非IT部門でも十分に使いこなせる
医薬品業界向けのWeb講演会運営・配信サービス「3eLive」で事業を拡大してきた木村情報技術は、2016年1月にWatson事業でソフトバンクとエコシステム・パートナー契約を締結し、それ以降、AIをもう1つの柱として業績を伸ばしてきた。
同社が最初に構想したWatson関連のビジネスは、医薬品コールセンター業務への適用である。高度な専門知識が求められる医薬品コールセンターのオペレーターの業務をWatsonによって支援し、外部からの問い合わせに、オペレーターがすばやく正確に、柔軟に応答できるシステムを目指した。
その取り組みの一環として、医薬品大手の第一三共の「人工知能を利用したコールセンター支援システム」の開発を受注し、構築とAIに対する学習を行った。そして、これらの支援システムに関わる一連のWatson技術を応用して製品化したのが、チャットボット・ツールの「AI-Q」だ。製品化の経緯について、取締役 CIOの橋爪康和氏は、次のように話す。
「さまざまな医薬品メーカーにコールセンター支援システムを提案するなかで、その技術を使って社内用の問い合わせシステムができないかという打診を、複数の企業からいただきました。それなら、そのほかの会社でも同様のニーズがあると考え、コールセンター支援システムの開発と並行して製品化を進めました」
2016年11月にv1をリリースし、現在v5を提供中である。この間、数十社に導入され、そのうちデンマークの医薬品大手の日本法人ノボ ノルディスクファーマがAI-Qをベースとした社内向けチャットボットシステム(AI Gethelp)を構築し、総務、経理、OA機器に関する社内からの問い合わせ・応答用に利用中である。
AI-Qの特徴は「非IT部門の人でも十分に使いこなせる容易さと、データの学習・再学習のしやすさにあります」と、橋爪氏は強調する。AI-Qの製品化前に、営業先の担当者と話をするなかで「チャットボットを導入してメンテナンスまで行うのは、非IT系の業務部門になる」との確信を得たという。
たとえば、ユーザーがAI-Qに問い合わせをし、その応答メッセージが間違っていたり不正確な場合は、メッセージ画面上にある「Good」「Bad」「コメント」ボタンを押すことでフィードバックが行える。Badが押されたQAは赤色でハイライトされるので、管理者はすみやかにログを確認できる。コメントがある場合は内容を参照し、そのQAをクリックすることで、「QAの登録・編集、学習」画面へと移ることができる。そのまま文言を修正して登録すれば、QAの再学習は終了である。フィードバックと、Badデータの確認・修正・再学習という一連の操作が、流れるように行えるのだ。
Conversationを採用せず
分岐ルールエンジンを開発
もう1つの特徴は、AI-QではWatson NLCをAIエンジンとして選択し、Conversation(IBM Watson Asssistantに改称)を採用しなかったことである。「2016年当時は、製品として安定していなかったこともありますが、それよりもConversationのDialog機能を非IT系の人が操作するのは難しすぎると判断し、採用を見送りました」と、橋爪氏は述べる。
ただし、NLCだけではConversationで可能になる深掘り型チャットボットを開発しにくいので、独自に分岐ルールエンジンを開発し、AI-Qに標準搭載した。
分岐ルールエンジンは、質問が曖昧であっても選択肢を用いて絞り込むことにより、適切な応答メッセージを導くための機能である。たとえば「PCから音が出ません」という質問があった場合、それが「PC」のカテゴリーに属する質問であることはNLCが判定するが、音が出ないのが「PC本体」か「PCに接続したスピーカー」か「PCに接続したヘッドフォン」かを選択肢としてリストアップする機能を提供する(図表1)。
設定は手動だが、設定自体は、「PC本体」「PCに接続したスピーカー」「PCに接続したヘッドフォン」につなぐQAのそれぞれのID番号を選択するだけである。「AIエンジンを使って選択肢をリストアップするのと比べると、より正確で、簡単です」と、橋爪氏。さらに「選択肢のリストアップにAIエンジンを使わないので、AI-QとWatsonとのやり取りを少なくでき、コストを抑えることが可能です」と語る。
[図表2]AI-Qの画面データの登録・編集、学習用画面
[図表3]AI-Qの画面、QAに対する評価(Good、Bad、コメント)を確認できる
AI-Qでは、「明日からAI-Q」と呼ぶ学習データをプリセットしたコーパスを無償で提供している。「人事・総務・経理」「Windows 8/10」「iPhone 7/8/X」「Office 365」「Word 2016」などのコーパスがあり、AI-Qにセットすれば、すぐに利用できる。また、学習データの追加・修正などユーザーに合わせたカスタマイズも可能だ。
「チャットボットの導入で最初のハードルとなるのは、QAの作成です。企業間で大差がなく共通に使えるQAを『明日からAI-Q』として無償でリリースしました。これによってお客様は、企業固有のチャットボットの作成に専念できます。また、プリセット・データの設定内容に触れることによって、質問にどういう受け答えすればよいか、QA作成のコツをつかんでいただけます」と、企画室リーダーの宮本遼太郎氏は語る。
AI-Qの利用料金は、初期導入費用が200万円、月額24万円。IDごとのアカウント料金は500名までは基本料金に含まれ、追加は100IDごとに月額3000円である。
年内に、AI-Qが回答不能な場合にオペレータへ接続するエスカレーション機能や、分析機能の強化を予定している。「B2Cの場合、AI-Qに入力される文言はお客様の声そのものなので、その分析を容易に行えるAIサービスの開発も行っています」と、橋爪氏は計画を語る。
[IS magazine No.19(2018年4月)掲載]