人との出会い・チャレンジする機会を活かす
福井 和枝 氏
中橋システム株式会社
代表取締役社長[現 取締役相談役]
新卒入社でメインフレーム担当となり、
システム開発に興味を覚える。そして人に恵まれて知識を吸収し
自らも学びと知見を重ねて、会社の主要業務をすべてカバーする
業種特化のERPシステムまで完成させてしまう。
技術者から社長への歩みと社業について、レジェンドに話をうかがう。
[編集部] 福井和枝氏は2023年2月1日付けで「取締役相談役」となりました。
本記事は取材時の職位のまま掲載します。
新卒でメインフレーム担当に
プログラミングに快感を覚える
i Magazine(以下、i Mag) 福井さんは新卒入社の会社でシステム部門に配属されてITに出会うのですね。
福井 適正検査で振り分けられ、部員10名ほどの電算部門に配属されました。当時は、コンピュータのコの字も知らなかったので、最初にいただいたチャレンジの機会です。
i Mag そしてプログラミングを覚えていかれた。
福井 IBMのSEの方との出会いに大きな影響を受けました。頻繁に来社され、プログラミングのイロハから設計書の書き方、ユーザーの要望の読み解き方のコツまで、手取り足取り教わりました。視点が拡がりましたね。入社時のIBMメインフレームの記憶媒体は紙テープでしたが、カード、磁気テープ、ディスケット、ドラム缶(磁気ドラム)へとめまぐるしく変化していく時期でした。覚えることもたくさんあったのですが、辛いと思ったことは一度もなかったですね。仕事がだんだん面白くなっていきました。自分が書いたプログラムが動いて、業務が動くわけですからね。ちょっとした快感を覚えました。就業後の会社のサークル活動ではバンドでボーカルを担当したりして、とても楽しい毎日でした。
i Mag そこに5年ほど在籍して中橋タイル(中橋システムの前身)へ入社されます。
福井 結婚を機に退職し、福井から金沢へ移りました。ちょうど、コンピュータができる人を探しているというお話があり、お世話になることにしました。節目の大きな出会いの1つです。
当時の中橋タイルは100人以上の職人がいて、とても活気がありました。オフィスの天井からは「今年の目標5億5500万円!」なんて垂れ幕が下がっていて、目標を達成すると大入袋が出るのです。私は入社した年に5550円の大入袋をいただきました。
その時に、この文化はいいなと思いましたね。会社の目標がはっきりしていて、結果に対する方針も明確なのですから。
ミッションは
経営管理システムの開発
i Mag 中橋タイルへの入社時のミッションは何だったのですか。
福井 会社の状況を把握できる経営管理システムの構築でした。当時の2代目社長は就任から2、3年目の頃で、業績は伸びているものの、どこで儲かっているのか今一つ判然としない。それで危機感をもっておられたのだと思います。経営コンサルティング会社は、“勘は鋭いが「羅針盤なき経営」”と評していました。社長は「見える経営」を実践するというビジョンをおもちで、コンピュータを導入して「利益の源泉の確保」「事実を正確に把握し先手を打つ」 という明確な目的をおもちでした。
i Mag それでどうしたのですか。
福井 経営コンサルティング会社に指摘されたアウトプットを作成するには、インプットが必要です。でも私にはインプットがどうなっているのか、まったくわからないわけです。これはもう会社全体を把握するしかないと思って社長に相談し、まず経理部門に配属してもらいました。節目のチャレンジの機会の1つです。
当時の経理部門では、各部門の入金伝票や出金伝票、経費伝票などをぜんぶ集めて元帳に転記していました。そのほかに職人の日給月給の計算や銀行への振り込みなどもあり、大勢のスタッフがいたのです。私も一員となって経理業務をやり、そのかたわら、どんな発生伝票があるのかを調べ、経理処理の流れを図にした業務フローを作成しました。
3カ月くらいして経理の中身がわかったので、次はそこへ集まってくる発生伝票の中身の把握に取りかかりました。経理部門の次に倉庫での在庫管理、販売部門、工事部門と順番に異動させてもらって、約1年をかけて会社の主要部門を一回りしました。
i Mag 印象に残っていることはありますか。
福井 ここでも人に恵まれたことですね。どこの部門でもよくしてもらい、みなさん親身になって教えてくれ、今でも感謝にたえません。とても身になる、ありがたい経験でしたね。
経営管理の点では大きな課題が2つありました。1つは在庫管理です。実棚と帳簿上の在庫数に大きな差異があり、年単位で1000万円以上の差が生じていました。もう1つは工事の原価の把握です。
在庫に関しては、少しの間、倉庫の仕事を見ていました。すると出庫伝票の起票を、いろいろな商品の出庫が終わった後に思い出しながらまとめてやっているのです。それでは間違わないほうが不思議です。
そこで出庫伝票を先に書き、その伝票をもとに出庫するように業務ルールを変えてみてもらいました。同時に、同じ商品でもあちこちの棚に分散していたので、商品の配置場所と棚番号を固定化してもらいました。この業務のやり方が落ち着き、実棚と帳簿上の在庫数があうようになるのは、結局3年くらいかかりましたね。
i Mag まさにBPR(業務プロセス改革)ですね。もう1つの工事原価管理はどうされたのですか。
工事原価管理システムの
開発に知恵を絞る
福井 工事の原価管理は、工事で発生するさまざまな原価を計算して管理し工事が計画どおりに進むようにするためのものです。社長がとくに知りたがったのは、リアルタイムの進捗状況と遅延の理由でした。たとえば、職人の出勤状況などからすると8割は完了しているはずなのに4割しか終了していない、ということがあったのです。職人の実働は原価に直接影響するので、リアルタイムな把握が必要です。
職人は、一日の作業が終わると日報を書くルールになっていました。でも過去の作業日報を見ると、リアルな状況把握につながるようなことはほとんど書かれていないのです。
そこで知恵を絞りました。職人は文字を書くのがあまり好きではありませんから、項目に〇を付けるだけで簡単に済むように手直ししたのです。それを電子版の作業日報にし、処理すると工程の進捗がリアルタイムに確認でき、原価管理もリアルに行える仕組みを開発しました。この在庫管理と工事原価管理の2つに対応できたときは、チャレンジ成功!の達成感がありましたね。まさに「現場と一体化した仕組み」としてIBMからも高く評価され、ユーザー研究会で講演したこともありました。
i Mag そして、それらが揃って経営管理システムが完成するのですね。
福井 入社から3年後の、1974年の完成でした。ただしその後もシステムに手を入れ続けてきました。
i Mag その間にホストをIBMに切り換えていますね。
福井 以前のホストは会計機に毛の生えたような機械でしたから、それでは社長の考える経営管理システムは搭載できないと思い、私の入社と同時にシステム/3を導入していただきました。その後、システム/32、34、38、AS/400へと移行し、現在のIBM iに続いていきます。
分社化から独立へ
そして社長に就任
i Mag 1994年に分社され、中橋システムとしてパッケージ・ビジネスをスタートされます。
福井 またもや節目のチャレンジの機会です。でもこの時は苦労しましたね。経営管理システムを外販用パッケージに仕立て直したのですが、外販ビジネスの経験はありませんし知名度もまったくありません。中橋システムの名前をお客様の口コミで広めてもらおうと考え、地道に営業活動を続けました。それがようやく実を結び始めたのは、6年目の2000年にTOTO様から販売子会社様向けのExpert-Nsベースの基幹システム構築を発注いただいてからです。大きな出会いの1つでした。それから少しずつ業績が伸びていきました。お客様と社員に恵まれた賜物だと思っています。
i Mag そして2011年にグループを解散して独立するとともに、福井さんは社長に就任されます。
福井 これも大きな大きなチャレンジの機会でしたね。100年企業にはいろいろな歴史があります。私どものグループ解散に際しても、工事会社の中橋タイルと卸売会社のナカハシ商事のそれぞれに対してM&Aのお話がありました。その交渉を任され、企業ブランドの価値というものをものすごく考えさせられました。それからです、中橋システムの企業ブランドをきちんと築いていこうと考えたのは。
他社に負けない強みを
あらためて発見する
i Mag どのように考えたのですか。
福井 私どもの真の強みは何か?ということですね。それは「業界に特化したシステム構築のエキスパート」ということだろうと思ったのです。当社の業種特化型パッケージExpert-Nsは自社の長年にわたる実務に鍛え上げられたシステムで、私どもは建材/住設卸売業・専門工事業の基幹システムのための技術と知見、ノウハウをもっています。独立前はそれを当社の特徴のように見なしていたのですが、そうではなく、それこそ他社に負けない強みであり、そうしたエキスパート部分をきちんと築きさえすれば成長し続けられると考えたのです。
i Mag その後、目標管理制度や専門職制度の創設、職能要件書などをまとめて、あるべきブランド像へ向けて進んでおられますが、2023年の目標として「心技体の充実」と「イノベーションの加速」を挙げていますね。
福井 常にチャレンジの連続です。お客様の高い期待にお応えするには、営業、サービス、コスト、品質のすべての面でイノベーションと呼べる創造的な前進が必要で、それを加速することが重要です。そしてそのためには、経営も個人も心・技・体の充実が必要だと思っています。
i Mag 福井さんご自身の心・技・体についてはどのように考えていますか。
福井 心・技は、中長期の経営ビジョン、なかでも人づくりの人財ビジョンの遂行が私にとって、そして会社にとってもテーマです。「体」のほうは、私に以前ほどの体力がないので、元気なうちに若い経営者に引き継いでいくのが役割だと思っています。
i Mag ところで、企業はITをどのように使っていくべきだとお考えですか。
福井 ITは効率化や省力化のための道具という言われ方をしますが、これからは競争に勝つための道具と考えるべきでしょう。つまりラクするためや便利になるための道具ではなく、儲けるための道具です。だから当社の営業には、お客様に儲けていただくための提案をすべきだと言っています。また、技術やサービスにはその実現を技術的に追求すべきと伝えています。
i Mag スタッフはそれに近づいていますか。
福井 やるべきことはもう十分に理解していると思っています。あとは「心」の部分をいかにきっちり伝えていくか。それが私の今年のミッションだと思っています。
振り返ると、常に、人との出会いとチャレンジの機会に恵まれてここまで来ました。厳しい環境下や苦労の局面もありました。しかし信念をもって夢を実現する!と進むことでさまざまな出会いに恵まれ、お客様や仲間に助けていただき、アクシデントや逆風も前進のエネルギーに変えてきた気がします。スタッフの「心」が育っていくよう、ミッションをやり遂げていきます。
写真撮影:佐伯優子(リリーデザイン)
福井 和枝 氏
中橋システム株式会社
代表取締役社長
[現 取締役相談役]
1960年代から50年以上にわたり、プログラマー、マネージャー、経営者としてITに関わる。中橋システムの主力製品Expert-Nsの原型を独りで作り上げた。2011年から現職。節目節目のさまざまな人との出会いや挑戦する機会に恵まれてここまで来れた、と自負。「人財こそ中橋ブランドの最大の資産」と語る。愛犬家、華道家で、ファッションと美味しいものを食べるのが趣味。
中橋システム株式会社
本社:石川県金沢市
創業:1915年
設立:1964年
資本金:8000万円
従業員数:45名
https://www.nakahashi-system.jp/
[i Magazine 2023 Winter(2023年2月)掲載]