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5年間のオープン系ERPパッケージの運用で、あらためてIBM iの素晴らしさを知る |株式会社大東

 

株式会社大東

<IBM i 回帰のシナリオ>

ディスクトラブルによるシステム停止や漠然としたIBM iへの不安から、2006年にオープン系の国産ERPパッケージへ移行。ところが非効率な入力作業、機能の不足、使い勝手の悪さにより、現場での運用が混乱した。カスタマイズの着手で、さらなる「負のスパイラル」に突入。5年の運用を経て、再びIBM iへ回帰し、基幹システムを再構築した。

本社:静岡県駿東郡
創業:1943年
設立:1955年
資本金:4000万円
従業員数:40名
事業内容:産業設備機器の専門商社
http://www.daito-hl.co.jp/

1955年の設立以来、静岡県東部を基盤に産業設備機器の専門商社として活躍している。本社のある三島市近郊を中核に、沼津・掛川・富士など静岡地区に営業網を展開し、顧客である製造企業が生産拠点を擁する京都やメキシコにも拠点を広げる。顧客の要望に応じて、1本のボルトから大型の工作機械まで、あらゆる産業設備・機器を提供している。

ディスククラッシュがきっかけで
オープン系国産ERPパッケージへ

大東は1995年からのIBM iユーザーであったが、いったんオープン系サーバーで稼働する国産ERPパッケージに移行。5年の運用を経て、再びIBM iへ戻って基幹システムを再構築した経緯がある。

情報システムを担当するのは、管理部の稲川進次次長。情報システムだけでなく、経理、総務、在庫管理など管理系業務をすべて統括している。稲川氏はあるITベンダーでPOSシステムのSE経験がある。1993年に入社して以降は、社内SEとして1人でITの運用管理を任され、RPGを学びながらアプリケーション保守も担っていた。

IBM iからオープン系サーバーへ移行したのは2006年。ちょうどリプレースを検討し始める時期に、IBM iのディスククラッシュに見舞われた。RAID構成を組んでいたが、そのうち2つのRAIDがほぼ同時に損傷するという珍しい不具合で、業務システムはほぼ1週間停止したという。

結果的にこれが、Windowsサーバーへの移行を決定することになった。

「そのころはWindowsサーバーのスペックも向上しており、IBM iの将来性に漠然と不安を抱いていたこともあり、オープン系の業務パッケージに関心が向いていました。経営側の後押しもあり、あるオープン系の国産ERPパッケージ導入を決めました」(稲川氏)

稲川 進次氏

決め手になったのは、海外製ERPと違ってカスタマイズが可能であったことだが、「ただし導入時点では、カスタマイズは最小限にしたいと考えていました。現場の人たちも努力すれば、ERPベンダーが主張するように、業務をパッケージに合わせられるだろうと期待していました」(稲川氏)

今から振り返ると、この見通しは少々甘かったようだ。業務は伝票処理が中心。取り扱いアイテムが膨大であるのに加え、慣習的にJANコードをもたない製品も多く、手作業での入力がメインとなる。ところが使い慣れた5250画面からGUI中心の操作に変わったことで、業務効率は大幅にダウンした。また前システムと比較した機能不足や使い勝手の悪さに、全部門から稲川氏の元にクレームが寄せられた。

現場からの改善要望に応えるため、外部ベンダーの手を借り、大幅なカスタマイズに踏み切るが、「これが負のスパイラルの始まり」(稲川氏)となった。カスタマイズを繰り返し、システムは複雑化し、それが別プログラムに影響して不具合を発生させるなど、運用は混迷の度を深めていった。

さらに稲川氏を悩ませたのは、レスポンスの問題である。

「もともとIBM iに比べるとレスポンスが悪かったのですが、運用が進んでデータが蓄積するほど、レスポンスがさらに悪化していきました。Db2 for iとオープン系DBの処理能力の違いを見せつけられたようで、この先もレスポンス改善を期待できないと悟った時点で、このまま運用を続けるのは難しいと覚悟しました」(稲川氏)

IBM iの素晴らしさと
自社開発の重要性を痛感

現行システムをIBM iで処理した場合のレスポンスがどの程度になるか、外部ベンダーへベンチマークを依頼。圧倒的な性能差を確認したことで、次のサーバー更新のタイミングが見えてきた2010年、稲川氏はもう一度、IBM iに戻って基幹システムを作り直す決意を固めた。

まず同年12月の役員会で、概算予算とIBM iをベースにした新システムの構想を説明。承認を得て、翌2011年1月にプロジェクトチームを結成した。メンバーの中心は現場でデータ入力を担当する6名のオペレータ。「彼女たちが最も入力しやすい画面を設計することに注力しました」(稲川氏)

一方、仕様書や設計書は稲川氏が自身の手で作成した。入社当時にRPGを学び、基幹システム全域の保守を担当していたことに加え、オープン系に移行した4年間にさまざまな部署と会話したことで、業務要件を深く理解していたことが功を奏した。

その知識と経験と、そして「今度こそ、長く使い続けられるシステムを完成させよう」という熱意が加わって、新たなIBM iベースの基幹システムが設計された。ハードウェア(Power 720)の導入はKBS、ソフトウェアの開発はアドバンスシステムが担当。主にRPGを使用し、受発注の照会と営業の実績管理という使用頻度の高いシステムだけをPHPによるWebアプリケーションとして作成した。

2011年4〜9月に開発を進め、10月にテストを実施。同社の新年度がスタートする12月に、IBM iベースの新基幹システムが本稼働を迎えた。

新システムには、エンドユーザーから寄せられていた多くの要望が反映された。IBM i用のExcelアドインツールである「i-EQBOX」(KBS)を使ってデータを抽出し、あらかじめ作成した帳票レイアウトに合成するといった方法で、現場の帳票や分析ニーズに応えている。

また2018年にはPower System S914へリプレースしたが、この際にテープバックアップを廃止。クラウドストレージへのバックアップツールである「Cloudberry Labs」を利用して、AWSへ基幹データをバックアップする仕組みをスタートさせた。IBM iからいったんCloudberry Labsを搭載したWindowsサーバーへデータを送信し、そこからネットワーク経由でAWSのクラウドストレージへ送信して保管している。

新システムの本稼働後、各部門から嵐のように寄せられていたクレームは収まり、今に至るまで安定した運用が続く。アプリケーション保守は全面的にアドバンスシステムに委託している。

「国産ERPパッケージの運用が暗礁に乗り上げたとき、別のオープン系パッケージへの移行を検討する手段もありましたが、正直に言うと、怖くて実行できませんでした。当社の業務は独自要件が多く、そもそもパッケージ運用には向かないのです。オープン系に移行した経験があればこそ、IBM iの素晴らしさと自社開発の重要性を実感できました」と語る稲川氏。それでは、情報システムを1人で担うことのリスクを、どう考えるのだろうか。

「社内に後継者を育てるより、アウトソーシングの領域を拡大していくことが重要です。次のサーバー更新ではクラウドへの移行を検討しますし、アプリケーション保守だけでなく、ヘルプデスク的な対応など、今後は外部に委託する範囲を広げていくつもりです。よいパートナーと連携することが、今後のIBM i継続の道であると考えています」(稲川氏)。

図表 現在のシステム概要

[i Magazine 2022 Summer(2022年7月)掲載]

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