IBM iの開発には現在、さまざまなツールや方法が提供されている。ここではIBM iの開発環境における主要な4つの選択肢について解説する。
SEUとPDM
SEU
SEU(Source Entry Utility)は、IBM i環境で長らく使用されてきたソースコードエディターであり、現在も多くの開発者に利用されている。IBM iシステムの初期から存在し、簡便さと信頼性が評価されている。
公式なサポートは継続されているが、IBM i 6.1で2008年に実施されたアップデートが最後となる。
そのため、IBM i 7.1以降に追加された新しいILE RPGステートメントは構文チェックできないなどの制約があるものの、今もPDMとともにIBM i開発の中心を担い続けている。
PDM
PDM(Program Development Manager)は、文書の管理やコンパイルに便利であり、SEUと組み合わせて使用されることが多い。現在も開発現場で利用されており、特に従来からのシステムの管理や改修作業では欠かせない存在である。
RDi
「IBM Rational Developer for i」(以下、RDi)は、RAD(Rational Applica
tion Developer)のIBM i開発用サブセットで、IBMが提供する統合開発環境である。Eclipseをベースに、IBM iアプリケーション開発の生産性と効率を向上させるために設計されている。
以下に、RDiの主な特徴を挙げる。
自動補完機能とコード補助
RPG、COBOLなどの言語に対応し、コードを入力中に予約語や変数名を自動的に候補として表示することで、タイピングミスを防ぎ、開発効率を向上させる。
また、構文エラーをリアルタイムで検出して修正を促す機能や、ツールチップで関数や変数の詳細情報を即座に確認できる支援機能も備えている。
さらに、コードのインデントやフォーマットを自動調整することで、可読性の高いコードの作成をサポートする。
リアルタイムの構文チェック
コードの入力中にリアルタイムで構文エラーを検出し、即座に修正のアドバイスを表示する。たとえば、文法の誤りや閉じていない括弧の指摘など、エラー箇所を視覚的に強調表示して開発者をサポートする。
デバッグ機能の充実
RDiのデバッグ機能は、SEUやPDMから大きくアップデートされている点の1つである。
コードを1行ずつ実行できるステップ実行機能により、エラー発生箇所を迅速に特定できる。
また、特定の箇所でコードの実行を停止するブレークポイント設定や、デバッグ中にリアルタイムで変数の値を追跡する機能を備えている。これにより、複雑なアプリケーションのエラー修正や動作確認を大幅に効率化する。
さらに統合デバッガを使用すれば、ステップ実行、ブレークポイント設定、変数追跡などが可能である。
デザインツール
RDiには、2025年4月付けでサポートの終了が発表されたADTS(Application Development ToolSet)の一部機能である報告書設計ユーティリティー(RLU)、画面設計機能(SDA)、およびファイル比較・組み合わせユーティリティー(FCMU)の代替となる機能が含まれている。
これらの機能を通じて、RDiはIBM i環境における開発のレガシーとモダナイズの両面をカバーし、開発者がより効率的に高品質なアプリケーションを作成できる環境を提供する。また、従来のADTSツールからの移行を円滑に進めるための優れた選択肢でもある。
IBM i Merlin
「IBM i Modernization Engine for Lifecycle Integration」(以下、IBM i Merlin)は2022年に発表された最新のIBM i開発環境である。Merlinという魔法使いにちなんで、魔法のようにレガシーシステムをモダナイズするという意味を込めて名称が付けられた。オンプレミス/クラウド環境で利用可能であり、SaaSでも提供が予定されている(2025年1月現在)。
以下に、IBM i Merlinの主な特徴を挙げる。
IBM i開発のモダナイズに必要なツール群を内包
IBM i Merlinにはソースコード管理ツールであるGitプラグイン、設計からテスト、デプロイまでの一連の作業を自動化するJenkins、統合開発環境であるVisual Studio Code(以下、VSCode)ベースのIDE、IBM iの見える化ツールであるARCADなど、IBM iアプリケーション開発のモダナイズを支援するツール・ライセンスが含まれている。
今までIBM iのアプリケーション開発にDevOpsを取り入れる場合、Orion、Git、Jenkinsなどいろいろなツールを個々で手組みする必要があったが、IBM i Merlinを導入することで、IBM iのモダナイズをオールインワンで簡単に始められる。またバージョンアップごとに使用できるツールも追加予定である。
使いやすいインターフェース
IBM i Merlinの利用時、アプリケーションをインストールする必要はなく、すべてWebブラウザで完結する。またオープン系と同じような直感的でシンプルなユーザー・インターフェースにより、初めてIBM iを利用する開発者でも迅速に操作方法を習得できる。
コンテナ環境で稼働
IBM i Merlinは、Red Hat OpenShiftのコンテナ環境で稼働する。コンテナを利用するメリットとして、迅速なセットアップ、リソースの効率的な活用、CI/CDの自動化によるスピーディな開発プロセスが可能となる。
Visual Studio Code
VSCodeは、多様な言語で利用可能なMicrosoft社の無償エディターである。このVSCodeに拡張機能を追加し、IBM i開発に利用できる。
IBM i Development Pack
IBM i エンジニアのための基本拡張機能が一式パッケージ化されており、これさえインストールすれば、IBM iシステムの開発準備は完了する。
以下に、そのなかの主要コンポーネントである「Code for IBM i」と「Db2 for IBM i」について紹介する。
Code for IBM i
VSCodeでIBM iのプログラム開発を実行可能にする拡張機能である。SSH接続でIBM iの区画に接続して利用する。VSCodeによるRPG/CL/COBOLのソースコード保守、VSCodeからのコンパイル、IBM iのソースファイルメンバーの編集、IBM iのIFSに配置したソースコードファイルの編集、SFTP拡張機能と組み合わせてローカルのソースコードをIBM i(IFS)へ自動アップロード、さらにはデバッガ機能などが搭載されている。
Db2 for IBM i
VSCodeでDb2 for iのデータを参照・更新するための拡張機能である。IBM i上のデータベーススキーマの参照とSQLによる操作が可能である。
SQLの分析、チューニングに使用するVisual Explain、SQLのエラーや警告を検出できるSQL Error Logging Facili
ty(SELF)機能、さらにはSQL、CL、Markdownの出力を1つのインターフェースで扱えるようにするNotebook機能も利用できる。
ツール選択の基準
以上、IBM iで使用できる開発ツールを紹介してきたが、最適な環境を選択する基準としては、主に以下を考慮する必要がある。
① 開発および保守を行うソース
② IBMのサポートの有無
③ 開発者の趣向
上記の点を考慮した各開発ツールの比較を、図表1に示す。

たとえば、固定長RPGの開発がメインでADTS利用中のユーザーには、いきなりVSCodeですべて開発するのはハードルが高いと思われるが、RDiはADTSとの操作互換性を意識しており、習熟は容易だろう。
一方、オープン系の保守・開発に習熟したユーザーであれば、VSCodeでのIBM i開発に慣れるのは比較的容易だと思われる。
その他の考慮点として、ADTS、RDiはIBMサポートがあること、ADTSはPCにインストールが不要で、FIXほかアップデートも不要、起動・操作が速いといったメリットがある。
見た目が古いといった安直な理由ではなく、自身の達成したい目的に応じた最適なツールを選択してほしい。

著者
古閑 さくら氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power テクニカルセールス
新・IBM i入門ガイド[開発編]
01 IBM iの開発環境
02 IBM iの開発環境選択基準
03 IBM iの開発言語
04 IBM iの基礎[CL設計・開発]
05 IBM iの基礎[データベース]
06 IBM iの基礎[RPG開発]
07 IBM iの基礎[Java開発]
08 IBM iのシステム連携
09 IBM iの新しいアプリケーション例
10 開発編 FAQ
[i Magazine 2025 Spring号掲載]