IBMと米国の医療機関クリーブランド・クリニックは3月30日(現地時間)、IBMの量子コンピュータ・システムを同クリニックのオンプレミスの施設内に設置する10年間のパートナーシップ契約を発表した。IBMの量子コンピュータ「IBM Quantum System One」を商用利用を目的に民間施設に導入するのは初めて。導入・設置は2023年以降になる。米国では発表と同時にテレビ・新聞・オンラインメディアが一斉に報じ、大きな反響を巻き起こしている。
IBMとクリーブランド・クリニックの今回のパートナーシップ契約は、「Discovery Accelerator」(ディスカバリ・アクセラレータ)と呼ぶセンターを設置し、量子コンピュータを軸に共同研究を行うというもの。これにより、超膨大な医療ビッグデータの分析や従来型コンピュータでは困難だった化学データの生成などが可能になり、臨床・衛生・創薬などの分野で高度な研究を推進する、としている。
CNBCのテレビ番組に登場したIBMのアービント・クリシュナCEOは、「量子コンピュータを含む高度なハイブリッドクラウド・システムにより、従来10年かかっていた研究を1年に、数億ドルかかっていたコストを100万~1000万ドルに削減できるようになる」と、IBM Quantum System One利用のメリットを強調していた。
Discovery Acceleratorに導入するIBM Quantum System Oneは、IBMが2023年の完成を目指している1000量子ビット以上の性能をもつ次世代型量子コンピュータ。クリーブランド・クリニックはこれに加えて、IBMが保有する20台以上の量子システムをクラウド経由で利用できるという。
IBMは今年2月に、量子コンピューティングのロードマップを発表し、2023年までに「量子ハードウェアのパフォーマンスを根本的に改善するソフトウェアの改良を進め、2023年に1000量子ビット以上の量子システムを完成させる」(IBMフェローのジェイ・ガンベッタ氏、IBM Quantum事業部バイス・プレジデント)とした。Discovery Acceleratorに導入されるIBM Quantum System Oneはこのロードマップに基づくもので、IBMの量子コンピューティング計画が着実に進んでいることをうかがわせる。
クリーブランド・クリニックとIBMは、2017年にも5年契約のパートナーシップ契約を結んでおり、「従来からAIの活用など良好な関係を築いてきた」(同クリニックのトミスラフ・ミハイルウィッチCEO)経緯がある。
同クリニックは、米オハイオ州クリーブランドにある創立100周年を迎える非営利の医療・研究機関。クリーブランドのメインキャンパスには、69ヘクタールという広大な敷地内に19の病院と220以上の外来施設があり、1400の病床をもつ。また、フロリダ州、ラスベガス、トロント、アブダビ、ロンドンにも医療拠点があり、従業員数は全世界で7万人以上、4500人以上の医師・研究者、1万8000人以上の看護師・高度医療従事者を擁する。2020年には、870万人の外来患者が訪れ、27万3000人が入院し、21万7000人が外科手術を受けたという。
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