日本総研はリスキリングに関する調査結果を発表し、日本企業でのリスキリングの実態、人事部門が取るべき施策などについて解説した。
同調査は、従業員のリスキリングの実施状況およびリスキリングを促進する要素を把握し、企業の施策検討に資することを目的に、従業員規模300人以上の企業に勤める従業員3000名を対象として、Webアンケートを実施した。
◎会社員のリスキリングの実態
対象者3000名のうち、週の学習時間が0時間と答えた人は56.4%に上り、半分以上が将来のための学習に全く取り組んでいない実態が明らかになった。さらに年代別の学習時間の平均値は、20代から50代にかけて減少していく傾向が確認できた。特に、学習時間は50代で大きく減少している。
日本の組織では40代・50代の中高年が将来の仕事やキャリアに対して消極的になっている傾向があることが推察され、中高年社員の将来のキャリアにつながる学習へのモチベーションを引き上げていくことが、今後の組織マネジメントにとって重要な課題だと言える。
では、中高年を中心とした従業員の学習時間を増やすにはどのような視点が必要なのか。前年から学習時間が増えたと回答した人の理由を年代別に集計すると、どの年代でも「学ぶ目的ができたから」と回答した比率が最も多い。
その中でも40代・50代の中高年社員は60%以上が、学習時間が増加した理由として「学ぶ目的ができたから」と回答しており、他の年代より比率が高くなっている。
この結果から、金銭的なインセンティブや社内での評価といった外発的動機付け以上に、自ら学ぶ目的を見つけるという内発的動機付けがリスキリングに必要であることが明らかになった。?
◎リスキリングを促進する1on1のあり方
次に、リスキリングを促進するための具体的な施策についての分析結果では、上司と部下間での1対1のコミュニケーション手法として近年注目されている「1on1ミーティング(以下、1on1)」を適切に行うことがリスキリングの促進につながることが明らかになった。
ここでは、1on1を量と質の観点から捉えると、まず量の観点では、1on1の頻度が多いほど、週平均学習時間は長くなる。特に、週1回以上の1on1を実施している人の学習時間が顕著に長いことがわかる。
次に1on1の質の面では、「相談内容」と「1on1の相手」の2つの観点から分析する。前者について同調査では、上司との面談の際に相談している内容について質問した。そして、それぞれの内容を相談している人とそうでない人で群を分け、週平均の学習時間を算出した。
「社内での将来のキャリア相談」「社外も含めた将来のキャリア相談」を行っている人はそうでない人に比べて統計的に有意に学習時間が長いということが明らかになった(有意水準5%)。
また「1on1の相手」については、上司のみと1on1より、「人事部」「上司以外の相談役として会社が定めた人(キャリアカウンセラーやHRBP等)」「以前の上司や先輩」など、上司以外と1on1を行っているほうが、週平均学習時間が統計的に有意に長いことが明らかになった(有意水準5%)
◎人事部門がとるべき施策
これらの分析結果から、量と質の面で適切な1on1を実施すると、将来のための学習時間が増加する、つまりリスキリングが促進されると言える。
つまり適切な1on1の実施によって将来のキャリアや業務についての解像度が高まり、自ら学ぶ目的を見つけるという内発的動機付けが行われる。そして内発的動機付けの結果として、学習時間が増加するという流れでリスキリングが促進されていると考えられる。
こうした調査結果を踏まえると、人事部門の役割は、1on1が量と質の観点から望ましい形で実施されるように企画、運用していくことにあると日本総研は指摘している。
まず量の観点では、可能であれば週に1回以上、最低でも月1回以上の頻度で1on1が実施できるように人事部門が実施者双方をサポートしてくことが重要である。繁忙期に入ると、1on1のような活動は後回しにされがちだが、1回あたりの1on1の時間は短くてもよいので、1on1の頻度を確保することが重要であると周知し、習慣的に1on1が実施される環境づくりが求められる。
次に質の観点では、人事部門として1on1を展開する際には、将来のキャリアについて部下が相談しやすい場づくりの必要性が示唆される。たとえば、1on1実施前に、部下が「5~10年後に実現したいキャリアのイメージやプラン」「現状と理想のキャリアとのギャップや課題」等を記入するシートを作成し、それをもとに1on1でキャリアについて話すというような運用が考えられる。
さらに、従業員の希望に応じて、直接の上司以外との1on1を申し込めるような仕組みを作ることもリスキリングの促進には有効である。また、従業員のキャリア相談等に応じるカウンセラーの役割を社内に設け、上司とは異なる視点からアドバイスをするという施策なども考えられる。
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