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オープン系サーバーからIBM iへの移行で見えてきた柔軟なソフトウェア基盤、内製体制の確立、人材育成の在り方 ~服部 陽介氏 ~IBM iの新リーダーたち❽

服部 陽介氏
立命館大学 情報システム部 情報システム課 課長

 

立命館大学は2018年に、IBM i上で新しい事務情報システム「RISING 4」を本稼働させた。それまで運用していたオープン系サーバーから、新たにIBM iへの移行である。柔軟で資産継承性の高いソフトウェア基盤を構築したことで、開発の内製体制を確立し、新たな人材育成やスキルトランスファーにも挑戦した。「RISING 4」の開発・運用部隊である情報システム課を率いる服部陽介氏に、その挑戦と変化の極意を聞く。

 

i Magazine(以下、i Mag) まずこれまでのキャリアを簡単に教えてください。

服部 私は大学卒業後の1999年に、国内のSIベンダーに入社しました。そこではシステムエンジニアとして、主にJavaやVisual Basic、.NET、C#などのオープン系技術を使って、法人系や金融系のお客様システムの開発や自社パッケージ製品の企画開発に携わっていました。体得したスキルと経験を活かし、コーポレートIT領域に挑戦できる次のステージを探している中、ご縁があって2011年に立命館大学の職員へと転職しました。未経験の業界でしたが、情報システム部に所属し、教育機関のシステムエンジニア的な役割として再出発となったわけです。事務系システムの保守・運用の業務を中心に、学生の学修支援システムの導入、事務用PC環境整備等の業務に携わり、基幹システムである「事務情報システム」の更新プロジェクトにもメンバーとして従事し、2018年後半から現職となりました。現在は、事務系システムの保守開発、事務系情報環境の整備を中心に、職員事務のIT環境整備を統括しています。

i Mag  2018年にIBM i上のWebアプリケーションとして、事務情報システム「RISING 4」が本稼働しましたね。

服部 立命館大学の基幹システム、すなわち学生や教職員、志願者が利用する事務情報システム「RISING」には長い歴史があります。まず1990年に「RISING Ⅰ」がメインフレーム上で稼働し、1998年に「RISING Ⅱ」として、クライアント/サーバーシステムへ移行しました。2006年には、「RISING Ⅲ」をオープン系のWebアプリケーションとして再構築し、2018年からはIBM i上のWebアプリケーションとして「RISING 4」を稼働させています。現在で、第4世代ということになりますね。

i Mag  オープン系からなぜ、IBM iへ移行したのですか。

服部 RISING 4の開発の背景には、教学制度改革やシステム利用者の変化への対応など、いろいろな課題がありました。中でも情報システム部に大きな負担となっていたのは、ソフトウェア基盤として資産継承性に欠ける点、そして開発・維持管理体制の維持が難しくなっていた点です。前システムが稼働していたWindowsやLinuxなどのオープン系環境では、OSがバージョンアップすると、それに伴ってアプリケーションやミドルウェアの移行・改修作業が発生します。インフラを更改するだけで、つまり現状を維持するだけで、定期的に多額の予算が必要になるわけです。

それに前システムでは、カスタマイズや追加開発・拡張などの作業をすべてパッケージ製品ベンダーに委託していたため、保守費用、移行開発費用、運用保守などの維持管理コストが増大していました。

情報システム部ではこうした課題を解決するために、柔軟で資産継承性の高いIT基盤を構築するとともに、自前開発型かつ再利用型のソフトウェア基盤を整備して、内製型による開発体制を確立したいと考えました。その答えが、IBM PowerとIBM iの採用だったわけです。RISING 4の構築に際しては、「立命館スタンダード」と呼ぶべき独自のソフトウェア基盤とアプリケーション・フレームワークを確立して、内製体制の基盤も強化しました。

i Mag  2018年に本稼働して以降、RISING 4は着々と機能拡張を続けてきましたね。

服部 そうですね。2019年4月には、学生の顔写真を含めた学生情報を完全電子化し、紙の学籍簿を廃止しました。またこの年の11月には、教員による次年度出講内容の確認機能や、これまで紙で提出されていた履歴書/業績書のオンライン提出機能など、教員向けWeb機能も大幅に強化しています。2020年4月にはRISING 4ベースで、汎用的なWeb申請システムを開発しました。学内各部門ではこれを使って在学生や学外者に向けたWeb上の独自アンケートや申請フォームを作るなど、日常業務に幅広く利活用しています。もちろん各システムの既存機能も、現場のニーズに合わせた保守開発を毎年継続的に実施しています。

i Mag 現在はどのようなプロジェクトが進んでいますか。

服部 RISING 4ベースで進行している特徴的な開発プロジェクトは今、2つあります。1つはRISING4上で立命館アジア太平洋大学の事務情報システムを再構築するプロジェクトです。立命館大学で安定運用中のプログラム資産の多くを再利用する形で取り組んでいます。大学独自の業務要件部分を既存プログラムに対してカスタマイズすることで、合理的に更新開発が進むよう工夫しています。

もう1つは、立命館大学の研究予算管理システムの開発プロジェクトです。これは研究費適正執行のための業務基盤を強化・整備するもので、既存の電子ワークフローシステムを中心に構え、複数システムを組み合わせて全体を構成します。そこに含まれる1つがRISING4上に準備するシステムとなります。ワークフローシステムとRISING 4上のシステム、複数のECサイトサービスとの間でリアルタイムにデータ連携を行う要件があり、新たな試みとして、RISING 4の業務プログラムをWeb APIで呼び出せる仕掛けを独自開発して実装しています。

どちらも内製型で開発を進めていますが、RISING 4で確立したアプリケーション・フレームワークを利用し、既存のコンポーネントを流用できるので、開発生産性はきわめて高いです。RISING 4が目指した柔軟な内製体制が確実に実現しているように思います。

i Mag IBM iをベースに目指した開発コンセプトは、進行中のプロジェクトでも活かされていますか。

服部 そう思います。RISING 4が目指した開発コンセプトの1つに、「マルチテナント」があります。今回、立命館アジア太平洋大学の事務情報システムをIBM i上で稼働させるのに際して、このマルチテナントのコンセプトをうまく活かせていると考えています。

また2023年12月〜2024年1月に、IBM Powerのサーバーを更改します。Power10 S1024に世代交代する予定ですが、非互換を気にする必要がないので、その間も開発を凍結する必要がなく、安定的に運用を継続していけるし、基盤のバージョンアップに伴う既存アプリケーションの改修もまったく必要ありません。あらためて、ロングライフな基盤であるIBM iの資産継承性の高さを実感しており、当初からの狙いを実現できていると感じています。

i Mag 現状の開発業務のなかで、なにか解決すべき課題はありますか。

服部 IBM iと外部のオープン系システムをどう連携していくかが、今後の大きなテーマですね。先ほどもお話ししたように、現在進行中の研究予算管理システムでも、システム同士をAPIで連携しています。現在はWeb APIを独自開発しているのですが、外部のベストソリューションとの多種多様な連携を考えると、サードベンダー製ツールを含めて、今後はIBM iと外部システムの連携手法を見定めていく必要性を感じています。

システム連携をより発展的に考えると、RISING 4システム基盤上の業務機能をマイクロサービス的に提供して幅広く利活用するための検討や取り組みが必要であり、独自のフレームワークの1つとして実装方式の標準化を進めていきたいです。決して派手ではありませんが、学内のDXを支えるうえで今後必要になるものだと考えています。こういった課題の解決に向けては、本学の内製開発体制に加え、IBMをはじめミドルウェアを提供いただいている各ベンダーも、私どもにとっては持続性のある大切な協業体制であると強く思っています。

i Mag オープン系環境からIBM iへの移行に伴うスキルトランスファーで、人材育成の考え方に変化はありましたか。

服部 現在、情報システム部は総勢22名、私の統括する情報システム課には14名が所属しています。情報システム課では、事務系各システムの開発・保守や事務環境整備等の業務を行っていますが、外部のIT企業で専門スキルを生業とした業務経験のある職員は私を含めて3名。そのほかは本学の別部門で業務経験を積んで配属された職員と、他業種から転職して着任している職員です。本学では定期的に職員の人事異動があり、いろいろな部門の業務を経験させようと、ジョブローテーションが活発で、情報システム課に所属となった職員は、システム保守開発業務を通じて習熟するのが基本の流れです。職員は専門職ではないので、技術職としての役割を継続するのは、現時点ではグループ会社であるクレオテックとの協業で成り立っています。

そういった中、IBM iをベースとしたRISING 4の開発・運用を通じて内製主義に大きく舵を切ったことで、関わる全員にとってITの知識や技術の習得領域は広がったと思います。特にIBM iネイティブなスキルはきわめて専門性が高く、上手に操るには経験がモノをいう部分が多くあります。これについては、本学ではオープン系の標準技術に寄せたモノづくりを志向し、IBM iの技術やツール類も、できるだけオープン系スキルへ寄せています。

具体的には、開発言語としてフリーフォームRPG、フロントエンド部分を担うJavaScriptとCSS 、DBを操作するSQL、フレームワークの核となるXML-Bridge、Eclipseベースの開発環境であるRational Developer for i、そしてチーム開発を支援するIBM Engineering Workflow Managementなどです。これらの存在が、IBM iとオープン系スキルの距離を縮めています。IBM iに特有の、つまり非常に特殊なスキルを習得することなく、業務アプリケーションの開発を実現できています。

とは言え、オープン系の開発スキルを習得するのもまた大変なので、特に職員がシステム開発を推進できるよう、フレームワークによる独自のルールブックを整備しています。それに沿って作業を進めていくスタイルなので、スキル習得に苦労する場面はあまり見られません。用意されている「設計」と「設定」を組み合わせて開発を進めていく感覚でしょうか。実際の製造作業はクレオテックの技術者の協力を得ているので、情報システム課の職員には高度な技術力というより、業務仕様を理解し、現場からのニーズをうまく翻訳する能力を育ててほしいと考えています。いわゆる企画力とか、プロジェクト管理のスキルを磨いてもらいたいですね。実はそういったところで、他の業務部門での経験を活かせるケースが多いです。

情報システム課の職員とクレオテックの技術者がお互いに高め合い、業務知識とITスキルのバランス感覚を備えた人材とチームを育成していくのが、現在の目標です。

i Mag 立命館大学のDXをどう考えていますか。

服部 本学では、2021〜2030年にかけての学園ビジョンとして、「挑戦をもっと自由に」をコンセプトにした「R2030」を策定しています。ここでは多彩なデバイスやテクノロジーを活用し、学習支援の充実や、時間と場所にとらわれず自由に学べる新たな教育システムの構築が掲げられています。これまでのオンライン教育実践の検証を通じて、リアルとサイバーを融合した新たな教育モデルを構築しようとしています。オンラインで提供できることの幅・厚みと、キャンパス現地を中心としたリアルな空間の強みについて、それぞれの最適な融合によって価値を追求する必要があろうかと思います。そういった転換や改革を支えるための施策として、各種DXの検討や実践が始まっています。そのような中、情報システム部の役割は、まずは学園のDX実践を支えるITシステムやインフラ環境の整備を通じ、新たな価値提供や業務改善を実現していくことだと思っています。

i Mag 情報システム課を率いるリーダーに就任して、最も重要だと感じることは何ですか。

服部 リーダーになって事務業務のIT課題にかかわり、解決へ導く責任、導入目的を達成する責任を強く感じています。学園の大切な予算を投入するわけですから、構築目標のシステムに対し、予算を適切に執行できているか、今後長く継続利用していけるか、運用体制を継承していけるか、そしてもちろんセキュリティは万全か、といった点を評価しなければなりません。メンバーからリーダーになって、その取り組みや評価の重要性を実感する場面が増えました。

私の考えるリーダー像は、経験に裏打ちされた直観力、判断力をもつ人間であり、多様な考え方を追求し、自分をアップデートしていける人間です。RISING 4は成功を収めたと言えますが、過去の成功体験にこだわらず、新しい領域にチャレンジしていく精神も必要です。そして何より、チームとしての一体感を大切にしたいです。1人で物事を推進するのは難しいですし、多様な考えを持ったスタッフが集まることで生まれる、集合知の力が必要だと思います。私は前職で泥臭い作業を含め多くの開発に携わってきた経験から、自分なりのモノづくりの精神を身に付けました。身に染みついたこのクラフトマンシップを大切にしながら、チームや組織を牽引していけるように努力していきたいですね。

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服部 陽介氏

卒業後、1999年に国内SIベンダーに入社。システムエンジニアとして、主にJavaやVisual Basic、 .NET、C#などのオープン系技術を使って顧客システムの開発や自社パ ッケージ製品などの企画開発に携わる。2011年、立命館大学に転職し、情報システム部に所属。2018年11月より現職。

(撮影:山田太一)

[i Magazine 2023 Spring(2023年5月)掲載]

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