POINT
・全社を挙げて製品とプロセスの品質向上に取り組む
・システム開発の標準化も推進
・J-SOX対応として開発ログ管理ツールJustiを導入
不具合ゼロを目指す
ZDF活動
1 年前の本誌No.14 でも紹介した電子部品メーカーKOAは、「農工一体」「伊那谷に太陽を」(地域コミュニティの活性化と雇用の確保)という創業時のビジョンを今も受け継ぐ独創的な企業である。「循環・有限・調和・豊かさ」を経営理念とし、環境負荷低減活動など自然との調和を図る独自の活動を展開中である。
その同社が、経営方針の1つである品質向上の一環として2007 年から取り組んできたのが、「Zero DefectFlow」(以下、ZDF)だ。製品製造活動にとどまらず、全ての業務における不具合の発生をゼロにしようという、プロセス改善を含めた活動である。
「最初は、『不具合を流出させない仕組み』作りからスタートし、現在は、エラーが出たら前工程へフィードバックする仕組み、不良が発生したらラインが自動停止する仕組み、傾向値管理を行い不具合が生じる前に自動補正を行う仕組みのステップに分け、全員参加の活動を進めています。情報システム部門ではこれらに対応するシステムを開発し、今後はさらに基幹システムと設備情報を連携させ、見える化や傾向値管理の活動を進める計画です」と、経営管理イニシアティブ 情報システムセンターの藤原斉プロフィットマネージャーは説明する。
情報システムセンターでは、自部門の活動としてもZDFに取り組んできた。その1 つがシステム開発手順の標準化で、プログラムの品質向上へ向け、異常発生の度ごとに要因を潰し手順を改善してきた。「工場が品質向上に邁進しているのに、システム部門が品質改善を行わないわけにはいかない」と藤原氏は言う。
さらに、ZDF構築の一環として、J-SOX対応など内部統制の強化も図ってきた。内部統制を「業務・製品の品質向上や企業体質改善のチャンス」と捉える点が同社の姿勢である。全社業務における統制状況の把握、誤謬・不正・漏洩などのリスク分析、課題点の洗い出しと改善などに取り組み、「財務報告に係る内部統制基本規程」「リスク管理規程」「情報システム管理規程」「情報セキュリティ対策マニュアル」などの社内規程を整備してきた。
Windowsベース・検索機能・
安価の3点を評価し導入
一方、情報システムセンターもこれらに並行して、IT全般統制の観点から「システム開発手順の統制強化」「セキュリティの強化」「情報システムの可用性の確保」に取り組んできた。
その中で、システム開発における統制管理のためのツールとして採用したのがビーティスのJustiである。「システム開発においては、システム部員が不正なプログラムを埋め込むとか、ルールに反してデータを抜き出すなどの違反行為を想定していませんでした。しかし、問題が生じた際の説明責任を全うするため、またJ-SOXで求められているインシデント発生時のトレーサビリティを確実なものとするために、ツールの導入を決めました」と藤原氏は振り返る。
選定にあたっては複数の製品を検討した。「IBM i上にログを持つものや、ログを短期間で削除してしまうものなど、さまざまな製品がありました。当社の目的であるインシデント発生時にトレースを行うためには、長期間ログを保持しておく必要があります。そうなると、ディスクコストが割高なIBMi上に長期に置いておくことはできません。最終的に、Windowsサーバー上にログを蓄積でき、検索機能が充実していて安価でもあるJustiを選択しました」(経営管理イニシアティブ 情報システムセンターの唐澤淳一氏)
当初は、ニーズに合うツールが見つからなかったが、日本IBM長野事業所の営業担当から製品発売直後のJustiを紹介され、「即座に採用を決めた」(藤原氏)という経緯がある。
導入後は、ビーティスのサポートが光った。「導入時の初期トラブルが発生すると、翌日には東京から伊那まで 出張して対応していただいたり、使い勝手に関する要求に対し、メニューの 大改造や不要なログを排出しないよう にするなどきめ細かく対応していただきました」(唐澤氏)と高く評価している。Justiには多様な機能が装備されているが、同社は「インシデントが発生した時だけログを参照する」(唐澤氏)という使い方だ。
現在は、誰がいつどういうコマンドを入力したか、誰がいつデータベース 定義を更新したかだけでなく、プログラムを誰がいつ修正したか、さらにプ ログラムの修正前後のログも検索できるため、修正箇所まで把握できるようになっている。
J-SOX 対応では、Justi 導入に先立って、開発担当者とリリース担当者を切り分ける仕組みの整備も行った。同社では、システムのリリースを開発担当者が単独で行うことを認めていない。 藤原氏は「この仕組み作りが実に大変でした」と振り返る。対応策として、 開発担当者がリリースするプログラムとファイルをCLにまとめ、リリース担当者に依頼する形にした。
システム開発の品質向上や統制強化以降、プログラムの段階ごとにチェックやレビューが入ることになり、リリースまでのチェックが厳しくなった。リリース直後の手戻りによる修正は少なくなったが、システム開発の完成までに手間と時間がかかるようになった。この結果、毎月70 ~ 80 件あ るシステム部門への依頼に対し、「依頼者に満足してもらえる開発スピード を実現することが、より難しくなっ た」(藤原氏)という。
しかし、それもこれも「品質重視の ための取り組み」である。「KOAの企業風土に合ったよいものを残し、システム面で改善できるところを改善していくのがシステム部門の役割と考えて います。しかしながらスピードも重要な要素であり、現在は品質を保持しながら、いかに開発生産性を向上していくかを大きな課題として、改善活動を進めています」と藤原氏は語る。
同社では、全社システムの最適化を求めて、メールシステムのクラウド利用もスタートさせている(現在は一部 ユーザー)。ユーザーが利用するクラ イアントPCのシンクライアント化も 視野に入れながら、新しい技術の取り 込みにも注力している。
COMPANY PROFILE
創 立:1940年
本 社:長野県上伊那郡
資本金:60億3300万円
売上高:連結362億7500万円、
単独265億3900万円(2010年3月)
従業員数:1257名(2011年3月)
http://www.koanet.co.jp/