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事例|豊鋼材工業株式会社 ~スキャナ保存制度に対応した 新しい申請システムをDelphi/400で開発

本 社:福岡県粕屋郡
設立:1958年
資本金: 4億5000万円
事業内容:鉄鋼およびその他金属の加工、 二次加工、販売
http://www.yutaka-steel.co.jp/

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スキャナ保存法制度に対応した
新しい申請システムを開発


 豊鋼材工業では、2019年度のIT計画として多くの取り組みが進行中である。 大きな項目だけを見ても、以下の取り組みが挙げられる。

1 レーザープリンタへの移行
2 消費税対応
3 PCサーバーの更新
4 Windows 10へのバージョンアップ
5 スキャナ保存制度への対応
6 キャッシュレス化
7 無線LANの再構築

 たとえば約30台のドットプリンタを、複合機などを含むレーザープリンタへ移行する。「UT/400」(アイエステクノポート)などのプリンティングツールを活用し、100種類以上の帳票を段階的に再設計して、レーザープリンタでのPDF出力を可能にする。

 2017年からスタートしており、2020年3月末に全帳票のレーザープリンタ出力への移行が完了する予定である。 

 また10月1日の消費税改定に先立ち、IBM i上のプログラム改修を完了した。これまでプログラム埋め込み型の消費税処理が多く、今後の対応を考え、時間をかけてサブルーチン化するなど改修を進めた。 

 なかでも注目されるのは、電子帳簿保存法スキャナ保存制度に対応する申請システムである。これは「Delphi/400」(ミガロ.)を使って、完全自社開発型で実現している。

 スキャナ保存制度とは、日々の取引で発生する契約書や領収書といった紙の書類に対して、事前に所轄税務署長の承認があれば、電子データへの変換・保存が認められる制度である。

 電子帳簿保存法に規定されている国税関係書類の保存方法の1つであり、スキャナで読み取ってデジタル化したデータを一定の要件に従って保存すれば、紙の書類は処分できる。

 この制度は2005年に策定されたが、これまでは要件が厳しく、あまり利用されてこなかった。しかし2015年、2016年と2年連続で法改正が実施されたことで、要件が大幅に緩和された。

 そこで同社では、従来は紙で処理していた旅費交通費と交際費・会議費の立替精算をスキャナ保存制度に対応させ、複合機のスキャナ機能、申請・承認ワークフロー、経理仕訳などを連携させた新システムへ移行させた。狙いは以下のような業務課題の解決にある。


(1)申請・承認に関わる業務の簡素化とスピードアップ
(2)自動仕訳連携(科目設定、負担部門配賦などを含む)による経理処理の容易化とミス防止
(3)自動単価設定および集計計算の自動化により、誤りと手戻りを削減
(4)「駅すぱあと」の組み込みによる運賃確認の容易化とチェックの簡素化
(5)伺いと精算の情報連携による内部統制強化
(6)ワークフロー化によるペーパレスの実現
(7)領収書のスキャナ保存による電子帳簿保存法への対応
(8)各種実績情報のデータベース化による分析の実現
 
  同システムは2018年12月に税務署へ申請後、2019年4月からみなし承認となり、本運用を開始している。

 

Delphi/400を使って
ワークフローやミドルウェアと連携

 新システムの流れは、以下のようになる(図表1図表2)。まず出張であれば行先、目的、日時など、交際費・会議費であれば相手や目的、予算などを記入した「伺い申請」を起票する。

 

 査問・承認が終了し、出張が終わったら(もしくは交際費・会議費を使用したあとに)、今度は伺い申請のデータを利用して精算申請書を起票する。このタイミングで、基幹DBに新たに準備したワークフロー用のデータベーステーブルにレコードが登録される。

 領収書がない場合は、ワークフロー上で承認・決済に進む(このとき自動仕訳処理が実行される)。領収書がある場合は、Excelのフォームで作成した紙の領収書台紙に領収書を貼付して、スキャン担当者が複合機でスキャンする。

 担当者はスキャン画像を確認し、問題がなければタイムスタンプが付与され、申請書・領収書PDFとしてサーバーへ送信される。

 このあとは査閲・承認者がワークフロー上で確認。査閲・承認でワークフローのデータベースのレコードを更新し、次の確認者へメールおよびブリンクするメッセージを送信する、という仕組みである。

 ワークフローは今回新たにDelphi/400で開発し、やはりDelphi/400で構築してきた独自の業務システム「Y-VIS」に組み込んだ。伺い申請、精算申請、確認・承認、履歴検索、タイムスタンプ処理、一括検証の各処理を実行している。

 領収書は富士ゼロックスの複合機でスキャンするが、読み取った領収書画像の加工には、「ApeosWare Flow Service」というミドルウェアを活用している。

 これにより、読み取った画像の加工、整理、分類、配信、OCR、QRコードの読み取り、読み取り履歴のテキスト出力など一連の処理を実行する。

 またタイムスタンプ処理は、「刻印された時刻以前にその電子文書が存在していたこと(存在証明)」と、「その時刻以降、当該文書が改ざんされていないこと(非改ざん証明)」の双方を証明するのに不可欠な機能である。

 このタイムスタンプ処理には、時刻認証業務認定事業者(TSA)の提供サービスを利用した「e-timing EVIDENCE 3161 PDF Lib-W」(アマノセキュアジャパン)をアプリケーションに組み込んでいる。

 さらに領収書の画像データは、対応する申請書の支払データと連携させる必要がある。この連携を実現したのが、QRコードである。

 支払案件ごとに付与したIDをQRコードとして、領収書台紙に印刷する。この台紙に領収書を貼付し、QRコードごとスキャンすることで、領収書画像と支払データの連携を可能にした。

 領収書貼付用の台紙はExcelでフォームを作成し、QRコードはフリーウェアのアドインツールを使って出力する。ちなみにこのQRコードは、スキャンした領収書画像PDFのファイル名としても利用している。

 

さまざまな工夫を凝らした
完全自社開発型システム

 同社は以前からDelphi/400を使って、さまざまなアプリケーションを開発してきた。

 今回の精算システムも、いくつかのミドルウェアを利用し、タイムスタンプやQRコードの発行ツールなどを組み込み、基幹DBとの連携や経理システムとの仕訳データ連動を実現するなど、さまざまに工夫を凝らした自社開発型システムである。

 各種の検証と税務署への提出資料作成、社内教育などを含めて約1年で完成させている。

「Delphi/400はこれまでの経験から使い慣れていましたが、今回の開発では、単に業務の利便性を向上させるだけでなく、電子帳簿保存法の法的要件に対応させるという難しさがありました。当初は法律の解釈や運用ルールの決め方などがわからず、同業他社でも参考事例がなかったため、ガイド本、解説書等により理解を深めるとともに、外部に数回のコンサルタントを依頼し、ミガロ.からも技術サポートを得て、ようやく完成させました」(石井裕昭監査役)

石井裕昭氏 監査役

 

 上記に紹介した以外にも、申請システムにはさまざまな工夫が凝らされている。

 たとえば旅費精算業務では、運賃明細の申請後にネット上で各区間の料金を調べて記入することが多く、運賃をチェックする側でも同様の調査が必要となる。

 そこで、乗換案内サービスである「駅すぱあと」の開発キットをDelphi/400のアプリケーションに組み込み、指定区間の料金を取得できるようにした。ここでは、駅すぱあとで取得したデータかどうかを判別できるように工夫し、申請金額の妥当性判断を容易にし、チェック負荷の軽減を可能にしている。


 またワークフローの査閲・承認をスマートフォンでも可能にするため、Delphi/400 でAndroidアプリとしても開発した。スマートフォンでも申請フォームの内容や領収書を、PDFファイルのイメージで参照可能にしている。

 

スキャナ保存制度の
厳しい要件に対応させる

 

 さらにIBM i上の経理システムとも連動させた。今回の精算システムでは、申請内容に基づく仕訳データが比較的容易に作成でき、IBM iで発番される仕訳データIDの取得・更新も可能である。

 そこで、内容を確認したうえで、仕訳データ作成と仕訳帳発行を自動的に行えるようにした。

 従来は申請者が作成した精算書をもとに、事務スタッフが経理仕訳を入力していたが、この処理は不要となった。交際費等は1人当たりの負担金額により、勘定科目の妥当性を自動的に判定可能である。


 また以前に比べれば大きく緩和されたものの、スキャナ保存制度には厳しい要件が設けられている。たとえば同制度では、24Bitカラーでの読み取りが要求されているが、ApeosWare Flow Serviceで出力するスキャン履歴のテキストファイルでは、この情報を取得できない。

 このためスキャン用の台紙にカラーサンプルを印刷し、スキャンされた画像がカラーで読み取られていることを目視のうえ、その確認履歴を残すこととした。

 Delphi/400のアプリケーションでExcelのフォームを起動し、Excel側のマクロで台紙の印刷を自動実行する。Excelのマクロで常にカラー印刷となるように制御するのは難しいので、あらかじめデフォルト設定をカラー印刷にしたプリンタ情報をパラメータとしてExcel側に渡し、出力プリンタをマクロで指定するように工夫している。

 このほかスキャナ保存制度が定めた要件に沿って、複合機で常に正しく読み込むには、解像度、カラーモード、ファイル形式などを正確に設定する必要がある。

 しかし手作業の場合、設定ミスなどで必ずしもルールどおりに運用できない危険がある。そこで複合機の一連の各設定をまとめてメモリ登録する機能を利用し、条件設定のバラツキが生じないように注意している。
 
 同社では今後、Delphi/400を使って、業務課題を解決するアプリケーションを自在に開発していけるような、社内の人材教育に力を入れていくことを課題として掲げている。

 

[i Magazine 2019 Winter掲載]