保管と復元の重要性
IBM iは高い信頼性を誇るシステムであり、長期間にわたって安定稼働が可能である。しかし、システム障害やデータ損失のリスクを完全に排除することはできない。企業や組織の業務はシステムに依存しており、データのバックアップと復元は不可欠である。IBM iでは、システムの一部または全体を保管・復元するためのコマンドやメニュー・オプションが標準で提供されている。
保管メニューとCLコマンド
IBM iには、システムを階層化し、特定の用途や種別のオブジェクト群を一括で保管するためのメニューが提供されている(図表1)。
主要な保管オプションには以下が挙げられる。
・オプション21:システム全体の保管
・オプション22:システム・データの保管
・オプション23:ユーザー・データの保管
各オプションには対応するCLコマンドが存在し、これらを組み合わせることによりユーザー側で柔軟なバックアップ・プログラムを作成することも可能である(図表2)。
主な保管用CLコマンド
・SAVSYS:システムのコア部分を保管
・SAVSECDTA:ユーザー・プロファイルや権限情報を保管
・SAVLIB:ライブラリーを保管
・SAV:IFS上のディレクトリやストリーム・ファイルを保管
保管先の選択肢
IBM iでは、バックアップの保管先として以下を選択できる。
テープ装置
テープ装置は最も一般的なバックアップ保管先である。近年では高速化・大容量化が進み、単一ドライブから大規模テープ・ライブラリーまで多様な構成を選択できる。
SAVF(保管ファイル)
利用しているシステムのディスク・スペースに余裕があるなら、バックアップをSAVFに保管できる。SAVFは、WindowsのzipファイルやUNIXのtarファイルに相当し、他システムへのデータ転送や復元を可能とする。ただし、SAVSYSの保管には使用できない。
仮想テープ装置
仮想テープ技術を利用することで、物理的な機器の障害を排除しつつ、通常のテープ装置と同等の操作が可能となる。仮想テープ装置はIFS上のストリーム・ファイルを媒体として使用し、ネットワーク転送や災害対策にも利用できる。
クラウドストレージ
近年追加された保管先の選択肢として、IBM Cloud Object Storage(ICOS)やAmazon S3などのクラウドストレージが挙げられる。クラウドストレージでは大量のデータをセキュアかつ効率的に保管することができる。そのほかの主な特徴は、以下のとおりである。
・高い耐久性とセキュリティ:データは暗号化され、複数の地理的場所に分散できる。
・コスト最適化:ストレージコストを管理しながら、パフォーマンスのニーズを満たせる。
・データライフサイクル管理:ポリシーベースのアプローチでデータのライフサイクルを管理できる。
・柔軟なストレージクラス:ホットデータからコールドデータまで、使用パターンに応じたストレージクラスを提供できる。
クラウドストレージを利用することで、IBM iのデータをクラウドに安全に保管し、必要なときに迅速にアクセスすることが可能となる。
ZLIB圧縮アルゴリズム
IBM i 7.4 TR7およびIBM i 7.5から、新しい圧縮アルゴリズムであるZLIB(ジーリブ)が導入された。ZLIBは、データを効率的に圧縮し、バックアップの速度と効率を向上させる。主な特徴は以下のとおりである。
・高い圧縮率:従来の圧縮オプション(*NO、*LOW、*MEDIUM、*HIGH)よりも高い圧縮率を実現する。
・高速処理:Power10プロセッサ上で実行される場合、Nest Accelerator (NX) GZIPを使用して高速に処理することが可能となる。
・低CPU負荷:圧縮処理時のCPU負荷が低く、システム・パフォーマンスに与える影響が少ない。
ZLIBは、以下の保管コマンドで使用可能となっており、今後も機能拡張が見込まれる。
SAV、SAVCFG、SAVCHGOBJ、SAVDLO、SAVLIB、SAVLICPGM、SAVOBJ、SAVSECDTA、SAVSYS、SAVSYSINF
保管履歴と管理
IBM i上の各オブジェクトは保管された日時を記録しており、DSPOBJDコマンドで確認できる。また、特定の保管操作により保管履歴情報を更新する機能も提供されている。これにより、バックアップ計画の見直しや保管対象の確認を容易に行える。
BRMS
有償プロダクトオプションであるBRMS(Backup、Recovery & Media Services)は、より計画的かつ戦略的なバックアップとリストアの管理を実現するための追加機能である。BRMSを使用することで、以下のような利点がある。
・並列保管による保管時間の短縮
・保管媒体の情報管理
・システム完全回復のための指示書出力
IBM iの保管と復元は、システムの信頼性を維持しデータ損失を防ぐために不可欠なプロセスであり、OS標準で提供されるコマンドやメニュー、最新の技術を活用することで、効率的かつ効果的なバックアップ・リストアを実現できる。また、BRMSの導入・構成により、さらに高度な管理が可能となり、システムのデータ保護戦略の強化に寄与するであろう。
著者
小林 直樹氏
キンドリルジャパン株式会社
中部・西日本デリバリー・中部第一サービス
新・IBM i入門ガイド[操作・運用編]
01 IBM iの実行環境
02 IBM iのストレージ管理
03 IBM iのログ
04 IBM iのユーザー管理
05 IBM iのセキュリティ
06 IBM iの印刷機能
07 IBM iの保管/復元
08 IBM iの基本操作 [コマンド編]
09 IBM iの基本操作 [ツール編]
10 IBM iの監視 基本
11 IBM iサービス
12 IBM iのトラブルシューティング
13 操作・運用編 FAQ
[i Magazine 2024 Winter号掲載]