米ガートナーは3月17日、「インサイトエンジン(Insight Engine)」市場を対象にしたマジック・クアドラント(Magic Quadrant)を発表した。IBMは「リーダー」に位置づけられており、今年2~3月に発表されたAI関連の3つマジック・クアドラントで、IBMはいずれも「リーダー」ポジションを獲得した。
マジック・クアドラントは、特定の市場を対象に、製品(企業)を4つのタイプに分類する同社独自の競合分類手法。以下の4つに分類される(出典:ガートナー)。
・Leader(リーダー):ビジョンを実行できており、将来のポジションを確立している製品・企業
・Challenger(チャレンジャー):現在高い業績を誇っているか、大きなセグメントを支配していても、市場の方向性を理解していることを示していない製品・企業
・Visonary(概念先行型):市場の方向性を理解している、あるいは市場ルールを変えるビジョンを持っているが、実行に移せていない製品・企業
・Niche Player(特定市場指向型):小さなセグメントに焦点を合わせることで成功を収めているか、焦点が定まっていないために他社よりも革新的ではなく、実績も他社を凌ぐものではない製品・企業
今回のマジック・クアドラントの対象である「インサイトエンジン」の定義は、「コンテンツやデータの発見、記述、整理、分析に関連性の高い手法を適用するシステム」である。従来からの検索技術や自然言語処理技術(NLT)から発展したもので、「既存の情報や新たに合成された情報をプロアクティブに、またはインタラクティブに、必要なタイミングで従業員や顧客などに提供する製品」とされている。
その「インサイトエンジン」の機能・特徴は、次の通りである。
・主要なデータソースを取り込める
・データ・エンリッチメントのサポート
・さまざまなポイントへの結果の配信
・関連性の評価と調整
・セキュリティ機能
・クエリ入力の柔軟性
さらに、次のようなオプション機能や特徴がある。
・結果セットの分析機能
・アーキテクチャと展開モデル
・使いやすさ(管理者、エキスパート向け)
・複数の言語サポート
・パーソナライゼーション機能
今回対象の15製品のタイプ・分類
今回のマジック・クアドラントでリストされたのは15製品。各製品は、次のように分類された。
◎Leader(リーダー)*カッコ内は製品名
・IBM(Watson Discovery)
・Mindbreeze(Mindbreeze InSpire)
・Sinequa(Sinequa ES)
・Coveo(Coveo Relevance Platform)
◎Challenger(チャレンジャー)
・マイクロソフト(Micro Search)
・グーグル(Google Cloud Search)
・IntraFind(iFinder)
・Elastic(Elastic Enterprise Search)
◎Visonary(概念先行型)
・Lucidworks(Lucidworks Fusion)
・Squirro(Squirro Insights Engine)
◎Niche Player(特定市場指向型)
・IHS Markit(Goldfire)
・Funnelback(Funnelback)
・Micro Focus(IDOL)
・EPAM(InfoNgen)
・Expert.AI(NL Suite)
次に、注目製品(企業)に対する評価を見てみよう。
IBM(Watson Discovery) タイプ:Leader
IBMの「Watson Discovery」はLeaderにランクされた。「強み」と「注意点」は以下の通り。
◎強み
・検索機能と対話機能を同一アーキテクチャにより緊密に統合しているため、製品としての緊密度は最も高い。
・表データを識別・管理・エンリッチする機能が高く、表をインサイトを生み出す重要部分として利用できる。
・最も多くのユースケースに対応している。組織内のさまざまな部署・機能ドメインをまたがるインサイト機能を提供できる。
◎注意点
・他社インサイト製品が提供する、包括的なインダストリー・アクセラレータのオファリングやテンプレートへの対応を欠いている。
・主要なデータソースへの対応を進めているものの、コネクタの総数は市場の平均を下回っている。
ガートナーによると、IBMは、自然言語処理アプリケーションを普及させるためにWatson Discoveryを幅広いポートフォリオへ適用する取り組みを進めている。Watson Speech to TextやWatson Assistant、Watson Mediaなどを緊密に統合していく計画という。
マイクロソフト(Micro Search) タイプ:Challenger
マイクロソフトの「Microsoft Search」はChallengerにランクされた。「強み」と「注意点」は以下の通り。
◎強み
・Microsoft SearchやMicrosoft Power Apps、Microsoft Bot Frameworkなどを製品を緊密に連携させ、総合的なアプリケーションとしている。これにより、多様なコンテンツやデータからインサイトを導き出し、Microsoft 365のさまざまなアプリケーションを通じてインサイトを提示できる。
・ユーザーが製品選択する際のマーケティング的な優位は圧倒的で、認知度はそう高くないものの、リーダーシップを発揮している。
・検索機能に特化した大規模かつ強力なスタッフ集団を擁し、その専門知識を製品開発に活かせる。
◎注意点
・広範なパートナーネットワークがあるにもかかわらず、Microsoft Searchに特化したサービス・ベンダーを顧客の所在地で見つけるのが困難。
・Microsoft 365 の一部として位置づけられているために、特定の業界や機能、アプリケーションに対応するためのバリエーションが不足している。
・最適な価格モデルを提供しているものの、ハイブリッド展開のための選択肢が限られているため、その魅力は薄れている。
・オンプレミスのデータソースへの対応を希望するユーザーは、サードパーティのコネクタがリリースされるのを待つか、ハイブリッドなインデックスを実装するためにSharePoint Searchのオンプレミス版を別途導入する必要がある。
グーグル(Google Cloud Search) タイプ:Challenger
グーグルの「Google Cloud Search」はChallengerにランクされた。「強み」と「注意点」は以下の通り。
◎強み
・検索エンジン分野におけるグーグルの実績と評価は高く、ユーザーがインサイトエンジンを調達する際に最も検討されるベンダーの1つ。
・特定のドメインやコンテキストにおける検索という明確なビジョンをもっているため、製品をさまざまな用途に適用できる「俊敏性(アジリティ)」を備える。
◎注意点
・汎用的なインサイト・プラットフォームであるため、ユーザーの状況に即して適用するためのノウハウがグーグルになく、パートナーに委ねられている点に注意が必要。・それゆえに、インサイト製品購入者に対する理解が競合他社よりも遅れている。
・Google Workspaceとの緊密な統合がサードパーティ・アプリケーションとの連携を困難にしている部分があり、コネクタを介したコンテンツやデータの取り込みがベンダーに依存している点に注意が必要。
Elastic(Elastic Enterprise Search) タイプ:Challenger
Elastic社の「Elastic Enterprise Search」は今回初めてランクインした製品で、Challengerにランクされた。
Elastic社の開発製品にはオープンソースの「Elasticsearch」があり、オープンソースの検索エンジンとして最も普及している。同製品を採用するサービスには、Wikimedia、Facebook、Mozilla、Quora、GitHub、Netflixなどがある。
Elastic Enterprise Searchの「強み」と「注意点」は以下の通り。
◎強み
・同社のWebサイトからダウンロードして試用できる点で、製品の存在感を高めている。
・オープンソース・コミュニティにおける知見を基に、機械学習モデルの作成や管理、トレーニング面で他社をリードしており、製品の使いやすさが優位点。
・複数の言語(製品、サービスを含む)のサポートは他社製品よりも多い。
◎注意点
・Elastic Enterprise Searchをサポートする“垂直方向の製品”が提供されていない。
・ユーザーのコンピューティング・リソースを基に価格設定を行っているため、調達時やレビュー時のコスト算出が困難である。
技術トレンド
ガートナーでは、インサイトエンジンの技術トレンドとして、以下の5つを挙げている。
・自然言語と会話型インターフェースの拡張・拡大
コネクタまたは統合機能による新しいデータソースとプラットフォーム(UI)の統合が進む。
・セマンティック・インテグリティ
インデックス作成の範囲をリッチメディアへと拡大し、より深いインサイトを提供する動きがある。
・タッチポイントと統合
個別のタッチポイント(デバイス、UI)に限定したインサイト提供から、ふだん使っているCRM、ERP、ITサービスなどと統合しインサイト提供の動きが拡大する。
・オープンソースソフトウェアの永続性
オープンソースをベースとするインサイトエンジンの成長・拡大。
・イノベーション
イノベーティブな製品をもつ新しいベンダーが登場し、混乱と選択肢の拡大の両方が生じる可能性がある。
出典:ガートナー「Magic Quadrant for Insight Engines」
[i Magazine・IS magazine]