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事業の成長スピードに追随すべく、内製型の開発体制を目指し人材育成に注力 ~山川 龍次氏 株式会社ランテック |IBM iの新リーダーたち⓭

 

山川 龍次氏

株式会社ランテック
執行役員
生産管理本部 情報システム部長

現場部門とシステム部門の橋渡し役が、ITに関わる最初の仕事だったと語るのは、ランテックのIT部門を牽引する山川龍次氏。センコーグループの一員となったのを契機に、ITの役割と重要性が社内に広く認知されつつある今、内製型の開発体制を目指して人材育成に注力する山川氏に、そのコンセプトを聞く。

部長就任時に求められた
2つのミッション

i Magazine(以下、i Mag) 山川さんは入社した当初から情報システム部に配属されたのですか。

山川 違います。私は1992年に入社しましたが、最初に配属されたのは福岡の二日市支店で、主に物流事務、具体的には配車やお客様への請求業務などを担当していました。私が入社した年に新運行管理システムがリリースされたのですが、当時のシステム部門を含む本社部門、そしてITベンダー側の担当者が現場業務の要件定義や調査が不十分なまま開発したこともあって、必ずしも使いやすいシステムとは言えませんでした。

そこで私は現場担当者の1人として、新しいシステムに対して現場目線からクレーム、というか改善要望をいろいろと情報システム部に伝えていました。こうした多数クレームをあげる意見が目にとまったのか、現場目線でシステムの改善活動に参加するとともに、現場部門へシステムの効率的な利用方法を伝え、同時に現場の要望を情報システム部にフィードバックする人材として、1994年8月に情報システム部への異動が決まりました。

私はそれまでITの開発経験が一切なかったのですが、与えられた役割を果たすべく、それから16年間、ITの運用や開発のスキルを学びつつ、現場部門と情報システム部との橋渡しのような役目を務めてきました。

i Mag それからずっと情報システム部ですか。

山川 いえ、2010年に神奈川県にある支店へ支店長代理として赴任しました。九州生まれ、九州育ちの私が九州を離れたのは初めての経験でした。管理責任者として、情報システム部とはまったく関係のない支店運営全般業務を神奈川で約5年やったのち、2015年に本社の情報システム部へ戻りました。戻ったときは課長代理で、2017年に課長、2020年に次長、2021年に部長となり、2024年4月に執行役員に就任しました。

i Mag 部長就任に際して、求められたミッションはありましたか。

山川 私の部長就任に際して求められたミッションは大きく2つありました。1つは拠点の老朽化対策、事業拡大のための新拠点立ち上げに際して倉庫設備の増強に伴うIT支援、もう1つは経営目標として掲げる売上と利益の拡大に際して、システム的に支援することでした。

情報システム部に戻った2015年は、会社としても、そして情報システム部としても大きな節目の時を迎えていました。ランテックは1953年の設立以来、「フレッシュ便」を筆頭にした食品定温物流を核に事業を発展させてきましたが、2014年10月に同じく総合物流サービスを提供するセンコー株式会社の子会社となりました。

センコーグループの一員となったことを契機に、一層の事業拡大を目指すべく、新しい物流拠点の開設、そして旧拠点の刷新が求められました。これにはネットワークやIT機器の入れ替え、倉庫業務の遅れに対するマテハンの導入などITの支援が不可欠でした。つまりセンコーグループのメンバーとして、拠点強化が急速なスピードで進展していたのです。私が部長に就任した前後だけでも、広島第二センター開設、大阪支店開設、福岡支店の増床(自動倉庫導入)、北埼玉、川崎、関越、関西、門司、宮崎とランテック単独時代ではまったく考えられないくらい矢継ぎ早に支店の開設作業が続きました。これらにシステム面で対応することが、私に求められた第1のミッションです。

それから売上と利益の拡大という第2のミッションについて言うと、物流に伴う受発注は現在、EDIやWebオーダーによるデータ交換を前提としていますが、EDIはお客様個別の要件に合わせたシステム開発・保守が必要になります。せっかく営業が新しいお客様を獲得しても、システム的な対応が間に合わないと、その努力が無駄になってしまいます。そこで人員を増強して、お客様ごとのシステム対応に全力で対処することが求められました。

センコーグループの一員となって以降、センコーとのシステム基盤の統合・開発が相次ぎ、IBM iだけでなくオープン系を含む多様なアプリケーションを運用するようになりました。共通で利用できるシステムやセンコーグループが強みを発揮するシステムなどを流用し要件に応じてオープン系へ移行し、当社の競争力の源泉となる物流システムはIBM iでの運用を続けるという方針で進んできました。

内製型の開発体制を目指し
人材の確保・育成に注力

i Mag これまで具体的には、どのようなシステムを開発してきたのですか。

山川 2015年にハンディターミナルやタブレットによるフレッシュ便荷物の検品システムのリリース、倉庫の仕分け作業に音声物流システムの取り込みなど新システムを次々にリリースしていきました。

2016年には、Faxと手入力を中心としたお客様からのオーダーをWeb EDIへ移行させるため、「e-Fresh」システムを稼働させました。これによりそれまで20%がEDI、80%がFaxの手入力であった受注の割合が変化し、全体の85%をEDI(Web EDIを含む)で処理するという劇的な自動化に成功しました。

また2018年には、スマートフォンでドライバーが配達完了登録を行えるようにし、それを社内の基幹システムに連携して、お客様がオンラインで確認できる配送貨物追跡確認サービスもリリースしました。

さらに2019年には新在庫システム(WMS)の開発にも着手しています。これまで当社ではスルー主体の輸送サービスを展開していましたが、新拠点の開設に際しては、荷物を自社拠点で保管できる倉庫スペースを大幅に拡張し、建設していきました。そこで倉庫内のロケーション管理や仕分け作業の効率化を含めた新しいWMSが必要になりました。倉庫業務を得意とするセンコーグループのWMSを改良し、ランテック版のWMSとしてリリースしたのが2021年です。

大規模なシステム案件だけをお話しすると以上になりますが、実際には大小含めてさまざまな開発・保守案件が動いています。

i Mag システム部門の責任者として、IT人材の育成・確保にはどのように取り組んでいますか。

山川 人員の育成・確保は最重要課題と言えます。私が2015年に課長として情報システム部に着任した時のシステム人員は17名、現在は29名にまで増えています。これまで人員の強化には力を入れてきました。

必要に応じて開発は外部ベンダーの手も借りますが、基本方針としては増え続ける業務アプリケーションの開発・保守を自社で担えるように、内製型の体制を強化しています。外部ベンダーに頼り切りになると、体制確保までに待ち時間が増えたり、場合によっては開発をあきらめざるを得ない事態も想定できます。それだと当社の成長スピードにITが追随できない事態が生じるでしょう。それを避けるべく、適宜、外部ベンダーの力を借りつつ、いざとなれば自社で開発を担える体制を確立しておきたいと考えています。

i Mag 具体的には人材確保・育成にどのように取り組んできたのですか。

山川 私が部長に就任してからは、新卒の若手社員を毎年積極的に採用し、人員獲得と若手技術者の育成に努めてきました。ただ当社の場合は事務総合職で人員を採用するので、情報システム部で2~3年教育しても、他部門へ異動させられてしまうことに悩んでいました。情報システム部は最新テクノロジーの知識や開発スキルなど、覚えるべきノウハウが多く、せっかく教育しても2~3年で異動してしまうのでは、育てる苦労が報われませんし、会社にとっても損失と感じていました。

そこで経営サイドや人事部と交渉し、情報システム部に所属する社員についてはなるべく長く同じ仕事にとどまれるように、通常のローテーションサイクルからは多少考慮してもらっています。今後は事務総合職ではなく、情報システム部職として採用できるよう給料体系や採用基準など情報システム部の人事制度の見直しも必要と思っています。今はまだ完全な職種採用には至っていませんが、3年以内にはそれを実現したいと考えています。

i Mag IBM i上でRPG資産を多く運用していますね。今後のRPG資産をどう残していくべきか、なにかお考えはありますか。

山川 現在、IBM i上には約1万4000本のRPG Ⅲプログラムと、メインフレーム時代の資産である約4000本のCOBOLプログラムが稼働しています。RPG Ⅲプログラムが多いので、新入社員にはまずRPG Ⅲの開発スキルは必須として教育していますが、RPGの資産は今後、フリーフォームRPG(以下、FFRPG)に移行する、そして新規の開発にはFFRPGを利用する方針を明確にしています。

ただしRPG ⅢからFFRPGへの単純なストレートコンバージョンには疑問をもっています。RPG ⅢからFFRPGへ単純にコンバートしても、業務アプリケーションとしての機能は何も変わりません。せっかく予算をかけてコンバートするなら、その予算に見合う何らかの付加価値を実現したいと考えています。その付加価値が何なのか、業務や事業の成長と照らし合わせながら、10年スパンぐらいでFFRPGへ移行していきたいと思います。

i Mag 最近、LANSAを導入されたそうですね。

山川 そのとおりです。数年にわたるランサ・ジャパンと外部ベンダーの熱心な営業にようやく決断し、2023年秋に導入しました。RPGに関する方針は今述べたとおりですが、経営陣から「IBM iの開発をいつまでもRPGに依存していて大丈夫なのか」という疑問が寄せられました。確かに5250画面では画面の表現力が足りず、若手には古臭いという違和感もありますし、新しい業務要件に応えるWebアプリケーションの開発は、RPGでは難しい面があることも事実です。

そこでバイリンガルな言語で開発できる技術者を育てるべく、検討を重ね、ローコード開発ツールである「LANSA」(ランサ・ジャパン)の導入を決めました。当社の場合、今いる技術者にいきなりJavaやC#などのオープン系開発言語を習得させるのは、ハードルが高いと考えたからです。その点、LANSAであれば、RPGと比べてもそれほど難易度が高いわけではなく、スムーズに習得が可能です。現在は2名の開発者にLANSAを教育し、ソリューション・ラボ・ジャパンの手を借り、2024年4月に最初のアプリケーションとして、以前はMicrosoft Accessで開発していた協力会社の収支管理システムを再構築してリリースしました。今後もWeb型の新規アプリケーションを開発する際には、LANSAを利用していく予定です。

拠点の新設・拡充を筆頭に
41の開発案件を進める

i Mag 今後はどのようなシステム開発を予定しているのですか。

山川 大規模な開発案件としては大きく3つあります。まず1番目がまだまだ続く拠点の新設・刷新です。2024年4月に宮崎支店を新設し、同年9月に湘南支店を増築しました。今後は2025年1月に古賀センター(福岡県)の開設を筆頭に、浜松、埼玉、仙台、千葉が決定しています。これらの拠点開設に対して、さらに倉庫内の生産性や作業品質向上のためにシステム的にバックアップしていきます。

2番目は、大口のお客様に向けた専用システムの開発です。取引の拡大を掲げ、ご要望にきめ細かく対応した独自システムを構築していきます。今年度も多数のお客様に向けた大規模な専用システムが稼働する予定です。そして3番目はAIやRPA、クラウドツールなど最新技術を取り込んだシステムも段階的に投入し、事務所の生産性向上も進めています。

開発プロジェクトとしては現在、41案件が動いており、これとは別にインフラ運用チームも老朽化に伴うネットワーク機器の入れ替えや数百台に及ぶPCのリプレース、サーバーの入れ替えなど、多数の案件を抱えています。まだまだやるべきことは数多くあり、人はいくらいても足りません。社内にITの役割と重要性が浸透し始めている今、人材の拡充と育成に力を注ぎ、業務拡大に貢献できる情報システム部を育てていきたいと考えています。

 

山川 龍次氏

1992年、ランテックに入社。1994年に情報システム部へ異動。2010年に湘南支店の支店長代理に就任。2015年に情報システム部 課長代理、2017年に課長、2020年に部長に就任。2024年4月から現職。

株式会社ランテック
本社:福岡県福岡市
設立:1953年
資本金:5億1980万円
売上高:641億8500万円(2023年度)
従業員数:2817名(2024年3月末)
https://www.runtec.co.jp/

撮影:岩坪 眞一郎

[i Magazine 2024 Autumn掲載]

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