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データ連携プラットフォーマーへ向けて、社名の変更とビジネスモデルの改革を実施 ~藤井星多氏 株式会社MONO-X 代表取締役

藤井星多氏
株式会社MONO-X 代表取締役

2024年3月、オムニサイエンスはMONO-Xへ社名を変更した。それとともに新たなビジョンとミッションを掲げて、前に進みだしている。個別企業のDXにとどまらない、企業間・産業間をつなぐ新次元のデータ共有プラットフォーム構築に向けて。同社の代表取締役である藤井星多氏に、その戦略を聞く。

オムニサイエンスからMONO-Xへ
社名変更に込めた思い

i Magazine(以下、i Mag) 2024年3月に、オムニサイエンスからMONO-X(モノエックス)に社名を変更されました。まず、この社名変更の狙いを教えてください。

藤井 社名を変更することは、以前から考えていました。オムニサイエンスという社名は、自分たちが今、目指しているビジネスとは必ずしもフィットしていない、もっと当社が目指すビジネスの方向を誰もがイメージしやすい社名にしたいという思いは自分の中でずっとありました。ただそれが決定的になったのは、生成AIの台頭がシステム開発の世界に大きな変革をもたらすと確信したからです。

よくご存じのように、2022年末に登場し、2023年前半には凄まじい勢いで世界を席巻した生成AIを見たとき、これによって自分たちのビジネスが変わるという大きな衝撃を受けました。

生成AIと自然言語でやり取りし、それを受けて生成AIがプログラムを生成し、データを格納する形に変わっていくだろう、と。とりあえず最初はSQLの生成あたりからだろうか、などとイメージが広がりました。そこでAIを主軸に据えたビジネスモデルに転換すべく、社名変更に向けて具体的に動き出しました。2023年夏ごろのことです。

i Mag 新しい社名には、どのような思いを込めたのですか。

藤井 MONO-XのMONOは、「単一の」という意味と、「ものづくり」の2つを意味しています。つまりものづくり産業に向けて、「世界中の産業のデータ連携プラットフォーマー」を目指し、そのためのテクノロジーやソリューションを提供していきます。新しいロゴはこのコンセプトに沿って、「データの通り道」を体現しています。単なる社名変更ではなく、大きなビジネスモデルの改革があり、それを新しい社名によってよりよく訴求したいという思いを込めています。

i Mag 「世界中の産業のデータ連携プラットフォーマー」というのは、具体的にはどう実現していくのでしょうか。

藤井 欧州では自動車のEV化を視野に入れ、ドイツを中心に自動車産業の競争力強化やCO2削減などを目的に、自動車のバリューチェーン全体でデータを共有するためのアライアンス「Catena-X(カテナ-X)」が推進されています。大手自動車メーカーやそれに関連する企業など、統一されたデータ交換の標準を構築する取り組みです。

国内でも製造業・物流業・卸売業と、産業をまたいだ統一的なデータ連携プラットフォームの構築が必要とされるでしょう。当社ではこれに向けて、企業間のデータ連携インフラおよびアプリケーションを提供していこうと考えています。個別企業のデータのサイロ化を前提としたDXにとどまらない、企業間・産業間をつなぐ新次元のデータ共有プラットフォームです。

2軸のモダナイゼーションで
ソリューション体系を整備

i Mag 新しいソリューション製品の発売も予定しているようですね。

藤井 新たにAIソリューションを提供します。まだ具体的な仕様はお話しできませんが、基幹システムと連携した生成AIによって効率よく業務が行えるツールだとお考えください。今年の秋にはベータ版をご覧いただく予定です。

当社はこれまで、IBM iビジネスを強みとし、IBM i市場向けにソリューションやサービスを提供してきました。たとえばデータ可視化・視覚化ツールである「PHPQUERY」、API作成・管理ツールである「API-Bridge」、ノーコードのB2B構築ツールである「NextB2B」、それにIBM iのクラウド移行と運用監視・マネージドサービスを提供する「PVS One」です。

「インフラのモダナイズ」および「アプリケーションのモダナイズ」というように、IBM iのモダナイゼーションを2軸で推進する考え方は従来と変わりません。ただし、アプリケーションのモダナイズを支えるツール群は名称や機能、およびソリューション体系を変更しました。

図表 アプリケーションとインフラの両面からモダナイゼーション

これまで「NextB2B」と呼んでいた製品は、新たに「MONO-X One」へ名称を変更しています。NextB2Bを販売するなかで、単にB2Bサイトの構築だけでなく、基幹システムに連携して運用する多様な業務アプリケーションの開発を支援できることが明らかとなり、またそれが強く求められていることを実感しました。

とくにこの半年ほどはテストマーケティングを実施し、オープン系のERPパッケージベンダーなどと接点をもってコミュニケーションしてきたのですが、「調達・購買領域のDX」や「B2B受発注領域のDX」へのニーズがとても強いと感じました。MONO-X Oneでは名称の変更とともに、いくつかの機能強化を実施しており、そうした領域のDX実現に大きな役割を果たせると確信しています。

i Mag 今後はソリューション体系を刷新していくのですか。

藤井 そうですね。MONO-X Oneは、業務アプリケーションのノーコード開発ツールというだけでなく、PHPQUERYやAPI-Bridgeを内包する上位概念であると位置付けています。すでにMONO-X Oneは、PHPQUERYが備える機能群の70~80%を内包していますから、PHPQUERY ではなくMONO-X Oneをご採用いただくことで、導入目的を満たせるケースもあるかと思います。

今後リリース予定の製品は、少なくともアプリケーション領域では「MONO-X」を冠した多彩なソリューション群を充実させていくことになるでしょう。

IBM i市場へのアプローチは
今後どう変わるのか

i Mag 現在のIBM i市場をどう見ていますか。

藤井 私はIBM iに実装されるテクノロジーと、一般で普及しているテクノロジーの差が急激に広がりつつあることを憂慮しています。これはIBM、ベンダー、ユーザーのそれぞれの事情によるものでしょう。

今後のシステム資産の継承や世代交代を考えた場合、やはり若い世代に焦点を絞っていかねばなりません。若い人たちは会社に入ってIBM iを触った途端に、学校で学んだ内容をまったく活かせないことに気づいて失望します。とは言え、目の前には今も膨大なRPG Ⅲのプログラム資産が動いており、それを維持していくことがユーザー企業の大きな課題です。

私は世代交代を円滑に進めるうえで、残された時間は少ないとの危機感をもっています。マイクロサービス化によるモダナイゼーションを進め、新しいテクノロジーの利用とシステム資産の継承の間をつなぐ橋渡し役になりたいと願っています。

i Mag 今後、IBM i市場についてはどのようにアプローチしていくのでしょうか。

藤井 当社はこれまでIBM iビジネスに強みを発揮しており、現在も売上のほぼ100%をIBM i関連のビジネスが占めています。ただ先ほどお話ししたような、ものづくり産業に向けた「世界中の産業のデータ連携プラットフォーマー」を目指すなら、当然ながらIBM i以外のユーザーへの対応も進めていくことになります。

多くのIBM iが製造業・物流業・卸売業のユーザーで運用されており、私たちもそこで豊富な経験とノウハウを培ってきました。それらをベースに、IBM i以外のユーザーに向けても充実したサービスを提供していきたいと考えています。

AIカンパニーとなるべく
人材の獲得・育成に注力

i Mag 今後の人材確保・人材育成については、どのように進めていますか。

藤井 今年3月の社名変更に際して、当社がこれまで展開してきたSEサービス事業については、ミガロホールディングスに譲渡しました。それに伴って、約半数の社員が移籍しています。

一時的に社員数は減ったのですが、現在は積極的に採用を進めて、人材の確保・育成に注力しています。2025年春には5名の新卒社員を採用し、2027年度には社員数を60名にする予定です。大学でITや何らかの開発スキルを学び、GitHubで情報発信しているような意欲的な若手を採用していく方針です。

i Mag 社名変更時のスローガンに、「Rewrite the Standard」とありますね。

藤井 「常識を上書きする」ですね。社名変更時にいろいろと具体的な施策を打ち出したのですが、組織を盛り上げ、社員の意識を同じ方向に向けるような抽象度の高いスローガンが必要かと思って、「Rewrite the Standard」を掲げました。イベント時に社員が着用するTシャツに印刷したり、会社案内の冒頭に記載したりしています。

少なくとも2年後には、「IBM iに強い会社」ではなく、「AIに強い会社」に変わろうと考えています。そのためには今までの自分自身の常識、これまでの会社の常識、世の中の常識を上書きし続け、未知の領域に踏み出していかねばなりません。新しいビジョンやミッションとともに、社員全員が「Rewrite the Standard」を胸に刻んで、前に進んでいくつもりです。

 

藤井 星多氏
005年に大学卒業後、SIerにてIBM iソリューション営業を経験。その後、ITベンチャー企業に転職し、SNSを活用したソリューションを業種・業界問わず幅広く提案。2008年よりオムニサイエンスにて、IBM i ユーザー向けにOSSを活用したモダナイゼーションを10年以上にわたり支援。現在はものづくり産業のユーザーにフォーカスし、企業間データ連携インフラ事業およびIBM i のクラウド移行事業を展開。

撮影:千葉 格

 

[i Magazine 2024 Autumn 掲載]

 

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