IPA(情報処理推進機構)は4月22日、「デジタル時代のスキル変革等に関する調査報告書」を公開した。
ITに関する学び直しや流動性に関する実態の把握、人材育成のための組織マネジメントや人材マネジメントのあり方についての考察が目的で、2018年度から行ってきた調査の3回目となる。
今回は、国内企業1857社(IT企業979社、事業会社878社)、国内企業所属のIT人材1545人、海外企業所属のIT人材616人(米企業308人、独企業308人)からアンケートへの回答があり、インタビュー調査と文献調査も実施した。さらに参考としてITフリーランスへのアンケート調査を行い、703人から回答を得た。
報告書は最初に、企業のDXに対する取り組み状況を紹介している。昨年度調査より大きな変化があったという。ポイントは以下の通りである。
・DXに取り組む企業は全体の53.2%で、2019年度調査より12ポイント増加
・従業員1000名以下の企業で増加が顕著
・ほぼ全業種区分で取り組みが増加
・DXの取り組みで「成果あり」とする企業が増加
・「成果あり」のうち、「新規製品・サービスの創出」「ビジネスモデルの根本的な改革」が大きく増加
・従業員300名以下の企業で「成果あり」の比率が相対的に高い
・「成果あり」企業は、全社戦略・全社取り組みや、IT分野に見識のある役員の比率が高い
報告書は、「調査結果から抽出されたポイント」として5点を挙げている。以下、紹介してみよう。なお、報告書の文言を一部補足・変更したり、構成を変えたものがあることをお断りする。
ポイント①DXでの成果有無と人材マネジメント
・DXで成果が出ていないと自己認識している企業では人材不足感が強いものの、そもそものデジタル化戦略やそのための人材要件が明確になっていない。
・人材の育成方針や処遇制度なども整備できていない。
成果なし企業では、『採用したい人のスペックを明確にできない』という回答が33.5%あり、成果あり企業を約6ポイント上回った。「どのような人材がどの程度必要なのかが明確になっていない様子がうかがえる」と、報告書は指摘する。
また成果なし企業では、『魅力的な処遇を提示できない』(23.5%)、『育成戦略や方針が不明確』(40.8%)という回答も多く、「給与や業績インセンティブ等の報酬上のメリットや柔軟な勤務体系などの処遇制度面、並びに新たなスキルを獲得していく上での方針や施策などの整備も遅れている」(報告書)という。
ポイント②先端領域への転換に対する意識や経験による5タイプ
・日本では自発的に転換する「自発転換」が少なく、異動命令や組織改編がきっかけで転換する「受動転換」が圧倒的に多い(転換者の87.1%)。受動転換者のほとんどが転換に対応し、その後の先端IT業務に順応できていると推察される。
・今後も活躍し続けるための新たなスキル習得の必要性の認識が低い。今現在は先端IT従事者であっても、いずれ非先端となってしまう危険性をはらんでいると言える。
報告書では、IT技術者の現在の担当業務が先端技術・領域(*1)を活用したものか否か、そのような業務への転換を経験しているか否かで、転換タイプを「自発転換」「受動転換」「当初から先端」「転換志向」「固定志向」の5つに分類した。
*1 データサイエンス、AI/人工知能、IoT、デジタルビジネス/X-Tech、アジャイル開発/DevOps、AR/VR、ブロックチェーン、自動運転/MaaS、5G、その他の先端的な領域や技術
ポイント③学びや流動の状況
・転換のタイプによらず、業務を通じたスキル習得が最も高く、次いで社内研修や無料の講座やセミナーが続く。また、学ぶ領域の選択基準は、『現業務の課題解決に役立つこと』と『中長期のキャリアやゴールに必要なこと』であり、短期と中長期の両視点から考えていることがうかがえる。
・転職に関する考え方において、日本は『考えても良い』までを含めれば米独と大きな違いはないものの、『積極的に行いたい』は少ない。実際にここ2年で転職を行ったとする比率も低い。
・キャリアを考える際の基準に関して、日本は他者からの『助言や指導』が米独に比べて多いのも特徴。
スキル習得への取組み意欲は、「自発転換」>「受動転換」>「当初から先端」>「転換志向」>「固定志向」という順であった。
ポイント④スキルの見える化
・個人側については、広く人材市場の中で自身の相対的な価値が把握できていない。さらに、競争力についての自信も持っていない。
・企業側については、従来からの人材エージェントからの情報や保有資格などを採用時の判断材料にしていることが多い。個人プロファイル型のSNSやGitHub、Kaggleなどのプラットフォームにおける活動、リファラルにおける紹介者からの情報などの活用も、DXで「成果あり」とした企業などで行われつつある。
ポイント⑤組織に求められる要件
・データサイエンティストに関する需要が事業会社でやや高いことなどを除き、IT企業と事業会社が求める人材の差は無くなりつつあり、その獲得競争の激化が予想される。
・個人が企業に求めることと、企業側の認識については、全体としては大きな乖離はないものの、いくつかの項目においては若干のギャップが見られる。特に、『自身が携わる仕事を選べる仕組みがある』については企業側よりも個人側が高くなっており、従業員がより主体的に業務を選択していける制度などの整備が望まれている。
・『新しいスキルの習得』や『さまざまな挑戦の機会』については、企業側に比べて個人側が低くなっており、学びに対する個人側へのさらなる動機づけが必要。
IT技術者を社外から中途採用する場合、「『自発転換』に相当する人を意識した要件を満たしておくことが獲得競争上有利となると想定される」というクロス集計の結果を紹介している。図表の着色部分は、「自発転換」者からのニーズが高いが、企業の認識は高くない項目で、こうした点に留意しておく必要がある、と指摘している。
報告書は「まとめ」として、以下の3点を指摘している。
・DXに取り組む企業が増加するなど明るい材料もあるが、DXに無関心な企業や成果が出ていない企業も多い。実態として、DXの入り口で立ち往生している企業が大半。
・不足が叫ばれている先端IT従事者への転換可能性を持った人材が一定数存在しているが、転換行動を喚起するような動機づけや適切な支援が不十分。
・個人側では、人材市場における自身の相対的価値が把握できていないことに加え、競争力についての自信も持てていない。
本調査の課題と解決の方向性を整理したのが、下記の図表という。
◎「デジタル時代のスキル変革等に関する調査」では、報告書の読者アンケートを実施している。https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20210422.html
・デジタル時代のスキル変革等に関する調査
・デジタル時代のスキル変革等に関する調査報告書
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