第3回は、ユーザー、ベンダー、メーカーのそれぞれの立場でIBM iに関わる3氏にご登場いただいた。IT知識ゼロでIBM iに向き合えば5250も固定フォームもけっして古臭くないという声もあがる。
出席者(写真左から)
加藤 翔 氏
株式会社クレスコ・ジェイキューブ
セールスシステムソリューション部
李 馥岑氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power テクニカルセールス
山口 あす香氏
株式会社ジャストオートリーシング
営業企画部
営業企画課
5250画面や固定フォームを
古臭いと思ったことは一度もない
i Magazine(以下、i Mag) 最初に自己紹介をお願いします。
加藤 私は弊社前身のネクサスに新卒で入社し、今年で9年目になります。新人研修の後にお客様のIBM iシステムの開発プロジェクトに入って以来、IBM i関連の業務が大半です。現在は大手通販会社の基幹システム(IBM i)の保守を担当しています。
山口 私は2019年に新卒入社し、営業企画部システム課へ配属され、2021年に営業企画部営業企画課へ異動し運用管理業務の担当となりました。弊社は自動車のリース会社で、自動車のリースから整備まで一貫してサービスをご提供しています。営業企画部では当初、IBM iの開発プロジェクトに加わっていましたが、現在は社内システム全般の運用管理・企画・提案の担当です。
李 私は大学3年生まで中国・重慶で過ごし、留学のために来日し大学院まで進みました。修了後は日本で働きたいと思い、IT職ならAIが広く普及しても長く続けられるだろうと思い、日本IBMに就職しました(2023年4月)。現在は、IBM Powerのテクニカルセールスを担当しています。
i Mag みなさんはIBM iをどのように習得してきたのですか。またIBM iの印象、感想も教えてください。
加藤 私は入社してほどなくIBM iの開発プロジェクトに放り込まれたので、右も左も分からない状態でキャリアをスタートさせました。大学は情報系でC言語の経験はあったものの、RPGの固定フォームには最初かなり戸惑いました。業務の傍ら研修テキストなどでコツコツ勉強しましたが、悩んでいるときの先輩からの助言やネットで調べてプログラムを書いてみるという経験が、技術を習得するという点では一番身になったと思います。現場に入って3カ月もするとIBM i・RPGに慣れてきて、使い勝手のいいプラットフォームと思うようになりましたね。
山口 私はEOLでIBM iを学びました。自動車のリース会社に就職した自分が、まさかシステム開発に携わるとは思ってもいませんでした。IT知識がゼロだったので、5250の黒画面や固定フォームを古臭いと思ったことはまったくなく、企業システムとはそういうものと、すんなり受け入れることができました。むしろ、ふだん何気なく使っているシステムの裏側でプログラムが動いているということに新鮮な感動を覚えたり、プログラミングして狙いどおりの動きをしたら楽しいのだろうな感じたことを覚えています。
李 私もIT知識ゼロでこの世界に飛び込んできたので、黒地にグリーン文字の5250画面は30年以上も続いているのかという素朴な印象しかなく、古臭いとは感じませんでした。IBM iとPowerについては先輩から半年ほど週1回のペースでプチ研修を受けました。それと私はIBM iに関わるパートナーやユーザーの方にお会いすることが多いのですが、IBM iを好きな方がとても多いという印象ですね。
山口 確かに弊社に中途入社してくる人とお話すると、IBM iの仕事を続けたいから転職しましたという方が多いですね。IBM iの特徴をよく知っているからこそのIBM iファンで、IBM iを好きであることはその人の強みにもなっていると感じています。
3者3様の仕事内容
共通点は「面白くやりがいがある」
i Mag 現在の仕事についてお話いただけますか。
山口 いろいろと担当させていただいているのですが、メインの仕事は運用管理業務です。ネットワークでつながるすべての機器の手配、準備、配布が担当範囲で、人事異動があるとPCやiPhone、iPadなどを用意してセットアップし、納品まですべてやります。最近では全拠点の固定電話の入れ替えをし、新たに導入したPBXのカスタマイズなどについてベンダーと1年ほど打合せを重ねました。近々に業務部プリンターの入れ替えがあり、目下その準備中です。プリンターはIBM iとつながっているので、プリンターセッションのテストなどでIBM iの開発経験を活かせると思っています。そのほか社内のヘルプデスクも担当で、IBM i関連の問い合わせや軽微なものから緊急度の高い内容のサポート依頼にも対応しています。
またそれらとは別に2年前から「情報セキュリティ・プロジェクト」と呼ぶ活動を経営管理部と営業企画部との共同で進めてきました。既存の社内規程を見直し、不足部分は情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ・ハンドブック」を参考にして、メンバー3名で1年をかけてアップデートしました。この4月に弊社独自の「情報セキュリティ・ハンドブック」という冊子を全社員に配付しました。社員数もかなり増えてきたので、セキュリティに関するリテラシーの向上とレベルアップが狙いです。
そのほか、とくに指示されてやっていることではありませんが、仕事の効率化や改善につながることは積極的に提案し実践していこうと考えています。昨年は手動で行ってきた無線IPアドレスの設定やMACアドレスの登録・変更・廃棄などが煩雑で工数がかかるので無線環境の見直しとツールの導入を提案し、管理作業の効率化を進めました。結果として工数が減っただけではなく、全拠点どこでも安全に社内無線が使えるようになり、拠点移動して会議する社員にとっての利便性向上にも貢献することができました。
李 私の担当は、IBM iとPower、Power Virtual Serverに関する価値ある情報をお客様とパートナー様にお届けすることですが、仕事は大きく分けて4つあります。1つ目はお客様とパートナー様への提案活動、2つ目はパートナー様のサポート活動で、パートナー様と定期的にミーティングをもちIBM iの最新情報をご提供しています。またパートナー様からのご質問に回答する役割も担当しています。受けたご質問の大半は最適な回答をしてくれる先輩たちへのエスカレーションですが、私自身でお答えできることを増やすのが目下の課題です。そして3つ目は情報発信、4つ目はセミナーや勉強会の講師やサポーターです。
お客様とパートナー様への提案活動では、先輩たちに相談したり社内の膨大なリソースを調べて最適なソリューションを見つけることに取り組んでいます。そうしたときによく思うのは、IBM iやPower、PowerVSの最新機能が市場ではあまり知られていないということですね。IBM iはAIやオープンソースとの連携でも最先端をいっています。またIBM Navigator for iなどのお馴染みのツールも進化を続け、さらに便利な使い方ができるようになっています。そうした優れた特徴のある機能を、Qiitaや動画、セミナーなどでどんどん発信していきたいと思っています。
加藤 私は大手通販会社の基幹システムの保守を担当していますが、最近は上流工程の見積もり〜設計に関わることが増えてきました。目下取り組んでいるのはPayPayやLINE Payなどの新しい決済方法の追加で、お客様と一丸となって要件定義を進めています。お客様としては決済手段の不足による販売機会の損失を防ぎ、新しいモバイル決済によって売上を伸ばしたいところなので、私たちもお客様と一体になって急ピッチで作業を進めています。
私自身は上流工程の仕事に面白さとやりがいを感じ始めています。要件によっては複雑な実装にせざるを得ないところもありますが、そこをいかにシンプルな仕組みにまとめるか。やさしくはありませんが、面白くやりがいのあるところだと思っています。
もう1つの取り組みは、作業全体の品質の維持・向上です。その目的に向けて数カ月前にプログラム開発を標準化した「開発フレームワーク」をお客様とともに整備し、現在も改良を試みています。開発・保守は人の経験・スキルに負うところが多く環境・状況の影響も受けますから、品質を常に一定以上に保つのは大きな課題です。私はチームのサブリーダーとして、品質の維持・向上に率先して取り組むことが役割だと考えています。
若い世代の交流の場があると
気づきや発見がたくさんある
i Mag 先ほど李さんから「IBM iやPower、PowerVSの最新機能があまり知られていない」というお話がありました。これについて加藤さんはどう感じていますか。
加藤 最近、COBOL・CLで書かれた基幹プログラムのJavaへのコンバージョンや、外部システムとのAPI連携をJavaで開発する仕事が多くなっています。するといろいろな局面で“ここはどうすればいいのか”と確認したいことが出てきます。Javaのいいところはネットで調べれば簡単にそれなりの回答を得られることですが、RPGやIBM iだとそうはいきません。システム開発でやりたいこと増えてくるとJavaを使うことのメリットが増すように感じています。
i Mag そうした状況がある中で、若手のIBM i技術者を増やしていくにはどうしたらいいと思いますか。みなさんの意見を聞かせてください。
山口 私もシステム開発を担当しているときに、この命令文はどう使うのだろう、といったことをネットで何度も探したことがあります。しかしあまりヒットしないのですね。ネット上にはIBM i・RPGの実践的な情報はほとんどないという印象です。
開発をしていると悩んだり壁に当たったりすることが、若い世代ではとくに多いと思います。なので、若い世代のIBM i技術者が集まって交流できる場があると、情報交換したり、同じ悩みを抱えている人がいることがわかって心が楽になるとか、いろいろといいことがあるような気がします。
私は他社のIBM i担当者と運用管理について意見交換をしたことがありますが、同じようなことで悩んでいたり、新しい発見や気づきもたくさんあって、とても有意義な時間を過ごしました。ツールや製品に関して生の感想を聞けたのも貴重な経験でした。
加藤 IBM iではクラウドが若い世代を引き付けるテーマではないかと思います。私のチームでも若い人たちはみんなクラウドに強い関心をもっています。オンプレミスのIBM iをクラウドへ移行することや、IBM iとクラウドを連携させることは今ではごくふつうですから、クラウド関連の情報を若いIBM i技術者向けに発信・提供していくのは意味のある取り組みになると思えます。
李 山口さんがお話になった若手IBM i技術者の交流の場については、ちょうど今、日本IBMが若手コミュニティ(IBM i RiSING)を立ち上げようとしています。6月にスタートし、計3回開催し、10月にIBMの天城の施設(静岡県伊豆市)で終了するスケジュールです。IBM iの経験が10年未満の人、もしくは新しいテクノロジーにチャレンジしてみたい技術者なら誰でも参加でき、年齢制限はありません。たくさんの方に参加していただきたいですね。
私自身の若手IBM i技術者を増やす考えとしては、大学でIBM i・RPGを学べるコースがあるといいのではないかと思っています。それと学生が低料金で学べるオンラインのコースですね。IBM iに触れるのは社会人になってからが大半だと思うので、それよりも前にIBM iに触れる機会があると状況は少しずつ変わっていく気がします。
i Mag 最後にみなさんのキャリアプランや目標を教えてください。
加藤 上司から技術力をさらに高めることを指示されていますが、自分としても今後のキーとなる技術は貪欲に吸収していこうと考えてます。直近では「AWS認定ソリューションアーキテクトプロフェッショナル」の取得が目標です。すでに「AWS認定クラウドプラクティショナー」と「AWS認定デベロッパーアソシエイト」を取得済みで、AWSでもチームをリードできる技術者になろうと考えています。
山口 先ほどの無線環境の見直しとMACアドレスの管理ツールの導入のように、社内全体を見渡して効率化したり改善できることは積極的に提案し実践していきたいと考えています。あとは、自分たちにしかできないことを見極めて技術やマネジメント方法を磨いていき、この人に相談したら何か返してくれると思ってもらえるような頼られる存在になりたいと思っています。
李 私はテクニカルセールスとして、技術と営業の両面で成長していくことが目標です。IBM iに関しては初心者なので、とにかく勉強です。とくにIBM iとオープンソースとの連携やAIは新しい領域ですので、意識して力をつけていきたいと考えています。営業についてはお客様とお会いする機会を増やし、お客様との関係を広く深く築いていくことです。今は営業における話術を深めることをテーマにしています。
撮影:広路和夫
[i Magazine 2024 Summer 掲載]