LCP)、特殊ポリカーボネート樹脂および特殊エポキシ樹脂などの高機能樹脂の原料、電子材料、医薬品、農薬などの原料となる各種化学品の製造および販売
https://www.honshuchemical.co.jp/
クラウドへの全面移行か
オンプレミス−オンプレミスか
化学メーカーと一言に言っても、原料を精製し基礎化学品を製造する企業、そこからさまざまな機能をもつ中間材料の原料を作る企業、それを元に各種産業で使用する部品や消費者が手にする商品を製造・販売する企業、と非常に多くの企業が存在する。
本州化学工業は、高機能、高付加価値を付与するファインケミカルの分野で、中間原料の研究開発から製造までを一貫して行う会社で、その原点は1914(大正3)年に設立された由良精工合資会社まで遡る。日本で初めてアニリン、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA、トリメチルフェノールを独自に開発するなど、わが国の化学産業発展の先駆けとなった企業である。
パイオニア精神は受け継がれ、現在、独自技術を活かした高品質で特徴ある本州化学工業のファインケミカル製品は、情報通信から自動車、医療、農業まで幅広い産業分野で使用されており、製品数は500品以上にも及ぶ。
本州化学工業は、世界トップクラスのシェアを誇る「電子材料」「特殊ビスフェノール」「ビフェノール」「クレゾール誘導品」の4事業を中心として、国内外の幅広い産業に対して積極的な事業活動を展開している。
世界で本州化学工業だけが製造している製品、数社しか手がけていない製品も数多く有しており、保有技術を最大限に活かし特徴あるファインケミカル製品を生み出す会社であることが特長でもあり、同社の強みである。
同社は2006年、業務知識やIBM iのノウハウをもつベテラン社員の退職を機に、基幹システムのブラッシュアップを行った。これにより「コードの統一化、在庫管理の強化、決算業務の早期化、パソコン連携の向上、帳票数の削減などを実現し、業務効率と生産性の向上を目指しました」と、和歌山工場 管理部 情報システムグループ グループリーダーの鈴木秀紀氏は話す。

鈴木 秀紀 氏
和歌山工場 管理部
情報システムグループ
グループリーダー
同社はそれ以降、その再構築したシステムを保守・改修しながら利用を継続してきた。そして2024年12月に実施したPower 8サーバーからPower 10サーバーへの切り替えは、「Power 8サーバーの延長保守サービスが行われなくなったため」と、和歌山工場 管理部 情報システムグループの仁科暢夫課長職は、次のように説明する。
「Power S814は約10年使用してきましたが、次期システムの方向性を固めるまで、延長保守サービスを利用する予定でした。ところが同サービスが実施されなくなったため(保守サービス終了は2024年5月31日)、急遽、次のサーバーの検討を始めました」

仁科 暢夫 氏
和歌山工場 管理部
情報システムグループ
課長職
検討の主な内容は、オンプレミスで利用してきたIBM iベースの基幹システムをクラウドへ移行するか、オンプレミスーオンプレミスで移行するか、であったという。
「その結論は、重要データを扱う社内の別システムとIBM iが密接に連携しているため、IBM iをクラウドへ持っていくと運用が複雑になり使いづらくなるため、オンプレミスーオンプレミスの移行としました」(仁科氏)
また同社では、基幹サーバーの移行と並行して、IBM i上のデータの新しいバックアップ方法について検討を進めていた。
従来の方法は、IBM iにバックアップ専用ストレージ「Data Domain」を接続して日次でバックアップを取り、月次でテープへフルでデータのバックアップを取って、そのテープを保管業者の遠隔地の拠点で保管するというものであった。
「しかしData DomainをPower S814と同じラックに配置していたので、真のBCP対策とは言えない状況でした。また、テープへのフルデータバックアップは手動で行う必要があり、さらに保管業者への受け渡しなども手間がかかっていました。これらの課題を一挙に解決する方法を模索していました」と、仁科氏は振り返る。
また仁科氏は、「せっかく新しいバックアップ方法を導入するのなら、クラウドへのバックアップなど新しい仕組みを導入したいという気持ちがありました」と、当時の考えを述べる。
同社では次のシステム基盤をPower 10(Power S1014)としたことから、システム移行と新しいバックアップ方法の検討を1つのプロジェクトとして進めることとした。
同社が選択した新しいデータバックアップの方法は、オンプレミスのPower S1014上にIBM iの仮想テープ装置環境を設定し、その仮想テープ装置へバックアップしたデータをIBM Cloud(大阪リージョン)上のICOS(IBM Cloud Storage)へ転送するというものである。
IBM Cloudでは、リージョン間のデータレプリケーションは無料である。そして大阪リージョンと東京リージョン間は2ミリ秒以下の低遅延かつ1Tbps以上の広帯域ネットワークで接続されているため、大阪リージョンで保存したデータを東京リージョンへ転送して保管すれば、バックアップデータの遠隔地保管を容易に実現できる。
同社では、IBM i上のデータのバックアップの取得からICOSへのエクスポートまでの一連の仕組みを、MONO-XのIBM Cloud利用支援サービス「PVS One」とデータ連携ツール「API-Bridge」を用いて構築した。
MONO-Xの支援を受けた仁科氏は、「移行スケジュールの設計からバックアップデータの実装、移行実施などの作業をMONO-Xに委託しましたが、2024年8月のPower S1014の設置から12月のマシン切り替え、サービスインまでスムーズに進み、当社が新しいバックアップ方法導入の目的とした、真のBCPと運用の効率化を実現することができました」と、評価を語る。
Windowsファイルは
Azureへのバックアップ
同社ではまた、今回のIBM iシステムの更改/新しいデータバックアップシステムの導入とは別に、オンプレミスのWindowsサーバーで行っていたWindowsファイルのバックアップをAzure上のストレージへバックアップする仕組みに切り替えた。
担当した和歌山工場 管理部 情報システムグループの中塚幸宏氏は、「AzureのSharePoint Serverへのバックアップですが、手軽に使えるツールも揃っていて、スムーズに新しい仕組みへの移行が行えました。これで業務データをクラウドでバックアップするという当社の新しい仕組みが整いました」と話す。

中塚 幸宏 氏
和歌山工場 管理部
情報システムグループ
[i Magazine 2025 Spring掲載]