Powerクラウド vs オンプレ “ガチンコ”セミナー2022|レポート
移行の現場から見えてきた
Power Virtual Serverへ移行すべき5つの理由と
クラウド化を避けるべき4つのポイント
クラウドとオンプレミスのベテラン・エキスパートが詳細解説
新しい業務課題や経営ニーズに対応するために、オンプレミスで運用しているIBM iシステムをクラウドへ移行する企業が増えている。理由は、クラウドという新しい基盤の採用によってさまざまな課題を多面的に解決できるからである。とはいえ、クラウドを利用しさえすれば、どのような課題でも解決できるというわけではない。「場合によってはオンプレミスの継続のほうがよいことも少なくありません」と、JBCCの豊村洋二氏(PFS事業部プラットフォーム推進)は話す。つまりIBM iシステムのクラウド化には検討すべきポイントがいくつかあるということなのだ。オンプレミスの継続か、あるいはクラウドへの移行か。その“ガチンコ”の選択基準をテーマとする“熱い”セミナーの内容をレポートする。
Power Systemsで40年の経験・実績
「PowerVS 国内実績No.1」の表彰
「Powerクラウド vs オンプレ “ガチンコ”セミナー2022」は2部構成で実施された。
第1部の「Power Virtual Server導入のポイントを事例を交えてご紹介」は、豊村氏による「クラウドかオンプレミスか」の解説である。豊村氏は、JBCCのPowerビジネスの紹介から話を始め、Power Virtual Server(以下、PowerVS)の特徴、オンプレミスからPowerVSへ移行した3つの事例とその選択のポイント、そしてオンプレミスを継続すべきケースについて話を進めた。
豊村 洋二 氏
JBCC株式会社
PFS事業部プラットフォーム推進
ここで「クラウド=PowerVS」としている理由に触れておきたい。PowerVSは、日本IBMが2020年10月に東京リージョンでスタートさせたPower Systemsのクラウドサービスである。日本市場への登場としては最後発とも言えるクラウドサービスだが、豊村氏は「PowerVSは他のPowerクラウドサービスとは大きく異なる特徴と数々のメリットを備えています」と次の5点を挙げ、「クラウド=PowerVS」の理由を説明する。
► CPU・メモリ・ディスクなどのリソースを迅速に拡張・縮小できるオンデマンド環境(IBM iの古いOSバージョンにも対応)
► 全世界で展開されるグローバル規模のサービス
► 高可用性機能によりHAの仕組みを容易に実現可能
► 複数のデータセンターでバックアップデータを保持できる災害・障害対策機能
► インターネットVPNや専用線接続など豊富なネットワーク接続形態
そしてもう1つの理由は、JBCCがPower Systemsに関して、技術力、ソリューション力、サポート力のいずれにおいても「自信と自負をもっている」(豊村氏)からである。
JBCCは1983年にPower Systemsの前身であるシステム/38を手がけて以来、「40年間にわたりIBM iのお客様のシステム構築・運用・保守をご支援してきた」(豊村氏)経緯がある。客観的にみて、Power Systemsの国内販売台数(シェア60%)と構築・運用・保守で支援した企業数(2万社以上)はダントツの1位で、他社の追随を許さない。
PowerVSに関しても同様で、東京リージョンでスタートした直後に技術検証に取り組み、以降、オンプレミスからPowerVSへの移行実績を築くとともに、さまざまなセミナー/イベントをとおしてPowerVSの普及・啓蒙に努めてきた。2022年4月には日本IBMから「国内実績No.1」の表彰もされている。豊村氏は、「お客様の課題に真摯に向き合い、取り組んできた活動スタイルが評価されたものと考えています」と感想を述べる。
PowerVSへの3つの移行事例と
移行のポイントを“深掘り”解説
PowerVSへの移行事例の紹介では、①オンプレミスの本番環境からPowerVSへの移行、②災害対策機のPowerVSへの移行、③開発・検証環境としてのPowerVSの利用という3つのケースを取り上げ、それぞれの背景とJBCCからの提案、PowerVS選択のポイントについて解説した。
①の本番環境を移行したIBM iユーザーは、国内外に拠点をもつ従業員1000名以上の製造業のユーザー。従来、国内用と海外用に各1台のPower Systemsを利用してきたが、「運用負荷の軽減とさらなる効率化、Powerクラウドへの移行とマシン統合を検討していた。しかしながら、「ご相談のあった当初は、Powerクラウドサービスとマシン統合について明確なイメージをお持ちではありませんでした」と、豊村氏はユーザーの状況を説明する。
ヒアリングの結果、JBCCでは3つの提案を行った。1つ目は「現状の把握」で、システム環境やパフォーマンス、運用実態の調査・確認。2つ目は「フィット&ギャップ」で、PowerVSを想定したサイジングと要件の精査、そして3つ目は、「移行後の運用内容とユーザーおよびJBCCの責任範囲の明確化」という内容であった。
JBCCでは従来より「IT Modernizationクリニック」という無償の診断サービスを提供している(図表1)。これでお客様の「現状の把握」実施し、ユーザーの要望や課題を把握した。
図表1「IT Modernizationクリニック」の概要
ユーザーのPower Systemsは2台とも、1コア・4750CPW、メモリ4GB、ディスク280GBというスペックで構成されていた。これをそのままPowerVに展開すると、多額のランニング費用がかかってしまう。「それではお客様の想定コストをはるかに超えてしまうので、現行システムのパフォーマンス分析と、PowerVSを前提としたサイジングを行いました」と、豊村氏は説明する。
パフォーマンス分析の結果、CPUの平均使用率は30%以下、メモリはマシンプールの閾値内であることが判明した。ディスクについては総容量560GB(280GB+280GB)となるものの、「IOPS性能がピーク時のバッチ処理性能に耐えられるのかどうかの点について悩みました」と、豊村氏は振り返る。
Tier1はNVMe使用のフラッシュストレージで10GB/IOPS、すなわち560GB容量では、5600IOPSの処理性能となる。そこでディスクのパフォーマンス値をあらためて精査したところ、「ピーク時間は30分程度で、1秒あたりの最大I/O処理は1万回程度と分析できたので、バッチ処理時間が多少長く要しても業務への影響ないことがわかり560GBサイズで問題ないと判断しました」と、豊村氏はサイジングの経緯を紹介した。そしてクラウド・ストレージへのバックアップなども含めてシステム全体をサイジングした結果、「当初計画の約2/3のコスト」(豊村氏)で運用できることが明らかになった。
ユーザーはJBCCの提案に呼応して本番システムを移行し、現在PowerVS上で運用中である。本番稼働から約半年が経過したが、豊村氏は「パフォーマンスの問題や障害などはまったく起きていません」と胸を張る(図表2)。
図表2 「①本番環境からPowerVSへの移行事例」まとめ
ユーザーは導入効果として、次の3点を挙げている。
► バックアップ管理や障害対応などが不要になり、面倒な運用から解放された。
► システム統合によるトランザクション量の増大などに不安があったが、リソースの拡張を自由に行えるPowerVSなので、安心して運用できる。
► コロナ禍や半導体不足の影響によるハードウェア調達に不安を感じていたが、クラウドの採用により解消した。
豊村氏は、①の本番移行事例に続けて、②③の事例紹介に移った。ただし本レポートでは紙幅の関係で②③をカバーできない。ぜひリプレイ動画を視聴し、PowerVSへの移行のポイントを確認していただきたい。豊村氏の言葉の端々に、JBCCの技術力と知見が読み取れるはずである。
豊村氏はセッションの最後に、「オンプレ継続を検討すべきケース」について解説した。言い換えれば「クラウド化を避けるべきケース」で、クラウド化するとコスト増や大がかりな改修が必要になるケースである。豊村氏が指摘する「オンプレの継続を検討すべきケース」は、次のとおりである。
► バッチ更新処理に時間を要し、遅延が許されない場合
► LPARを3区画以上利用している場合
► オンプレミス(会社)とクラウド間のデータ転送量が多い場合
► テープバックアップが確立していて、運用手順の変更が困難な場合
もちろん上記のケースは必ずしもオンプレになるわけではないが、解決策に向けた提案についても豊村氏は言及した。「当社はオンプレミス/クラウドの両方で経験と実績があり、お客様の目標に即して最適な解決策をご提案します。悩まれる前にJBCCにご相談ください」と、講演を締めくくった。
エキスパートの視点で
IBM i 7.5 新機能やNVMeを解説
第2部の「Power Systems選択の優位性をリマインド」には、JBCCの藤原俊成氏(PFS事業部プラットフォーム推進)が登場し、オンプレミスを継続する観点で、IBM iの3つの視点に絞って解説した。①IBM i 7.5の新機能、②セキュリティレベル20の廃止、③新しいストレージ環境「NVMe」の3つである。
藤原 俊成 氏
JBCC株式会社
PFS事業部プラットフォーム推進
IBM i 7.5は3年ぶりに登場したIBM i(OS)のメジャーバージョンで、多数の新機能が搭載された。藤原氏はその中の4つの注目機能に触れ、さらにハイライトとして、新しい圧縮オプション「ZLIB」とセキュリティ機能の強化について解説した。
藤原氏はZLIBの利用によって、「既存の圧縮オプションよりも30%以上圧縮でき、Power 10上では最大4倍の高速処理が可能」と説明。セキュリティ機能の強化については、パスワードレベル「4」の新設やオブジェクトに対する権限の変更(*PUBLICから*USEへ)などにより、「サイバー攻撃や内部不正行為に対抗する、よりきめ細かなユーザー管理が可能になりました」と述べた。
続く、セキュリティレベル20の廃止については、廃止の意味と背景、運用中のレベル20をレベル40または50へ上げる際の留意事項について詳しく語った。藤原氏によると、セキュリティレベルを上げるには、ポリシー(方針)の策定やユーザー/オブジェクトの利用状況調査、さらには権限関係の調整作業などが必要で、「最低でも3カ月程度かかります」という。
藤原氏はそこで、“3カ月の余裕はない”というユーザー向けに、暫定策として「レベル40もどき法」という独自の対処法を紹介した。内容はリプレイ動画で確認していただきたいが、IBM iユーザーの実情を踏まえた実践的な対処法である
(藤原氏はこれに続く「レベル40本気法」も紹介している)。
3つ目は「NVMeインターフェースがもたらす新たな環境」と題して、NVMeの導入による可用性の向上や高速効果について解説した。
NVMeはフレッシュメモリをベースとするストレージ。HDDのような駆動機構(ヘッド、モーターなど)がないので障害発生率が低く、またディスク領域とディスクコントローラーが一体化していることにより、「1ランク上のIOAレベルの保護が可能になる」と、藤原氏は語った。
藤原氏は、IBM i一筋40年のベテラン・エキスパート。IBM iユーザーを長く支援してきた経験が随所にうかがえる講演だった。
[*セキュリティレベル40やNVMeについては追加取材の予定です]
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