清水 健一氏
SBSリコーロジスティクス株式会社
経営企画本部 情報システムセンター
センター長
清水健一氏は20数年のキャリアの中で、オープン系システムからIBM iへの回帰やIT人材育成のため独自のスキル標準の策定、会社全体のシステム/ネットワーク基盤の一新など数々の改革をリードしてきた。そして現在、グループ横断の情報システム機能の再編を進行中である。同氏の歩みと取り組み中の内容について、話をうかがった。
志願して運用チームへ
ITSMを導入し運用・保守改革
i Magazine(以下、i Mag) 清水さんへの取材は4回目となりますが、ご経歴をうかがうのは初めてですね。
清水 私は2000年に新卒で前身のリコーロジスティクスに入社し、システム部門に配属されました。IT職としての採用で、入社後は工場系の物流システムの開発に従事しました。運送管理や貿易管理、倉庫管理といったシステムです。
そして2012年にスタートした「倉庫管理システム」の再構築では、PL(プロジェクトリーダー)として、サーバーのIBM iへの統合や開発言語をRPG Ⅳへ統一するプロジェクトを担当しました。
i Mag そのあとはどのようなご経歴ですか。
清水 いろいろ考えて、志願して運用チームへ異動させてもらいました(2015年)。というのは、システムの効果を上げるには開発だけでは限界があり、運用の最適化も必要だからです。
システムの運用・保守は当時、開発したチームが担当するタテ割りの体制になっていました。そのためにシステムを開発すればするほど開発チームの負担が大きくなり、さまざまな業務やシステム部門全体の生産性に影響が出ていました。
そこでITSMを導入して、「サービスデスク」という1次受けの運用・保守チームを設置しました。どのチームが開発したシステムでも、運用・保守やヘルプデスク、マニュアルの作成などは一元的にサービスデスクが担当します。そしてサービスデスクで対応困難なものについては、2次対応へエスカレーションするという仕組みを作りました。
i Mag 改革はスムーズに進んだのですか。
清水 当時は3.11(東日本大震災)後の物流業界全体が厳しい時期だったので、社員の間でコスト削減や効率化の意識が高まっていました。それと経営トップの全面的なバックアップもあったので、改革はスムーズに進みました。また「やりたいのならやらせてみよう」という組織風土もありました。
ただし新しいルールでは、サービスデスクの対応時間を8~20時としたり(以前は時間の制約なし)、サービスデスクへの問い合わせはメールに限るなどとしたので、“以前よりも不便になった”というクレームはたくさん来ました。しかしそこはトップの後押しが大きかったですね。
i Mag 効果はどうでしたか。
清水 運用コストは従来比で30%削減できました。また開発と運用を分けたことで、システム部門全体の生産性が上がりました。
i Mag 大きな成果ですね。
清水 想定以上の成果を上げられたと思っています。改革の取り組みは2018年に終了しましたが、それが一段落したところで、リコーロジスティクスがSBSグループの傘下に入ることになりました(2018年6月)。
SBSグループを横断する
情報システム機能の再編へ
i Mag そこからシステムとネットワーク基盤の移行・構築へと進むのですね(i Magazine 2023 Autumn号に関連記事)。
清水 そうです。旧社のシステム/ネットワーク基盤はリコーグループのものを利用していたのでそれから離脱し、SBSリコーロジスティクスの基盤を作る必要がありました。そのプロジェクトは完了まで約4年の時間を要しましたが(2022年3月完了)、ネットワーク基盤の設計・開発は初めての経験だったので、苦労もし、得るものも多くありました。
そして次に取り組んだのが、SBSグループとしてITをどう活用していくか、という大きなテーマでした。
i Mag それはどういうものですか。
清水 SBSグループではそれまで、ホールディングスが各社の情報システムを統括するという形を取っていましたが、個社の運営の色が強く、グループとしてのITビジョンや戦略は弱い面がありました。それを策定して軌道に乗せるのが、私たちの新しいミッションです。
私たちSBSリコーロジスティクスの情報システム部門は、リコーロジスティクスがSBSグループに入るのと同時に、ホールディングスの情報システム部門としての役割も与えられました。SBSリコーロジスティクスの情報システム部門との兼任です。ホールディングスが旧社を買収した目的の1つは情報システム部門の獲得にあり、その技術力や経験・知見をグループ全体の戦略に活かす狙いがありました。
i Mag 具体的にどのようなことを進めたのですか。
清水 2023年4月にグループとして情報システム機能の再編が行われました。具体的には、グループ全体と個社ごとのITソリューションニーズに応える統一的なIT戦略窓口として「ITソリューション推進部」と、グループ共通のITインフラ運用を担当する「グループITインフラ統括部」の2つの部署を新設しました。ITソリューション推進部はバーチャルなチームで、各情報システム部門の課長クラスがメンバーです。
ITソリューション推進部では営業情報の共有化とPC調達の一元化に取り組んでいます。営業情報の共有化は、各社で営業支援システムを導入していたので下地がありましたが、とはいえグループ全体の営業管理の統合となると、要件はまったく変わります。今はその検討を進めています。
もう1つのPC調達のほうは、グループ内PCレンタル制度を構築し、一元的に調達からキッティング、デリバリーまでをサービス化しました。PCのセキュリティの基本はPC本体ですから、社内でキッティングを集中化することによってガバナンスを徹底できます。またPCは社内使用だけでも数千台に上りますから、調達を一元化しキッティング/デリバリーを集中するだけでも効果は絶大です。またその機能をお客様に提供中の「流通加工サービス」(PCのキッティングサービスなど)と連動させ、サービスの高度化につなげることも可能です。
シナジー効果を高めるために
手探りの取り組み
i Mag プロジェクトは順調ですか。
清水 それが意外にむずかしく、いろいろと模索している状況です。
i Mag というと。
清水 グループ各社のシナジー効果を高めるには、各社に共通する要素の集約化が必要ですが、その集約化のプロセスで各社それぞれの強みとなっている個性を削ぎ落しかねないので、その線引きが非常にむずかしいのです。
約50社あるSBSグループのうち総合物流企業は18社ですが、それぞれに特色のある事業を展開しています。お客様へのきめ細かい対応を特徴とするメーカー物流もあれば、ローコストオペレーションに強い会社もあります。国内、海外、食品、3温度帯、即日配送のそれぞれで個性を発揮する会社もあります。その中で何を共通要素とし何を各社の個性として独立させるかは、正解があるわけではないので、答えは簡単には導き出せません。グループITの活動を約1年間続けてきて、その本当のむずかしさがわかってきたという状況です。
i Mag 打開策について考えていることはありますか。
清水 方向性としては、個社の思考を脱してグループ視点で解決を図るということですが、各社ともそれぞれの企業文化の中でやってきているので、いろいろな考え方があります。その中で共通のものを見出し、あるいは受け入れていくためには、ある意味で多様性を認めていくことが必要なのだろうと思っています。そのためには発想の転換が不可欠ですが、そこに到達するには一朝一夕にはいきません。時間も必要です。
i Mag その多様性をどうマネジメントしていきますか。
清水 私たちの部門でもプロジェクトのスピードに追随していくために、さまざまなITキャリアの人を採用しています。かつてのリコーロジスティクス時代には事業がそれほど急成長していなかったので、内部で人材を育成し徐々に戦力にしていけましたが、今はそれをやっている余裕はありません。特定分野に強いエキスパートを即座に採用し、一気にプロジェクトを進めるということをやらざるを得ません。
多様性マネジメントの考え方としては、いろいろな人とうまくやっていくスキル・知見をどう身につけられるようにしていくか、全体の底上げをどう図っていくかだと思います。
しかし、バックグラウンドの違う多様な人と一緒にやるということでは、若手のほうがはるかに長けているように感じています。私のような40以上の世代になると競争環境の中で育ってきたせいか、バックグラウンドの違う人と一緒になると妙に改まったりして、打ち解けるまでに一定の時間がかかるというようなことが起きがちです。そうした世代や個性の違いも視野に入れながら、多様性を培っていく風土や仕組みが必要だろうと思います。
i Mag 特定分野に強みをもつ人やエキスパートの採用となると、人事制度や報酬などにも関係しそうですね。
清水 そこは考え直さないといけないと思ってます。物流会社のIT技術者として、しっかりと成長できるような制度を設計するつもりです。
i Mag SBSグループの先進的なIT改革は、まさにこれからなのですね。
清水 そのとおりです。ただしグループ視点でシナジー効果を高めていく努力は、この先も続けていく必要のある重要な点だと思っています。そこで思うのは、見直しや軌道修正を俊敏に行うことの重要性です。状況はどんどん変わっていくので元の計画にとらわれ過ぎると、それはそれで別の方向へ行ってしまいます。
グループITの活動を始めてからいろいろなことが新たに見えてきましたが、これからも実験のような手探りの取り組みが続いていくのだろうと考えています。
清水 健一氏
2000年に新卒でリコーロジスティクス入社。SBSホールディングスによる同社買収によりSBSリコーロジスティクスへ移籍。旧社から新社へのシステム/ネットワーク基盤の移行・構築や、SBSグループが千葉県に新設した「野田瀬戸物流センター」のECプラットフォームの構築をリードした。2023年4月より現職。
SBSリコーロジスティクス株式会社
本社:東京都新宿区
設立:1964年
資本金:4億4800万円
売上高:連結:1018億円、単体:856億円 (2023年12月期)
従業員数:連結:4329名、単体:2029名 (2023年12月末現在)
事業内容: 一般貨物自動車運送、貨物運送取扱、コンピュータ・事務用機器類およびその消耗品の回収・リサイクル、倉庫業および保税上屋業などの各事業を展開
https://www.sbs-ricohlogistics.co.jp/
[i Magazine 2024 Spring掲載]