株式会社ぬ利彦
本社:東京都中央区
創業:1717 (享保2)年
設立:1948年
資本金:1000万円
売上高:53億3000万円(単体、2020年3月期)
従業員数:150名(2020年4月)
概要:酒類・食品卸、不動産賃貸、運送事業、コンピュータシステムの販売など。
http://www.nurihiko.co.jp/
ぬ利彦は3つの顔をもっている。1つは、創業(1717年)300年の伝統を誇る酒販・食品卸事業者としての顔、もう1つは東京の一等地に自社ビルをもつ不動産事業者としての顔、そして3つ目はIBM iを主軸とするIT事業者としての顔である。この3つの事業はそれぞれ独自に展開されているが、IBM iを基幹サーバーとしている点で共通している。つまり同社はIBM iユーザーとしての顔ももっているのである。
IT事業を推進するマーケティングサービス事業部では1970年代に全社用の基幹サーバーとしてシステム/34を導入し、同社はIBMミッドレンジ・ユーザーとしての歩みをスタートした。以来、システム/36、AS/400、iSeriesなどと基幹サーバーのアップグレードを継続し、現在に至っている。また1982年には発足したばかりのIBM特約店制度の第一期特約店としてIT事業を開始している。
ぬ利彦の各事業部では長い間、顧客および取引先への請求書などの送付を手動で行ってきた。IBM i上の基幹システムで作成した帳票データを5577プリンターなどで専用帳票に印刷し、封入して郵送するというオペレーションである。
マーケティングサービス事業部は、2010年代後半にそのやり方を刷新する取り組みを各事業部に対して始めた。専用帳票をカット紙へ、5577などの専用機を複合機やオープン系プリンターへ切り替えて業務の効率化とコストダウンを図る帳票基盤の改革である。
2020年4月にアイエステクノポートのUT/400-iPDCを導入し、複数枚綴りだった各事業部の専用帳票(見積書、販売表、仕入書)を1枚のカット紙へまとめ、複合機などへの印刷に切り替えた。さらに2022年9月には、従来5400プリンターで出力していた各事業部の請求伝票(請求書、納品書)と社内帳票のカット紙への切り替えを実施した。ただし用紙とプリンターの切り替えは完了したものの、カット紙へ印刷した後の封入・郵送の手作業は依然として残っていた。
カット紙への印刷がスタートしてからほどなくして、新型コロナの流行が始まった。今度は帳票発送担当者の出社も困難になり、印刷や発送作業の遅滞が懸念された。また目前に迫りつつあった電子帳簿保存法やインボイス制度への対応も必要になっていた。
「そこでマーケティングサービス事業部では、帳票基盤改革をさらに進め、ペーパレス化からDXへつながる抜本的な取り組みに着手する、という方針を固めました。これを受けて『ClimberCloud導入プロジェクト』をスタートさせたのは2023年1月のことです」と語るのは、同事業部管理部 部長の冨田明氏である。
運用コストの安さとIBM i連携が
サービス採用のトリガー
ClimberCloudは、NTTデータビジネスブレインズの電子データ保存・一元管理のためのクラウドサービスである。クラウド上のClimberCloudに取引先への請求書データを保存し、取引先に請求書データを取得してもらうことでWeb請求などの電子取引を実現できる仕組みをもつ。
ClimberCloudを選定した理由について冨田氏は、次のように説明する。
「ClimberCloudに注目したのは、何よりも帳票数が100件まで月額900円〜という運用コストの安さでした。これならばスモールスタートが可能でビジネスの成長にあわせて利用数を増やしていけます。幸いUT/400-iPDCと連携し、IBM i上からシームレスに帳票データをClimberCloudへ送ることも可能です。トライアル版で運用に問題ないことを確認し採用を決めました」
2023年3月からClimberCloud用のマスター登録などを行い、6月にカットオーバー。7月から顧客・取引先への案内を進めて、同意を得た企業からWeb請求へ切り換えていった。帳票発送担当者からは「作業が劇的に楽になり、月末の残業がなくなった」などの高い評価を得た。ただし冨田氏によると、Web請求へ切り換えた顧客・取引先は、スタートから1年間で「5割弱」程度だったという。
「現在は紙とWebのどちらかで請求していますが、Web請求が増えてくれば導入メリットが高まります。また今年(2024年)10月から郵便料金が値上げになるので、それを追い風としてWeb請求への切り替えをお勧めしていきます」と、冨田氏は語る。
マーケティングサービス事業部では2023年10月にClimberCloudの「外部連携オプション(OCR連携)」を採用し、仕入先からの請求書をClimberCloudへ電子保存するオペレーションを開始した。仕入先からの請求書は紙とPDFの2種類あるが、どちらもOCRで取り込みClimberCloudへ保存する。
「目下その延長として、AI OCRを利用するClimberCloudの新しいオプション(AIオプション)の検討を進めています。これを利用すると、従来のOCRで読み取りエラーとなったデータも正しく読み取れる可能性があります。AI OCRの精度やAIオプションのパフォーマンス、ニ重登録検知機能などを確認したうえで採用を判断する考えです」(冨田氏)
同社では今後、UT/400-iPDCとClimberCloudで実現したWeb請求配信と請求書の電子保存の仕組みを「ソリューションとしてお客様にご提案していく考え」(冨田氏)という。
[i Magazine 2024 Autumn 掲載]