VSNが必要になる背景
仮想シリアル番号 (Virtual Serial Number。以下、VSN) では、ハードウェアの物理シリアル番号とは別に、論理区画 (LPAR) 単位にシリアル番号を割り当てられる。
VSNを割り当てた区画のIBM iソフトウェアは、IBM Power サーバーの物理的なシリアル番号に関連付けるのではなく、VSN に関連付けてオーダーまたは移転される。VSN にIBM iのライセンスおよびサポートの権利があることで、論理区画を別のPowerマシンに移動する際の柔軟性が高まる。
IBM i のライセンス・プログラムは、ハードウェアに対してソフトウェアの使用権が提供されている。OSや開発用のソフトウェア、HAやバックアップ用のソフトウェアなどは、ハードウェア・シリアル番号とプロセッサグループに基づいたライセンスキーを発行して管理している。ライセンスキーがないソフトウェアについても、個々のマシンに対して使用権が提供されているので、異なるマシンでは使用できない。
一方、HA環境など異なるマシンでソフトウェアを実行する、あるいは負荷を分散するために、稼働中の区画をLive Partition Mobility (LPM)で異なるマシンへ移動するといった運用を行う場合には、移動先のマシンにもIBM iのライセンスが必要になる。
このような運用について、バックアップ機に対するバックアップ・ライセンスやCBUによるライセンスの一時移転を行うことが可能であるが、一時移転は本番機が使用できない場合に限られる。一部の区画のみを移転する場合は、移動先マシンにライセンスが必要になる。
このようにLPAR区画を異なるマシンへ移動する際に、ライセンスも同時に移動できればソフトウェア使用権の問題は解決できる。そこで登場したのが、VSNである。
VSNの仕組み
VSNを使用するための要件は、以下のとおりである。
◎IBM Power9サーバー (FW950以降)
9009-41A、9009-41G、9009-22A、9009-22G、
9009-42A、9009-42G、9080-M9S
◎IBM Power10サーバー
9105-41B、9105-22A、9105-22B、9105-42A、
9080-HEX
◎HMC (9.2.950 以降)
◎IBM i 7.2 以降
VSNを使用するには、ハードウェアのフィーチャーである#EVSNをオーダーする。#EVSNは有償のフィーチャーで、VSNの区画を構成する数をオーダーする。#EVSNは新規またはMESでオーダー可能なので、あとからVSN区画を追加できる。
従来のハードウェアの構成とVSNを使用した構成を、図表1に示す。
図表の左は従来の構成である。すべての区画はハードウェアの物理シリアル番号を使用する。ソフトウェアは物理シリアル番号に対して提供され、すべての区画で同一のソフトウェアを使用する。
図表の右はVSNを使用した構成である。ハードウェアに#EVSNを3つオーダーすることで、3つのVSN区画を構成できる。各VSN区画は、ハードウェアの物理シリアル番号とは異なる独自のシリアル番号を持つことになり、ソフトウェアはVSN区画に対して使用権が提供される。ハードウェアの物理シリアル番号も存在しており、物理ハードウェアを識別するために使用され、VSN が使用されていない場合の区画のシリアル番号になる。
VSN区画は、VSN用のマシンタイプ・モデルであるIBM Virtual Server Serial 4850-VSNとして構成される。このVSN用の新しいマシンタイプ・モデル4850-VSNに対して、仮想シリアル番号が割り当てられることになる。
4850-VSNは、物理マシンのインベントリ・レコードと同様に、VSN ごとにIBMインベントリ・レコードとして作成される。4850-VSNはe-Configで直接構成することはできない。#EVSNをオーダーしたマシンに対してVSN用のCoDコードを生成することで、インベントリ・レコードが作成される。4850-VSNには、プロセッサグループを指定するフィーチャーが含まれる(図表2)。
4850-VSNのプロセッサグループは、VSNを構成する物理ハードウェアと同じグループが割り当てられる。インベントリ・レコードに登録された4850-VSNに対して、ソフトウェアをオーダーあるいは移転する。
CoDコードとVSNの生成
フィーチャー#EVSNがオーダーされたあとで、物理ハードウェアに対してVSNを構成可能にするには、IBM Entitled Systems Support (以下、ESS)のWeb サイトより、CoDコードを生成する。
従来は、CoDコードの生成はキーセンターへメールで要求していたが、2023年4月よりESSサイトから生成できるようになった。ESSサイトで、「My Entitled Hardware」「Power Capacity on Demand」を選択して、「Virtual Serial Numbers (VSN)」を実行する。
Virtual Serial Numbers (VSN)の画面で、「Generate new VSNs」を選択してCoDコードを生成する。生成されたCoDコードと仮想シリアル番号は、「Machine overview and VSN codes history」から確認する (図表3)。
ESSサイトでコードを生成するには、お客様番号(以下、CPNO)に対して「ソフトウェア・アップデートの注文、Elastic Daysの購入、エンタープライズ・プールの管理とクレジットの購入、ハイブリッド・キャパシティーのクレジットの管理」の権限が必要になる。
生成されたコードの参照には、CPNOに対して「インベントリ、Elastic 注文、エンタープライズ・プールとストレージCoDコードを表示」の権限が必要になる。
VSNを生成する際には、CPNOを指定できる。デフォルトは物理ハードウェアと同じCPNOで生成される。たとえばMSP(マネージド・サービスプロバイダー)用のマシンでVSNを構成する場合に、ユーザーのCPNOを使用してVSNを生成すると、そのVSN区画にはユーザーのソフトウェアを移転することが可能になる(図表4)。
CPNOは、一度VSNが生成され、インベントリに登録されると変更はできない。
VSNの実装
VSNを使用するには、まずVSN用のCoDコードをサーバーに入力する。HMCを使用して、CoD functions からVSN用CoDコードを入力する。CoDコードには予約済みVSNが含まれており、CoDコードを入力することで、予約済みVSNがサーバーで利用可能になる。
新しい区画を作成する、あるいは既存の区画を変更して、VSNの使用を選択することで、その区画はVSN区画となる(図表5)。
VSNのシリアル番号は、自動で割り当てる、もしくはプールのリストから選択するかのいずれかを指定する(図表6)。
1台のサーバー上で、物理シリアル番号を使用する区画とVSN区画を混在して構成することが可能である。
次に、VSN区画に対してソフトウェアを新たにオーダーする、または既存マシンから移転する。VSN区画は物理ハードウェアと同等とみなして、各VSN区画にそれぞれ使用するソフトウェアを構成する必要がある。
物理ハードウェアに対してオーダーされたソフトウェアは、そのままではVSN区画で使用できない。物理ハードウェアからVSN区画へ移転することで、VSN区画でソフトウェアを使用できる。プロセッサグループがP20以上の場合は、IBM i のOSライセンスをVSN区画へ移転できる。
VSN区画の移動
現時点でのVSNサポートはフェーズ1とされ、VSN区画の移動はオンプレミスの同一HMCで管理されたマシン間で可能である(図表7)。
これは、Live Partition Mobility (LPM) と同じ制限である。
移転元と移転先マシンは、同一のプロセッサグループである必要がある。また、VSNフェーズ1ではPower Enterprise Pools 2.0 (PEP 2.0) の環境はサポートされていないため、VSN区画をPEP 2.0のマシンへ移転することはできない。同様に、VSN区画を持つマシンをPEP 2.0のプールに追加することはできない。VSN区画の移動はオンプレミスの同一HMCで管理されているマシン間でのみ可能なので、Power Virtual Serverへは移動できない。
さらにVSNは複数区画では共有できない。VSNは区画ごとに固有で設定する必要がある。
ISVソフトウェア・ライセンスのVSNサポートについては、ISVへ確認する必要がある。
以上、VSNについて解説してきた。現在のVSNフェーズ1では、同一HMCで管理された同一プロセッサグループのオンプレミスのマシン間でのみ移動が可能で、LPMでの使用など利用可能な範囲が限られているが、今後フェーズ2、3と適用範囲が広がり、ユーザーにとってより便利な機能へ発展することが期待される。
著者
三神 雅弘 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power テクニカルセールス
アドバイザリー Power テクニカルスペシャリスト
1989年、日本IBM入社。AS/ 400のテクニカル・サポートを担当。日本IBM システムズ・エンジニアリングへの出向を経て、2004年よりテックライン、2016年よりビジネス・パートナー向けテクニカル・サポート、2018年よりIBM iブランド業務を兼任している。
[i Magazine 2023 Spring(2023年5月)掲載]