伊藤忠グループのメンバーとして、ゴミ袋やポリ袋を製造・販売する日本サニパックは、創業50周年を迎えた2020年をDX元年と位置付け、次世代型ビジネスモデルへの変革に取り組んでいる。社内外に広がるサプライチェーン全体をつぶさに分析し、分断している情報を連携し、あらゆる情報を可視化する。そこから新しいビジネスモデルを創出することが、DX戦略の核である。同社の井上充治 代表取締役社長に話をうかがった。
井上 充治氏
日本サニパック株式会社
DXを柱に次世代型ビジネスモデルの変革へ
i Magazine(以下、i Mag) 日本サニパックの親会社である伊藤忠商事に長く勤められてから、日本サニパックの代表取締役社長に就任されたのですね。
井上 そうです。伊藤忠商事時代はDVDソフトウェアから北欧家具、高級通販、農業資材スーパーなど、さまざまな販売や商品企画に携わりました。そのなかで、比較的長く化学品を担当したこともあり、2013年に日本サニパックの専務取締役として着任しました。代表取締役社長に就任したのは2015年です。
着任してすぐに、日本サニパックという企業が内包する問題に気づきました。社員の結婚式に出席すると、ゴミ袋メーカーと聞いて両家のご親族が心配そうな顔をするんですよ、「ゴミ袋の会社かあ」と(笑)。その雰囲気は社員にもあって、仕事や会社に誇りをもてていないように感じられました。また皆、真面目に仕事をこなしているけれど、新しいビジネスのアイデア、新しい仕事のやり方に関する発想は出てこないわけです。
そのとき私は、問題の本質はビジネスモデルの陳腐化にあると考えました。企業を取り巻く環境が大きく変化しているなかで、古い営業スタイルのまま、昔ながらのビジネスを続けていることに問題の根があると。
そこで社員が誇れるような会社とは何か、最近はとかく悪者にされがちなプラスチック製品を扱う会社として、「自分たちはどうありたいか」を社員とともに議論しながら考え始めました。社会や株主から評価されることは重要ですが、それはあくまで結果論であり、最も重要なのは、「自分たちがどうありたいか」です。2018年ごろから議論が始まり、2020年の年頭挨拶で、DXという言葉で表現しながら次世代型ビジネスモデルへの変革を打ち出しました。この年は創業50周年を迎える記念すべき年でもあったので、新たな企業理念を新しいロゴで表現し、中長期の大きな目標設定と具体的アクションを明らかにしました。
i Mag 社員が誇れるのは、どのような会社であると方向を定めたのですか。
井上 最終的には「清潔で快適に暮らすためのソーシャルインフラになる」と結論づけ、SDGs型経営、CO2削減と環境配慮型商品の開発などを柱に据えました。
2030年までの中長期目標として、プラスチック使用量の半減、CO2排出量の40%削減を掲げています。2021年にはCO2の排出量を削減した環境配慮型ゴミ袋「nocoo」(ノクー)を発売しました。nocooを当社の1丁目1番地と位置づけ、今後は全商品を環境配慮型に切り替えていく計画です。
またSDGsの17のゴールを企業活動にただ結びつけるだけでは十分でないと考え、SDGsの観点からバリューチェーンに沿って正・負の影響の双方を評価し、具体的なアクションに結び付けていきました。
伊藤忠商事には「三方よし」、すなわち「売り手よし、買い手よし、世間よし」という企業理念があります。優れた考え方ですが、声がけレベルでは浸透しないと思い、伊藤忠グループ企業としては初めて人事制度・業績評価に「三方よし」を組み入れました。
現在、ゴミ袋に関する当社シェアは約20%ですが、最近は結婚式で「当社がもしゴミ袋を提供しなくなったら、全国3000万人の生活がゴミに溢れてしまいます」と話し、環境先進企業としての取り組みを説明すると、ご親族の方々が安心した顔をされますね(笑)。
一歩前に踏み出せば、DXの違う風景が見えてくる
i Mag 次世代型ビジネスモデルの変革に向けて、どのような施策を展開されているのですか。
井上 トヨタ生産方式の導入、スマートファクトリー化、デジタルマーケティングなど、いろいろあります。
たとえば訪問の数が売上に比例するような古い営業スタイルのままでは、顧客とダイレクトに連携するような販売戦略の転換は望めません。そこで店舗とECサイトを連動したオムニチャネルを強化し、マーケティング力、知名度、ブランド力の向上を狙いにしたデジタルマーケティングに注力しています。
基盤となるWebサイトを2020年5月にリニューアルし、コーポレートサイトとブランドサイト双方のコンテンツ充実に加え、SEO対策やSNS戦略など多様な施策を投入することで、リニューアル前は4000人/月であったアクセス数は、約12倍の約5万人/月へと大幅に増加しました。
このほか日本サニパックの初代応援団長にバーチャルタレントの「キズナアイ」が就任し、渋谷スクランブル交差点の6面ジャックや都営バスのラッピング広告など多彩なコラボを実現しました。また2022年1月からは2代目応援団長としてサンリオの「シナモロール」が就任します。
さまざまな施策が奏功して、2014年度から2020年度までの6年間で、売上高は1.3倍、売上総利益は5倍、税引き後純利益は実に16倍へと成長し、2020年度は過去最高益を達成しました。もしこうした変革を推進していなければ、増収増益どころか、大幅な業績低下を招いていたかもしれません。
伊藤忠グループでは毎年、約230社のメンバーから10数社を選出して表彰しているのですが、2017〜2021年の5年間で、当社は「経営努力賞」「CEO特別賞」「経営総合賞」など4回受賞し、2017年には「優秀CEO賞」を個人表彰されました。受賞理由は「階段を使わないエコな会社」から「DX推進」までさまざまですが、5年間で4回の受賞は社員にとっても私にとっても大きな誇りです。
i Mag DX推進は次世代型ビジネスモデルの創出という意味で、どのような役割を担っていますか。
井上 あらゆる情報の見える化、サプライチェーンの強化、RPAなど多様な手段による自動化、SNSとAIを活用した新しい営業スタイルの実現など、多様な要素を含みます。ただし業務の効率化や生産性の向上、リードタイムの短縮といった効果だけでは、DXとしては不十分で、それが目標でもありません。次世代型ビジネスモデル、新しい収益源を生み出してこそ、DXの真価が発揮できると思います。
とは言え、日本サニパックのDXの厳密な青写真が現時点で正確に描けているわけではありません。でも私はそれでいいと思っています。一歩前に踏み出すと、違う風景が見えてくる。さらに一歩前に踏み出すと、もっと違う世界が見えてくるでしょう。刻々と変化する状況に応じて、DXも柔軟に変化していかねばならないと考えています。
RPAやAIの導入などで業務を変えよう、効率化・自動化を果たそうとすると、どこからか必ず抵抗する声や反対意見が出てきます。たぶん効率化・自動化によって、自分の価値が失われる、存在意義を問われるという危機意識が心の中に芽生えるのでしょう。これは誰であっても同じです。だからDXを推進するうえでの最大の抵抗勢力は、誰の心の中にも潜む、変化を恐れる気持ちではないかと思います。正直に申し上げますと、私の心の中にもあります。だから1人1人の心がDXにブレーキをかけないように配慮しながら、今後も進めていきたいですね。
◎Company Profile
日本サニパック株式会社
本社:東京都渋谷区
設 立:1970年
資本金:2000万円
売上高:115億円(単体、2020年3月)
従業員数:83名(単体、2020年3月末)
事業内容:ポリエチレン製ゴミ袋、食品保存袋、水切り袋、紙製ゴミ袋などの製造・販売
https://www.sanipak.co.jp/
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