少し前まで、まだまだ新しい印象のあったハイブリッド・クラウドという言葉も、今や当たり前になりつつあり、IBM i にもその波が来ているように感じています。IBM i のアプリケーションはこれまで以上に、クラウドとつながり始めていくでしょう。
そうしたハイブリッド・クラウド化の深化とともに、今はまだ先進的すぎて、活用を検討している企業が多くはなさそうなREST-API、OpenShift、Ansibleといったテクノロジーや、Power Systems Virtual Server(IBM CloudのIBM i版)といったサービスも活用する必然性が出てくるように思います。
こうした新しい技術・サービスが、今後どういった流れで浸透していくのかを考える前段として、そもそもどのようなビジネスニーズがIBM iの世界ではハイブリッド・クラウド化を浸透させるきっかけとなるか、それを整理してみたいと思います。
ビジネスニーズ #1 eコマースとの連携
まず最も大きなビジネスニーズは、eコマースとの連携強化でないでしょうか。
IBMがe-Businessという言葉を打ち出したのは1990年代後半、すでに四半世紀以上が経ちます。eコマースは顧客接点の場所として絶え間のない進化を遂げていく領域なので、常に時代に合わせた課題は発生しますが、IBM i とeコマースの連携に改善の余地があると考える企業も多いでしょう。
その代表的な1つは、eコマースでIBM i のリアルタイム在庫表示を前提とした仕組みを作れていない、ということではないでしょうか。
eコマースを実施しているIBM i のユーザー企業は、もちろんB2Cもありますが、IBM i を活用されている企業の特性からB2Bが多く、「取引先に対していかにタイムリーに、かつリアルタイムな在庫情報を共有していくか」というご相談はとくに増えている気がします。
こうした課題の背景には、eコマースはeコマースの専門性をもった企業が開発し、IBM i は従来の開発ベンダーが開発する、というスコープになることが多く、ベンダーの分断がシステムの分断につながっているケースも多いように感じます。
eコマースに特化したベンダーのシステムはAWSなどで稼働していたり、SaaSを組み合わせて使用している場合も多いでしょう。
今までは分断(バッチ連携)していたけれど、リアルタイムに在庫を表示できるような仕組みに変えていきたい、もしくは連携の過程でRPGの業務ロジックを活かしたい。そうしたニーズを実現しようとすると、IBM i はクラウド・アプリケーションとの連携が必須となります。これが1つのハイブリッド・クラウドの実現例と言えるのでないでしょうか。
ほかにも、LINEで受発注する仕組みを作られている企業のお話を伺いました。その企業の取引先は個人商店のお客様も多く、「これまでのPCをインターフェースとしたeコマースよりも、LINEのチャットをインターフェースとしたeコマースであれば、オーダーしやすくなる」ということでした。
LINEのアプリケーションとIBM i の間に必要とされるWebサーバーなどはクラウド上に作ることになるので、これもまたクラウドとIBM i の連携が必要な活用例でしょう。
これまでWebサイト一択だったところに、LINEという選択肢が出てくるなど、顧客インターフェースも時代に合わせて進化していくので、IBM i といかにシームレスに連携していくかという課題は常に出てくるのではないかと思います。
ビジネスニーズ #2 APIエコノミーとIBM i
eコマースとの連携はIBM i がサーバーとなるケースですが、IBM i がAPIでインターネット上のサービスにアクセスする、というケースも増えているようです。
その一例は、与信データを契約企業に対してAPI公開しているサービスに、IBM i が取引先の与信情報を取得しにいく例です。
これまでは与信情報を販売している調査会社から定期的に与信データを購入していたが、リアルタイムなデータを取りに行く仕組みを作ることで、最新の与信データにより取引を検討できるようになります。
APIエコノミーという言葉がよく使われるようになってから数年経過しますが、さまざまなデータをAPIで取りにいけるようになった社会の進化を、こうした形でうまく取り込む企業も増えていくことでしょう。
「IBM i=サーバー」という考えがベースにありますが、今後APIエコノミーが普及していく中で、「IBM i=クライアント」として、外に情報を取りに行くという発想が今後増えていくのではないでしょうか。
ハイブリッド・クラウド化する世界で
IBM i の価値は高まっていくはず
このようにリアルタイムな連携が増えていくことは結果として、IBM i の価値が高まっていくことであると考えています。
なぜならバッチ連携の場合、IBM i のデータ量は変わらず、IBM i の価値も変わりません。むしろクラウド側のデータベースが膨らんでいくことで、「すべてクラウド化したほうがいいのでは」という声も出てくるでしょう。
一方でリアルタイム連携を実現し、何かデータベースのフィールドを増やしたい場合、IBM i の物理ファイルのフィールドを増やす、もしくはテーブルを増やす、ということになれば、IBM i のデータ量も増え、IBM i もさらに価値を発揮するのではないでしょうか。
私はハイブリッド・クラウド化する世界を、「さまざまなサービスを、ストレスなく、適材適所に選択できる世界」と認識しています。
今まではネットワークの問題、管理の問題、接続性の問題などで、最適なサービス選択が難しく、「どこかに寄せたほうがいいのではないか」という極端な話になりがちだったのが、クラウドサービスだったり、IBM iだったりを、最適に選択しやすい世界になっていきます。
そうした最適選択がしやすい時代には、データベース基盤として圧倒的な信頼のあるIBM i は、存在価値をより発揮しやすくなるのではないかと思っています。
IBM i がデータベース基盤として高い信頼を積み重ねてきたことは、誰もが認める事実でしょう。その詳細はここでは触れませんが、その高パフォーマンス・安定性・資産継承性・セキュリティなどの観点から、大変多くの企業が継続的に採用しているという事実からもそれは明らかです。
今回はIBM i とクラウドの連携について、さまざまな方からお伺いする話を踏まえながら、まとめてみました。お話しいただいた皆さま、ありがとうございました。