日本IBMは2022年6月、「経営層スタディ・シリーズ:CFO スタディ 2021」の日本語版(第21版)を公開した。
IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が、日本の80名を含む、世界43の国や地域で28業界に及ぶ2000名の最高財務責任者(CFO)を対象に、定量調査と18 年以上にわたるデータの詳細分析、定性的な直接インタビューを実施した最新の調査である。
「経営層スタディ・シリーズ」ではCEO、CIO、CTO、COO、CMOなどを対象に、定期的に調査を実施している。
今回の調査によると、調査対象企業でCFOが率いる経理財務部門は、従来の経理財務業務に加え、企業戦略の策定と実行について企業価値の向上に資する意思決定の支援をCEOから強く求められていることが明らかになった。
ただし実際には、従来の経理財務業務に割く時間が多く、CFOが意思決定支援に費やす時間は全体の25%、分析とアクションに至っては全体の10%未満であったという結果が出ている。
DXにおけるCFOの役割
CFO は、企業の DX に影響力を行使できる特異な立場に立つ。具体的には、財務計画の設定、ビジネスケースの作成、それぞれの施策の価値評価、利益達成の追跡的な調査などを行う。
企業全体のトランスフォーメーションにおいて、自らが重要な役割を果たしていると回答したCFOは、調査回答者の4分の3近くに上った。
CFO は企業の DX における自らの最重要責務は、予算管理と資金調達という財務関連の仕事であると認識している。しかし実際には、CFO の責任範囲は予算と財務の枠にとどまらず、10人中4人の CFO が、あらゆる業務をデジタル化するという企業文化の醸成を任されていると回答している。
効果的な意思決定の支援
CFOが時代の要請や企業全体からの期待に応えるには、経理財務部門が組織にとって必要不可欠なパートナーになる必要がある。それは、組織全体の効果的な意思決定を支援することである。
しかし経理財務担当者の時間の半分近くは、依然として帳簿作業に費やされている。これは 18 年にわたる調査を通して一貫した傾向である。意思決定を支援するための分析や実務に割り当てられた時間は、全体の10%にも満たない。ここから、戦略的な課題に取り組む時間を確保することが、経理財務部門の課題であることがわかる。
戦略的に意思決定を支援するには、経理財務部門のリーダーがこれまでの考え方を改め、構造化された効率的な方法を取らねばならない。
同調査では、意思決定を効果的に支援するには、「企業戦略」「組織のアジリティー」「データ中心主義」「人財の再定義」「インテリジェント・ワークフロー」の5 つに焦点を絞るとよい、と指摘している(図表1、出典:日本IBM『CFOスタディ 2021』)。
これら5つのファクターを組み合わせれば、経理財務部門の影響力を劇的に拡大し、効率的かつ効果的に成果を上げられるようになる。
IBVの調査データによると、これらのファクターをうまく活用できているCFOは、収益に対する財務コストの割合を8%抑え、戦略の策定と実行の効果を3~4倍に伸ばしている。
今回の調査でわかったCFO のタイプと特徴
経理財務部門が意思決定を支援する上記5つのファクターの進捗状況を評価するため、同調査では「効率性」「スピード」「実行力」「正確性」という意思決定上の4つの側面に着目し、経理財務部門を類型化した。
その結果、それぞれに長所と短所を備える以下の 4つのCFO像が浮かび上がってきた。それは、「戦略的アドバイザー」「慎重な決定者」「アクション設計者」「限定的な関与者」である(図表2、出典:日本IBM『CFOスタディ 2021』)。
世界的なパンデミックがもたらした課題と、その課題の規模や求められるスピードが、これら4つのタイプ間の差をさらに際立たせることになったようだ。
このなかで戦略的アドバイザーは、意思決定上の4つの側面ですべて高評価を示し、財務パフォーマンスと意思決定支援で効果を上げており、今後の求められるCFO像であると定義されている。
ちなみに世界のCFOにおける戦略的アドバイザーの割合は15%、日本のCFOにおける割合は21%であり、日本のCFOのほうが世界に比べて戦略的アドバイザーの割合が高いという結果が出ている。
IBMは今回の調査結果をもとに、企業のCFOが戦略的アドバイザーとして意思決定を支援するため、以下の5つの行動指標を推奨している。
❶ 戦略に注力し、意思決定を支援する
❷ 経理財務部門のアジャイル化を進める
❸ データを企業文化の中心に据える
❹ 人財に投資する
❺ テクノロジーを活用し、インテリジェンスを強化する
そして、戦略的アドバイザーをはじめとする4つのCFOタイプが、これらの指標に対する考え方や取り組み、行動がどのように異なるかを詳述している。
◎「経営層スタディ・シリーズ:CFO スタディ 2021」 日本語版
◎「経営層スタディ・シリーズ:CEO スタディ 2021」 日本語版
◎「経営層スタディ・シリーズ:CIO スタディ 2021」 日本語版
◎「経営層スタディ・シリーズ:CTO スタディ 2021」 日本語版
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