POINT
・災害対策用のバックアップ機と「ORION HA」を導入
・毎年2月に定期的な切り替え訓練を実施
・震災直後の計画停電に対応しバックアップ機へ切り替え
二重化体制の運用から2 年
計画停電で切り替えを実施
東芝ライテックは1989年、東芝の照明事業部門が分離独立し、東芝電材、東輝電気と統合することで誕生した。日本で最初に白熱電球・蛍光ランプの実用化に成功した東芝の照明技術を継承し、多彩なラインナップを誇る。その中でも現在の主力製品は、商業施設やオフィスや官公庁、病院など、施設照明を核にした発光ダイオード(LED)照明である。
東日本大震災以降、消費電力を抑制できるLED照明の普及が進み、節電意識の高まりもあって、同社でもLED事業が急拡大中だ。ちなみに東芝は2010 年、仏ルーブル美術館に約4500 台のLED 照明器具を提供する契約を締結したが、これらの製品も東芝ライテックが製造している。
販売管理システムを中心にした同社の基幹システムは2001 年、国産汎用機からAS/400 へ移行した。さらに2008 年からは、本番機をSystem iへ更新したのと同時に、災害対策用のバックアップ機として、もう1 台のSystem iを導入。HAソリューションに、「ORION HA fori5/OS」(イグアス、以下ORION)を採用し、二重化体制を構築している。
「当時、東芝グループ全体で災害対策への取り組みが本格化していました。当社でも2007年度の中期計画で、バックアップ機の導入による災害対策の実施を掲げ、2008 年4 月からプロジェクトを開始しています」と、当時を語るのは経営戦略部ISセンターの三浦章典センター長である。
神奈川県の本社にある本番機に対し、バックアップ機は東芝グループが利用する関西のデータセンターに設置した。完全二重化体制による運用がスタートしたのは、2009 年2 月からである。
それから約2 年後の2011 年3 月、東日本大震災直後の計画停電に緊急対応するため、実際に本番機からバックアップ機への切り替えが実施された。
その経緯を、以下に見てみよう。
定期的な切り替え訓練が奏功
約3 時間で作業を終了
本社工場を併設する神奈川県横須賀市の敷地内は、電源系統が2 系統に分かれている。3月11日の震災発生直後、敷地内の主要な工場棟や事務棟は翌朝まで停電したが、基幹システムであるSystem iなど、重要なサーバー群が置かれたコンピュータルームの入る建 物は電源系統が異なるため、停電を免れた。
つまり、System iはシャットダウンすることなく稼働を続けていたのだ が、13 日に東京電力が計画停電の実 施を発表。本社の電源系統はどちらも、翌日予定される停電実施地域に含 まれたため、同日午後4 時から緊急対 策会議が開かれた。出勤体制の変更な どに加え、重要な議題となったのが本 番機の停電対応である。
すぐさま基幹システム運用の主担当 者とグループマネージャー、グループ 会社のスタッフなど約10 名が本社に 招集された。IS企画担当の折山英裕 グループ長(経営戦略部ISセンター) と、システム第一担当の目黒静也主務 (同上)も連絡を受け、午後7時過ぎに 本社に駆け付けている。
会議に参加していた三浦氏は、計画 停電による業務停止のリスクを回避す るため、招集メンバーと本番機の切り 替え訓練の実績範囲や切り替えリスク などを確認の上、午後9 時頃、その日 のうちに切り替えることを決定した。
切り替え決定後、直ちに準備に着手し、午後10時から、運用している3つのLPARのうち本番区画をバックアッ プ機へ切り替える作業がスタートした。同社ではORION導入時に切り替え訓練を何度も繰り返したほか、毎年2月に必ず切り替えテストを実施し、 そのたびに手順マニュアルも書き直してきた。基本的には本番機側だけの作業で、バックアップ機側はリモートで操作可能になっている。
「3 月13 日の切り替え時は、その前月 に実施したテスト内容が記憶に新し かったこともあり、迷いなくスムーズ に作業が進みました。切り替えを決定 してすぐ、JBグループのサポート部 門に連絡し、リモートでの支援を受け ました。ただとくに電話で確認する事 項もなく、訓練時と同じく約3 時間で 作業を終えました」(折山氏)
切り替え作業が終了したのは午前1 時頃。これで14 日朝から、仮本番機 での業務運用を開始できる体制が整っ た。このあと、普段は同期していない 運用管理用のメニューやツール類を仮 本番機へFTPで送信し、それを午前8 時頃に終えている。
端末からのアクセスはDNSを自動 で切り替えるように設定していたが、 グループ会社からの一部のアクセスは IPアドレスを利用していたため、少 数のユーザーにはIPアドレス切り替 えのスクリプトを伝えるといった対応 が必要であった。また伝票を印刷する プリンタセッションの切り替えもリ モートで対応する必要があった。
「しかしこれらを除き、大半のエンド ユーザーはバックアップ機への切り替えに気付かないまま、通常通り業務が スタートしました」(目黒氏)
3 月20 日には、開発用のLPARも仮 本番機へ切り替えた。10 月には本番 機へ運用を切り戻す予定である。
計画停電は発表通り実施されないこ とも多かったが、それでも3 月中に2 回、数時間であるが停電した。もちろ んこの時、業務運用に全く支障がなかったことは言うまでもない。
同社の事例は、災害対策の必要性と 災害対策訓練の有効性を見事に証明したと言えるだろう。
設 立:1989年
本 社:神奈川県横須賀市
資本金:100億円
従業員数:約2400名 (2011年3月)
http://www.tlt.co.jp/