UPSの電源供給で
サーバーを手動でシャットダウン
本当の恐怖は、そのあとに訪れた。
大きな地鳴りを伴った激しい揺れが収まると、いったん外へ退避した企画部経理課のシステム担当、吉田昌善氏は課長の佐藤準悦氏とともに、すぐに2階のサーバールームに戻った。
ここには、購買・販売・生産・経理・給与・出資管理などの各システムを運用するSystem i(9406-520)と、ドメインサーバー、ファイルサーバーおよびセキュリティとグループウェアで使用する4台のSystem xがある。
地震と同時に停電が発生。本来稼働するはずの自家発電装置が、何らかの理由で動かなかったため、UPSの電源が生きているうちに、System iを含む全サーバーをシャットダウンしようと、非常灯の下で作業を急ぐ。なんとか終了すると、誰かが、「早く外に出ろ」と呼びに来た。
再び事務所を出ると、港の方から防災無線と津波警報のサイレンが聞こえてくる。車のドライバーが窓を開けて、「津波が来るぞ」と大声で叫びながら走ってくる。その時、港に面した太平洋セメントの工場の方角から、大きな音とともに白い煙が立ち上った。
吉田氏はこれが、セメント工場の施設に津波が入ったことで起きる水蒸気だと思い、慌ててほかの職員とともにまず近くの陸橋へ、さらに山側の高台に避難した。そこから、見慣れた街がのみ込まれていく壮絶な光景を、なすすべもなく見守ったのである。
大船渡市を襲った津波は23mに達した。大船渡市農業協同組合(JAおおふなと)の本部は、大船渡湾から2kmほど入った山際に建てられている。地盤が固く耐震性に優れる建物は、震度6強の揺れにも被害は少なかったが、天井の高い1階部分は完全に水没した。
また大船渡市、陸前高田市、住田町を営業地区とする18支店のうち11店が津波(もしくは地震)で全・半壊した(これらはJAバンクの金融店舗を併設する)。支店以外にも、大船渡市や陸前高田市にある購買センターやガソリンスタンドなどが津波で損壊した。
JAおおふなとでは、甚大な被害を受けて業務を全面的に停止。道路の寸断とガソリン不足で職員の多くが出勤できない状態にあったが、徒歩通勤の可能な近隣に住む職員を集め、13日に被害のなかった猪川支店に対策本部を設置した。当初は職員の安否確認が中心で、不明の職員を総出で捜索する日々が続いた。以降、本店に電源が復旧する5月中旬まで、事実上の本店機能はここに移ることになる。
佐藤氏は震災翌朝、施錠できない本店のセキュリティを心配し、水の引いた事務所に入って、無事だったサーバールームから基幹システムのバックアップテープを持ち出した。入れ違いで吉田氏も、同じ理由でここを訪れている。
本部では、System iはテープで、System xはストレージにバックアップしており、どちらもサーバールーム内で保管・管理していた。街が無残に姿を変えた大混乱の中、安全な保管場所に苦慮した佐藤氏は、望ましくないとは承知しつつ、他に選択肢がなく、仕方なくテープを自宅へ持ち帰った。
重要度の高い
ファイルサーバーを移設
JAおおふなとのシステム構築を支援するシンエイシステムの熊谷健氏は震災から1週間後、本社のある盛岡市からCEとともに自衛隊車両や支援関係車両が往来する中、車を走らせて猪川支店の対策本部で佐藤氏に再会した。2週間後には、出勤できるようになった吉田氏も加わり、システム面からの復旧がスタートしている。
大船渡市ではライフラインや物流が長く途絶した。ネットワーク機器を1つとっても調達が難しい中、「正確な計画や見通しは立てられないが、ともかく調達できるもので、今できることから始めようと考えました」(佐藤氏)
支店の復旧作業と並行して、瓦礫の中からPCを回収する。しかし泥や砂が詰まったPCからは結局、1台もデータを復旧できなかった。
3月25日頃には、給与振り込みや支払い、それに安否確認に欠かせない職員の情報が入った本店のファイルサーバーを、シンエイシステムの手を借りて、比較的早く電気が復旧した立根支店へ数台のPCとともに移動させた。
「この時、System iの移動も検討しましたが、輸送のリスクを考えて断念しました」(吉田氏)
通電した電柱からケーブルを伸ばし、本部に仮電源が復旧した4月中旬には、震災後初めて、System iほか4台のSystem xを再起動した。直後に手動でシャットダウンしており、また地震の衝撃にも影響を受けなかったようで、すべて問題なく稼働した。
同組合では、インターネットVPNで本部と各支店を接続していた。しかしインターネットの光回線は5月末まで復旧しなかったため、補強・修復工事や臨時店舗の設営で支店業務が再開しても、ネットワークは利用できない。
ただし携帯電話は比較的早く、3月中には、多少不安定さは残るものの使用可能になっていた。そこで、回線復旧の見込めない各支店にUSBデータ通信端末を配布。これをルータに接続して、仮設的なネットワークを構築し、本店のシステムへアクセス可能にしている。
ちなみに本店で電源が復旧したのは5月半ば(ただしその時点でも100%の電力復旧ではなかった)。固定電話の開通は6 月半ばである。6月末時点で、被害を受けた11支店を含む18支店は、仮設店舗や未被災店舗への統合により10店舗で業務を再開した。。
同組合が今後の災害対策に向けて、システム面で重視するのは、データ保全の安全性である。
実は震災前から、PCサーバーの更新とともにデスクトップの仮想化を計画していた。少し予定は遅れたものの、8月には計画どおり、サーバーを更新する。その際に、PCサーバーのバックアップは、NAS経由で離れた拠点側のディスクに保管する仕組みを構築する。現在、導入準備とともにその候補地を選定中である。
またSystem iについても、バックアップデータの保管場所を本部とは離れた拠点に移すことを検討しているようだ。
吉田 昌善 氏
企画部経理課 係
本 社 岩手県大船渡市 震度 6強
停電復旧 5月半ば
被災状況 本店1階が津波で水没。11店舗ほか購買センターやガススタンドなどが津波で全・半壊
東日本大震災発生からの主な動き
3 月13日 猪川支店に対策本部が発足
3 月25日 立根支店へファイルサーバーを移設
4 月半ば 本部に仮電源が復旧、System i やPC サーバーを再起動
5 月半ば 本部に電源が復旧
6 月半ば 固定電話が復旧
設 立:1966年
貯 金:857億円
貸出金:344億円
長期共済保有高:3648億円
組合員数:2万1896名(2011 年2月)
業務内容:生産物(農産物)の販売、金融・共済・購売事業
http://www.jaofunato.or.jp/