ガートナージャパンは3月13日、生成AIが、企業のIT組織業務やITベンダーとの関係性を大きく変容させるとの見解を発表した。
IT組織が自らの存在目的を再定義し
内製するIT業務を必要最小限に絞る可能性
近年のDXの推進は、IT組織を取り巻く環境に大きな変化をもたらした。データサイエンスやAIアーキテクチャなど、従来のIT組織にとって未知のスキルが要求される業務が増えている一方で、クラウドサービスや生成AI、ローコード開発ツール等の活用により、省力化・効率化できるIT業務範囲も拡大している。さらにDX専門組織の分離設立やエンドユーザーである事業部門が自らITシステム導入を行うなど、社内における組織的な多様化と拡散が始まっている。
同社の中尾 晃政氏(ディレクター アドバイザリ)は次のように述べている。
「ITリーダーは今、『DX前提の時代』におけるIT業務の在り方を問われています。IT業務の遂行に当たって、IT組織の内製人材は質的にも数的にも十分とはいえません。そもそも、従来のIT業務からDXに関わる業務に至るまで、企業の要求をすべて満たすIT組織は非現実的です。IT組織は、いたずらに対応範囲を広げるのではなく、むしろ中途半端に携わっている業務を排除することや、社内の非IT組織や社外へアウトソースし、内製するIT業務を必要最低限まで省略するIT組織へ変容していくことも考えられます」
Gartnerは2028年までに、日本企業のIT組織の40%が内製業務の「ミニマリズム (最小限主義)」を志向すると、将来想定し得る1つのシナリオを立てている。
意思決定機能と管理機能の一部など、主体性が必要な業務の内製は必要であるが、それ以外の業務は、ITベンダーへのアウトソーシングのほか、クラウドサービスの導入による開発/運用保守業務の負荷の軽減、生成AIやそれを組み込んだAIエージェントの活用による業務の省人化、さらに事業部門のIT担当者への業務移行などの動きが進む可能性が考えられる。
中尾氏は次のように補足している。
「IT組織は、3年後のIT組織の存在目的を定義し、その存在目的に照らし、既知・未知のIT業務を棚卸しし、最小限内製すべき機能を特定していくでしょう。また業務の範囲、責任分解点を明らかにし、社内外のステークホルダーと合意形成を図ることも求められます」
ユーザー企業の期待と
生成AIサービスの成果物のミスマッチが拡大する
生成AIやAIエージェントが社内のさまざまな業務を代替できるようになることで、企業のリソース不足が改善されると期待される。ただし多くの企業では、生成AIの業務への適用を自社だけで完結することは難しく、ITベンダーへアウトソースすることでノウハウの不足を補っている。
一方で、そのITベンダーでさえも、増大する顧客の需要に十分に対応できていない状況がうかがえる。
生成AIをビジネスで活用する際に、国内企業は通常、アウトソーサーから何らかの支援を受ける。特にビジネス・ノウハウに長けたコンサルティング・ベンダーへの期待が大きく、こうした需要を商機と見る多くのコンサルティング・ベンダーが、生成AIのライフサイクル全般にわたるサービスを展開している。
しかし、実際にサービスを受けた企業の大半は、その効果を期待以下と評価していることがGartnerとのやり取りの中で明らかになっている。
効果的な学習や精度向上には高度なテクノロジーを要するものの、ビジネス・ノウハウと比べ、テクノロジー・ノウハウが発展途上のコンサルティング・ベンダーは依然多いとGartnerはみている。
同社の海老名 剛氏(バイス プレジデント アナリスト)は、次のように指摘する。
「顧客企業側には、『コンサルに任せれば安心』との油断も見られ、コンサルティング・ベンダーにどこまで任せるべきか、また、彼らが提案・納品する成果物が十分に検証されない場合が少なくありません。生成AIのビジネスへの適用範囲は広がり続けています。今後も顧客の期待とサービスの成果物のギャップは容易に埋まらず、生成AIの適用範囲の急速な広がりによってむしろ拡大する恐れがあります」
2028年まで、生成AI関連のコンサルティング・サービス契約の70%が顧客の期待と成果物のミスマッチを解消できないとGartnerはみている。
海老名氏は次のように補足している。
「生成AI活用でのコンサルティング・サービスの契約では、委託期間だけでなく、戦略策定、企画、生成AIの選定、実装、といった対象工程の観点でも契約スコープを明確にする必要があります。その上で、各工程での現実的な成果物についても合意することが重要です」
AI/生成AIは
ベンダー評価にも使用されるようになる
一方、Gartnerは2028年までに、ITベンダー評価を行う企業の半数が信頼性向上のために、ベンダーの活動をAI分析する取り組みを始めるとの仮説も立てている。
現在、多くの国内企業が定期的に取引先ベンダーの評価をしているが、取引先ベンダーの振る舞いや知見に関する評価では、ベンダーと対峙するIT担当者へのアンケートによる定性的な評価にとどまることが多く、客観性に乏しく信頼性に不安がある。
こうした課題を解決するため、生成AI機能の活用に期待が寄せられている。例えばベンダーとの議事録、メールやチャットといった日々の活動データを多角的に分析し、彼らの課題点をAIに提案させることで、ベンダー評価の精度が大きく高まる可能性がある。
同社の土屋 隆一氏(シニア ディレクター アナリスト)は次のように述べている。
「生成AIは人によるベンダー評価を補完するものと位置付け、まず対象を1~2社に限定して検証を始めることが推奨されます。その際AIに分析させるデータは、最初は比較的信頼性が高い議事録データなどを優先することが望ましいでしょう」
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