SBSリコーロジスティクス株式会社
本社:東京都新宿区
設立:1964年
資本金:4億4800万円
売上高:連結:1111億円、単体:931億円(2022年12月期)
従業員数:連結:4029名、単体:1918名(2022年12月末現在)
事業内容:一般貨物自動車運送、貨物運送取扱、コンピュータ・事務用機器類およびその消耗品の回収・リサイクル、倉庫業および保税上屋業などの各事業を展開
https://www.sbs-ricohlogistics.co.jp/
大型プロジェクトで
RPG要員の確保が課題に
SBSリコーロジスティクスは、大手企業のオフィスサプライ通販事業の中部以東(北海道まで)の物流業務を一手に引き受けている。首都圏では従来、東京の城南島と板橋の2つの物流センターを利用していたが、取扱量の伸びが両センターのキャパシティに迫る勢いであったため、約2年をかけて「物流センター横浜金沢」を建設した(2021年10月オープン)。
同センターは、敷地面積約2万7000平方メートル(約8000坪)、延床面積約5万4000平方メートル(約1万6000坪、サッカーコート2面強)という大型施設。大型トラック37台が着車可能な4階建ての建屋に、ロボット120台が昼夜稼働するロボットストレージシステム(「オートストア」2基)や最新のマテハン設備などを配置し、それらを先進的なITシステムで連動させることにより、自動化・省力化と物流生産性の大幅な向上を実現した物流センターである。
同社の情報システムセンターは、その大型物流センターのシステム構築を担当した。しかし着手にあたっては「要員面で大きな課題がありました」と、情報システムセンターの清水健一センター長は振り返る。
「当社では横浜金沢のプロジェクトに先立って、2019年6月に自社ネットワークとシステム基盤を構築する大型プロジェクトをスタートさせていました。そのため横浜金沢のプロジェクトに要員を割り当てる余力がほとんどなく、システム要員をどう確保するかが大きな課題でした」(清水氏)
同社は2018年8月にリコーグループから離脱し、SBSホールディングスの傘下に入った。
「従来のネットワーク・インフラはリコーグループの基盤を利用していたため、新たなインフラ構築と国内100拠点のシステム移行が必要になりました。とくにネットワークやセキュリティ・インフラはユーザーとして利用するだけで知見がなかったので、一から調べるところからスタートしました。そして、ベンダーロックインされず自社で保守・運用管理できることを最大のコンセプトとして約4年の歳月をかけてシステムを構築しました(2022年3月完了)。経験したことのない一大プロジェクトで、要員の大半を投入していました」
WindowsからIBM iへの
切り換えは、今しかない
物流センター横浜金沢の新システムは、城南島と板橋の両センターで運用してきたWindowsベースのオーダーピッキングシステム(OPS)をIBM iベースへリニューアルし、その上で横浜金沢で必要なシステムを追加するというもの。つまり業務ロジックは変更せずに、IBM iベースでリビルドする方式とした(図表1)。
ただし、この方式に対しては多方面から強い反対意見があった。「実績のある現行システムを継承すれば移行リスクを最小化でき、要員面でもパートナーの支援を受けやすく、スムーズな移行が可能になる」という反対意見だった。
しかしながら清水氏らは粘り強く説得を続け、IBM iへの切り換えを決断した。
「従来のWindowsベースのOPSは開発から20年近く経ち、ハンディターミナルが専用OSであることの制約や、資産継承性がないWindowsサーバーを使い続けることのデメリット、Oracleを利用することのリスクとコスト増などさまざまな問題が顕在化していました(図表2)。
当社の将来を考えたら、どこかの時点で従来からのシステムを変えるしかありません。将来のどこかで苦労するのなら、今苦労して移行したほうがよいと考え踏み切りました」(清水氏)
オープン系技術者3名を選抜し
IBM iへの移行PoCを実施
しかし、新システムをIBM iベースで構築すると決めたものの、今度は開発を担うIBM i技術者の確保が課題として浮上した。
そこで情報システムセンターが選択したのは、それまでWindowsベースのOPSの運用を委託してきたパートナー企業のIBM i経験がない技術者を短期間に育成し、戦力にするというプランだった。
マイグレーションの規模は、機能数で118、画面数で402という大規模なもの(図表3)。
これを約2年弱で完成させる必要があった。しかし清水氏は「なんとかいけるだろうという見通しがありました」と話す。
同社はそれまで、「SBSリコーロジスティクス開発標準」をべ―スに、IT知識ゼロの新人をシステム要員へと育成する取り組みを長年にわたり続けてきた。その手法と経験を踏まえれば、「なんとかいける」という手がかりがあったのである。
情報システムセンターでは、パートナー企業向けの育成プランを次のように立てた。
最初に「SBSリコーロジスティクス開発標準」を学習してもらい、同社の開発ルールを理解してもらう。ただし開発標準はかなりのボリュームなので座学だけで習得するのは困難と考え、サンプルプログラムを用意し、それを真似て開発を進めてもらうことにした。
次にPoCを実施し、今回のマイグレーション作業をIBM i未経験者が担当した場合の問題点の洗い出しと、工期見積や課題解消のための情報の収集を行うことにした。またPoCではパートナー企業から3名を選抜し、全118機能のうちの20機能のマイグレーション作業を先行的に基本設計フェーズで実施することにした(図表4、パートナー企業の要員数は、本格作業時に30名まで拡大)。
IBM i未経験技術者を開発戦力とするプロセス
マイグレーション作業の内容は、現行ソースの解析→要求仕様の把握→新アーキテクチャに基づく機能開発→プログラム実装、というものである(図表5)。
不明点や問題をExcelへ記入
サポートチームがすぐに回答
PoCの結果は図表6のようになった。
PC画面系とPCバッチ系の1本目の工数が見積を大きく超過した。2本目以降も30%以上の超過である。この結果を見て清水氏は、「このままでプロジェクトを完遂できるのか」と、不安を抱いたと話す。
しかし問題を精査すると、Biz/BrowserとIBM iをベースとする同社固有の開発手法の習得に時間を要したこと、追加開発を繰り返してきた現行プログラムの可読性が悪く予想以上に手間がかかったこと、WindowsベースとIBM iベースで技術の違いがあり単純な移植が行えなかったこと、工数自体を少なく見積もったこと(作業難易度の見誤り)が工数超過の主な要因であることが判明した。
「WindowsとIBM iベースの違いでは、ソースメンバー管理の概念がWindowsにないことや、OracleとDb2 for iでSQLのロック(排他制御)のかけ方に違いがあることなどが、メンバーたちの戸惑いと停滞の原因になっていました。またメンバーたちは不明点が生じると自ら解決しようとがんばり過ぎてしまう傾向があり、それも工数超過の要因でした」と、情報システムセンター デジタル推進部 部長の田玉雄一氏は説明する。
そこで同社では、開発作業の途中で不明点や問題が生じた場合は内容をメンバー共有のExcelシートに記入し、サポートチームがすみやかに回答するというルールを導入した。
プロジェクト終了までにExcelシートに記入された項目数は298件。「Excelシートへの記入にこだわり、回答・解決を継続したことが、プロジェクトをスムーズに運べた1つの要因でした。また対面でもやり取りし、解決策について理解しているかの確認も随時行いました」と、田玉氏は話す。
また同社では、マイグレーションする機能を難易度別にランク分けし、さらにメンバーをIBM iに対する習熟度でレベル分けし、2つをマッチングさせて担当者をアサインする方法をとった。
「これにより、プロジェクトの停滞をより減らすことができ、サポートにかかる工数もより少なくできました。パートナー企業のメンバーもより快適に作業できたのではないかと考えています。また難易度がとくに高いものついては当社スタッフの担当とし、外部メンバーへの無理な依頼を避けるようにしました」と、デジタル推進部ソリューション一課の菊地大和課長は話す。
プロジェクトは計画どおりに進み、2021年11月5日に本稼働を開始した(図表7)。
今後はITエンジニアに特化した
給与体系や就業制度の整備も視野に
情報システムセンターは現在、千葉県野田に建設中の「EC野田瀬戸物流センター」(2024年2月開設予定)のシステム化を推進中である。同センターはSBSグループのEC物流事業の中核となる拠点で、2030年にはEC物流の売上で「プラス1000億円」を目指すという戦略拠点である。構築中のシステムは、アパレル・食品・化粧品など幅広い業種の企業がすぐにECビジネスをスタートできるプラットフォーム機能(名称「EC物流お任せくん」)を備えているという。
情報システムセンターは、SBSグループ全体のシステムも担当範囲である。同センターを率いる清水氏は、IT人材について次のように語る。
「SBSグループは目下、事業拡大の方向へ大きくシフトしています。そのため開発案件が非常に多く、IT人材は常にひっ迫している状況です。その解決策としては、外部からの調達やパートナーとの緊密なタッグ、新卒採用の拡大などがありますが、どれも簡単には進みません。SBSグループに入る前の旧社の事業規模であれば内部の人材育成で要員を確保できましたが、当社の事業規模とスピードにはそれだけでは追いつきません。現在は採用チャネルの拡大とともに、教育・トレーニングの充実によりスタッフのレベル向上を図っています。今後は外部からの人材調達をしやすくするために、ITエンジニアに特化した給与体系や就業制度の整備も視野に入れる必要があると考えています」
[i Magazine 2023 Autumn(2023年12月)掲載]