中野 敦夫氏
株式会社ジャストオートリーシング
執行役員 業務部長 兼 営業企画部長
自動車リース、自動車整備、自動車販売、損害保険代理業と、車に関連する多彩な事業を展開するジャストオートリーシング。
ここでシステム部門と業務部門の双方を見据えながら、IT活用の指揮を取る中野 敦夫氏。
経営的視座と現場目線のバランスを取りながら、効果的なIT導入を図る施策と心得を聞く。
i Magazine(以下、i Mag) ジャストオートリーシングは長年にわたるIBM iユーザーですね。
中野 そうです。1987年に導入し、RPGで販売管理・会計管理ステムを構築して以来、一貫してこのサーバーで基幹システムを運用しています。自動車リース、自動車整備、自動車販売、損害保険代理業と4つの事業ごとにシステムを構築し、今も運用を続けています。その間、リース自動車情報提供サービスである「J-line」を開始したり、2020年1月には導入以来最大規模となる大がかりな改修を実施して新しいリース契約システムを本稼働させるなど、システムの改良と高度化に取り組んできました。
導入当初は開発を外部に委託していましたが、業務ニーズを理解してもらうのに時間を要したり、開発コストが膨らむ傾向にあったため、ある時期から内製型の開発体制を目指し、社内人材の育成に注力してきました。現在はシステム部門に相当する営業企画部に8名の人員を擁し、基幹系からオープン系、インフラ系とほぼ内製で対応できる体制を確立しています。
i Mag 中野さんは一貫してシステム部門に所属されてきたのですか。
中野 私は入社して2年間、営業部門に配属されました。それからシステム部門へ移り、ISO 9000の主任監査員などを経験しながら約11年間所属し、次に営業課長としてリース営業部へ配属されたあと、再びシステム部門へ戻りました。2015年からはシステム部門のほか、業務部を兼務し、2018年から執行役員を務めています。業務部は事務処理の最終処理部門で、さまざまな事案が寄せられます。システム部門と現場部門を行き来しているので、現場とシステムを同じレベルで捉え、現場業務の課題をITでどう解決するかを発想し、判断できることが強みだと感じています。
i Mag 執行役員に就任してから、経営とITに関する考え方に変化が生じてきましたか。
中野 まだ着任してから3年程度ですから、一気に経営目線に変わったわけではありません。ただ視座が変わったというか、以前は業務というレベルでのみ解決策を探っていたのが、現在は経営と業務という2軸で解決策を模索する違いは感じています。経営陣に加われば、必然的に入ってくる情報も違ってきますし、外部の会合での会話も変わってきますから、少しずつ視座を高めるように努力しているところです。
i Mag ITプロジェクトを成功に導く勝因は何だと思いますか。
中野 J-line、新リース契約システム、営業支援システムと、当社で成功したプロジェクトを振り返ってみると、現場の理解を得ることが成否を左右する最も大きな要素だと思います。
もちろん経営層の理解を得ることが大前提ですが、それらは論理的に進めれば失敗しないというか、しっかりと手順を踏む、事前に根回しする、そして経営会議で協議・承認を得るというステップを踏めば、問題なく進められます。
しかし現場の業務は違います。「論理的にはこうすべき」とわかっていても、「忙しくて時間がない」とか「作業を変えたくない」とか、さまざまな理由でIT利用は停滞します。総論賛成、各論反対とよく言われますが、現場業務のどこをどう調整して作り込むかが最も重要です。どんなに優れたシステムでも、現場が望まなければ使われないし、業務の改善は期待できません。
失敗プロジェクトの原因を探ると、やはり「現場が必要とする形で構築できなかったこと」「現場の要望に沿った改善がされなかったこと」に尽きます。
i Mag システム構築するうえで、何に注意しながら進めていますか。
中野 成功したプロジェクトで評価できる点は、利用部門のユーザーとシステム部門がお互いをパートナーと認め合って、一緒に作り上げ、改善していったケースです。だから新しいシステム構築や改修に際しては、そうした信頼感の醸成を意識しています。
当社では創業者も、そして前社長であった現在の会長も、ともにIT利用に熱心で、もともとITに積極的に投資し、業務を変えていこうという企業風土がありました。ITの利用に沿って業務が実行され、改善されてきた歴史があります。それは現在の社長にも確実に受け継がれています。さらにここ20年近くは、システム部門と現場部門がシステム依頼の打ち合わせを目的とした定例ミーティングを毎月開催してきました。これが相互をパートナーとして認め合う雰囲気づくり、企業風土の醸成に役立ってきたと思います。
i Mag 経営的視点から見て、企業はITをどのように捉え、活用していくべきだと考えますか。
中野 組織を動かすうえでは指針となる経営戦略、経営ビジョンが不可欠で、今やITはその経営戦略を実行する最も有効な道具です。ITを使わなければ、実現できない戦略・施策・改善が数多くあるでしょう。
しかしその一方、実際に動くのは現場であり、「現場の業務をどう動かすか」という視点に沿ってITを利用しなければなりません。今はExcelとかスマホとか、身近に便利なツールが多くあり、各自がそれぞれの考えでそれらを便利に使っていると、会社のシステムがきちんと利用されない危惧もあります。
業務でITが利用されないと、経営戦略を実現できなくなります。経営戦略や経営ビジョンと現場の実態に乖離がなく、皆が利用することで自然に経営戦略を推進する方向へ動くのが理想ですが、このバランスと刷り合わせが非常に難しいと実感しています。
現場ばかりを見ていると、経営方針から乖離し、経営方針を重視しすぎると、現場に使ってもらえない。普段から経営戦略に沿った形で、現場ニーズにどう対応させ、改善していくかを考えています。業務課題への最も有効な解決策がITであることは間違いありませんが、ITにあまり固執してはいけないとも自身を戒めています。つくづく「ITは運用ありき」、運用とセットであることを実感しています。
i Mag ITの活用力に今までと違う局面が見えていますか。
中野 最近は主にマネジメント層で、「業務の課題をITでどう改善するか」という発想が自然に生まれています。これは企業として、組織として、とても強い力になると考えています。 以前は業務部門のユーザーから業務上の問題や課題が提起され、それをシステム部門がITでどう解決するかを提案し、ともに相談・検討するという進め方でした。
でも現在は業務部門の方から、ITによる解決案込みで問題や課題が提起されます。「こういう課題があるのだが、ITでこういう風に変えられるのではないか」というように。これは大きな前進だと考えています。
i Mag ジャストオートリーシングのDXをどのように考えていますか。
中野 DXは一種の流行語で、定義が曖昧な面もあるので、あまり使わないようにしているのですが、私の考えではDXは変革であり、変革はゴロゴロと数多く生まれるわけではありません。会社が実現できる変革は、せいぜい1つか2つでしょう。
当社は長年の課題として、整備工場のIT化、つまり「整備プロセス全体を見える化する」ことを検討してきました。しかし整備工場では油まみれの手でシステムに入力することが避けられず、これが最大のネックでした。油とIT機器は最悪の相性ですからね。
でもここのところ、IoTなど技術が急速に進化しており、油という従来の問題に妨げられずに、整備工場内の工程管理や情報の見える化が実現可能になっています。具体的な内容はこれから検討していきますが、整備工場内のIT化を進められれば、これが当社のDXと言えるのではないかと考えています。実現できればその先で、さらに会社全体でのシステムの持ち方、あり方も変わっていくのではないかと思います。
i Mag 最後に、IBM iというプラットフォームをどう評価していますか。
中野 IBM iは資産継承性から生まれる圧倒的な費用対効果があり、非常に優れたプラットフォームであると評価しています。5250画面を見ただけで、古めかしいと批判されるのはとても残念ですね。IBM iは時代の進化に合わせた適応力、対応力が高く、いろいろと新しい取り組みが可能です。
それに長く使い続けてきたコアなファンも多いので、ユーザー同士でいろいろな情報を交換でき、仲間意識のようなものが芽生えるのも、私はうれしく感じています。ただ資産継承性の高さゆえに、いつまでもそのままで利用し続けてしまうリスクはあるので、ユーザーはその点に注意せねばならないでしょう。
当社ではこれからもIBM iを中心に、周辺システムとの連携を重視しながら、今後のIT環境を考えていく予定です。
中野 敦夫氏
1996年に入社後、営業を2年間経験したのち、1998年にシステム部門へ異動。この間(2000〜2004年)、ISO 9000の主任監査員を務める。2009年から営業課長としてリース営業部へ配属。2010年にシステム部門へ戻る。合計22年間、システム部門の業務に携わっている。2015年に業務部 副部長を兼務。2018年6月、執行役員に就任。
株式会社ジャストオートリーシング
本社:神奈川県横浜市
設立:1973年
資本金:3億6270万円
売上高:64億8800万円(2021年3月期)
従業員数:134名(2021年3月)
https://www.justauto.co.jp/
[i Magazine 2022 Winter(2022年2月)掲載]