IBMは5月10日(米国時間、日本は5月13日)、同社が開発を進める量子コンピュータの新しいロードマップを発表した。2020年に発表したロードマップの改定版で、実用的な量子コンピューティングに必要とされる万単位の量子ビット(現在は127量子ビットが最大)を実現するための要素技術と投入時期を明記した点で、注目される。
IBMは今回の発表で、「大規模な量子コンピュータを巨大なチップで実現する計画はない」(ジェイ・ガンベッタ氏、IBM Quantumバイス・プレジデント)とし、1000量子ビットレベルの量子チップの並列化やカプラー化、ソフトウェアの革新、および古典コンピュータとの融合により1万以上の大規模量子コンピュータを目指すとした。
ガンベッタ氏は、「私たちの目標は、量子セントリックなスーパーコンピュータを構築すること。量子プロセッサ、古典プロセッサ、量子通信ネットワーク、古典ネットワークが一体となった量子セントリックなスーパーコンピュータを構築することにより、従来のコンピューティング方式を根底から覆すことができる。そのためには、量子プロセッサのスケーリングの課題を解決し、量子計算をより高速かつ高品質に提供するための実行環境を開発し、量子プロセッサと古典プロセッサを摩擦なく連携させるサーバーレス・プログラミングモデルを導入する必要がある」と説明する。
量子ハードウェアのロードマップとしては、以下を発表した。
◇ 2022年末までに、以下の4つを実現する。
・動的回路(ソフトウェア)
・433量子ビット・プロセッサ「Osprey(オスプレイ)」
・量子ボリュームと現在の256から1024へ
・量子回路速度を1400CLOPSから1万CLOPSへ
*CLOPS:Circuit Layer Operations Per Second
◇ 2023年
・133量子ビット・プロセッサ「Heron(ヘロン)」の古典的並列化
*量子ゲートを再設計し高速化
・1121量子ビット・プロセッサ「Condor(コンドル)」
◇ 2024年
・チップ間結合器(カプラー)により量子プロセッサ間を量子ゲート接続させた408量子ビット「Crosbill(クロスビル)」
・量子並列化による1386量子ビット「Flamingo(フラミンゴ)」
◇ 2025年
・マルチ量子チップと量子並列化の組み合わせによる4158量子ビット「Kookabura(クーカブラ)」
量子ソフトウェアに関しては、古典コンピュータと量子コンピュータのそれぞれの処理を効率よく連携させるための「動的回路」を2022年末までに開発する。2023年以降のロードマップについては以下のとおり。
◇ 2023年
・Qiskit Runtimeにスレッドを導入し、量子プロセッサの並列処理を実現
・量子サーバーレスの導入 *開発者に高度な簡便性と柔軟性を提供
◇ 2024/2025年
・Qiskit Runtimeにエラー低減・エラー抑制を導入
IBMはこのほか、量子コンピュータ技術を用いた量子安全のためのポートフォリオ製品「IBM Quantum Safe」を近々に発表する。これは同社の暗号技術とコンサルティングからサービスで、以下を提供する。
・量子安全を理解するための教育サービス
・コンサルティングによる量子安全のための戦略的ガイダンス
・リスク評価と発見の自動化
・量子安全暗号
・日本IBMニュースリリース「IBM、実用的な量子コンピューティングの時代に向けた新たなロードマップを発表:4,000 ビット超のシステムの提供を計画」
https://jp.newsroom.ibm.com/2022-05-13-IBM-Unveils-New-Roadmap-to-Practical-Quantum-Computing-Era-Plans-to-Deliver-4,000-Qubit-System
・ジェイ・ガンベッタ氏ブログ「Expanding the IBM Quantum roadmap to anticipate the future of quantum-centric supercomputing」(英語)
https://research.ibm.com/blog/ibm-quantum-roadmap-2025
・You Tube「IBM Quantum 2022 Updated Development Roadmap」
https://www.youtube.com/watch?v=0ka20qanWzI
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