IBM製品を中心としたビジネスパートナー向けのディストリビューション事業を展開するイグアスでは、2台のPOWER9サーバーを導入して数々の検証を行うとともに新しい使い方についてのテストも行い、その成果を公表している。高度で多様な利用が可能なPOWER9サーバーは、ソリューション・ディストリビュータ」への移行を進める同社にとって、大きな弾みにもなっている。
Power Systemsの
新しい使い道を模索・検証
イグアスは2006年に設立されたディストリビュータで、近年は中核のITディストリビューション事業のほかに、サプライ事業や3D事業、バッテリー再生サービス(MOTTA)などを含む新規事業を精力的に展開し、多方面に事業領域を拡大している。
その同社がPOWER9サーバーを2機導入し(Power AC922とPower S914)、実機を用いたさまざまな検証を行う目的について、クラウド&ソリューション事業部テクニカル推進部の藤沼貴士部長は、次のように説明する。
「Power Systemsは、昔の古いプログラムであっても最新のマシンで使えるという抜群の継承性を備えています。しかしながらその特質は、ときとして使い方の進化を停滞させるマイナスの要因ともなっています。
AIやクラウドへの対応を本格的に備えたPOWER9サーバーは、お客様の利用形態を大きく前進させ、変化させるインパクトをもつ、これまでとは趣が異なるサーバーです。パートナーやエンドユーザーへ向けてPower Systemsの新しい使い道やよりよい使い方をご提示するのが、実機による検証の目的です」
同社の検証・評価は、AI、SNS、バックアップ手段、消費電力など多方面に及ぶ。以下、それらを紹介していこう。
LPARを組めないAC922に
コンテナを設定し検証
POWER9サーバーを対象に同社が最初に取り組んだのは、Power AC922(以下、AC922)上に2つのコンテナを立て、それぞれのコンテナにGPUを割り当てて異なるAIアプリケーションが稼働するか、という検証である。
AC922は、POWER9サーバーの先陣を切って2017年12月に発表されたモデル。NVIDIAのGPU(Tesla V100)を2個または4個搭載し、AI・HPDA(高性能データ分析)・HPC用に最適化されたサーバーである。
「AC922は、CPU?GPU間を高速接続するNVLink 2.0を装備するなどハイスペックなマシンで高い処理性能を有していますが、LPARを組めないという制約があります。そのため4個のGPUを搭載していても1個のGPUで済むアプリケーションであると、残り3個が使われないままになっています。そこで、コンテナ技術を適用すればGPUを有効活用できることを実証したのが、今回の検証です」と語るのは、クラウド&ソリューション事業部テクニカル推進部の寿村聡氏である。
検証は、AC922(OSはRedHat Enterprise Linux 7.5)に、Docker/KubernetesをベースとするIBM Cloud Privateを導入し、PowerAIをインストールしたコンテナイメージを作成。そのイメージをもとに2個のPODを作成し、さらに各PODのコンテナにGPUを1個ずつ割り当てて、異なるディープラーニングの学習を実行させる、というものである(図表1)。
「コンテナのオーケストレーションを管理するKubernetesを利用するとGPUのスケジューリングが行え、複数のコンテナに複数のGPUを割り当てることができます。つまり2個のGPUがあれば1個ずつ別々のコンテナに割り当てることができ、それぞれで異なるアプリケーションを走らせることが可能です。これによってLPARを設定できないPower Systemsにおいてもリソースの有効活用を実現できます」(寿村氏)
検証は狙い通りに進み、AC922上の2つのコンテナで、GPUを利用する異なる画像認識アプリケーションの稼働を確認できた。
「今後は、この検証をもとに、個々のお客様にフィットするソリューションを構築していくことが重要です。今回の検証は、そのベースとなる情報をパートナーとエンドユーザーにご提供できたと考えています」と、寿村氏は述べる。
IBM iにTwitterデータを
取り込み、基幹連携
次にイグアスが取り組んだのは、POWER9サーバー上のIBM i基幹システムとTwitterデータとの連携である。その目的について、クラウド&ソリューション事業部 テクニカル推進部の須藤正夫氏は次のように話す。
「製造企業やサービス会社などの間で、自社の商品・サービスがマーケットでどのように評価されているか、Twitterのデータ(ツイート)を基に分析したいというニーズが幅広くあります。そこで、特定の商品やサービスに関連するツイートをIBM iに取り込み、その集計結果をIBM i上の商品情報や販売実績と突き合わせて評価・分析できる仕組みを構築し、検証しました。現在、市場で入手できるさまざまなサービスを組み合わせれば、IBM iとSNSとの連携も容易であることを確認するのが目的でした」
検証用のシステムは、オンプレミスのPower S914(OSはIBM i 7.3 TR4)にNode-REDを導入し、Node-RED上のワークスペースで開発した(図表2)。
Node-REDは、各種サービスの機能をカプセル化した「ノード」と呼ばれるアイコンをドラッグ&ドロップでつなげていき、処理の流れをデザインするツール。たとえば、Twitterデータの取り込みからDb2 for iへの書き込みは、「Twitterデータの取り込み」→「Sentiment(データのネガティブ/ポジティブを判断する機能)」→「処理ロジック(JavaScriptで記述)」→「Db2 for iへの書き出し」という4つのノードをつなげるだけで済む。
「この結果、Db2 for iに書き込まれたTwitterのデータとDB2 for i上の商品情報などを突き合わせることによって、個々の商品に対するボジティブ/ネガティブの割合や、特定のツイートを誰が、いつ発したかのを確認することができます。こうした仕組みを、IBM i上だけで容易に構築できることを示せたのが、今回の成果でした」と、須藤氏は語る。
RDXとテープ装置を
コスト比較
IBM iがサポートするバックアップ装置は、POWER7、POWER8、POWER9の各サーバーで変化してきている。たとえばテープ装置はPOWER7サーバーまでは内蔵だったが、POWER8サーバーで外付けに変更され、さらにDVD装置もPOWER9サーバーで外付けとなり、POWER9サーバーでは新たにRDX装置がオプションで内蔵(取り付け)可能となった。
ただし、このような変化があっても、IBM iにおけるバックアップは、依然としてテープ媒体が多数を占める。
では、POWER9サーバーでテープへバックアップするには何が必要だろうか。標準的な構成としては、SAS(Serial Attached SCSI)またはファイバーチャネル経由で装置を接続する方法である。
一方RDXは、2.5インチHDDを内蔵したカートリッジで、IBM iとはUSBで接続でき、カートリッジなので扱いやすくメンテナンス不要という特徴がある。
それでは、POWER9サーバーのバックアップは、テープとRDXのどちらが得策だろうか。
このPOWER9サーバーを導入するユーザーの多くが直面するであろう疑問に、イグアスでは両者を同等条件で比較し、コストを試算して回答している(図表3)。比較したのは、 Power S914のタワー型とラックマウント型のそれぞれにテープ装置とRDX装置を接続した環境である。
プラットフォーム製品事業部システム製品営業部の越川裕司氏は、この比較結果について、「POWER9サーバーでテープ装置を接続するには接続アダプタが必要になり、さらにテープ装置本体に保守料がかかります。これに対してRDXは、保守料がPOWER9サーバーの保守料に含まれるので、テープ装置よりも安価にPOWER9サーバーを利用できます。コストを重視されるお客様にはRDXがお勧めです」と解説する。
また、「RDXはディスクなので、テープのような互換性を考慮する必要がありません(テープは1世代前のWrite/Read、2世代前のReadを考慮する必要がある)」とも、越川氏は指摘している。
UPSでシャットダウン検証
実際の消費電力も調査
POWER9サーバーのエントリーマシン、Power S914で“電源問題”が浮上している。
S914の最大消費電力は、タワー型・ラック型とも「1600W」。S914の前身のS814やその前のPower 720の最大消費電力は1500W未満だったので100VのUPS入力電源を利用できたが、S914はスペック上の最大消費電力値でUPSを選定すると200Vが必要となるため、ユーザーの環境によっては電源工事が必要になる。これがユーザーとパートナーを困惑させている“問題”である。
ただし、スペック表に表記される「最大消費電力」はフル装備で計測されるのが通例なので(S914ならば最大の8コア、1TBメモリ、67TBディスクなど)、ユーザーの実際の利用環境とはやや乖離していると見ることもできる。たとえば、S914をIBM i 環境で使用する場合、8コアモデルを利用するユーザーはほとんどいない。
そこでイグアスでは、1.5KVA対応のUPSを使ってS914のシャットダウン試験を実施するとともに、電力を実際にどれくらい消費するか電力負荷率を計測した。S914の構成は、4コア、64GBメモリ、1.7TBディスクで、OSはIBM i 7.3 TR4、LPARなしの環境である。
シャットダウン試験は、S914に1.5KVA対応のUPSを接続し、サーバーが完全に起動した状態でUPS入力電源をコンセントから外して擬似停電の状況を作り、停電待機時間後に正常に自動シャットダウンするかどうかを確認する方法で実施した。
検証に用いたUPSは、4社5機種の製品(図表4)。いずれの機種も、S914を正常にシャットダウンさせることができた。
一方、電力負荷率の測定は、UPS各社が提供するコンソール画面とデータ収集機能を用いて、「S914起動ピーク時」「安定稼働時」「電源オフ時」の3つの場面をそれぞれ3回計測した。
結果は、出力が最大となるサーバー起動時でも510?640Wの範囲に収まり、スペック上の最大消費電力1600Wの30?40%程度であることが判明した。
ただし、この結果をもって「S914が100V電源で利用可能とするのは早計」と、須藤氏は言い、「サーバーの消費電力は、アプリケーションや利用形態によって大きく変動するので、電源やUPSの選択は慎重に行うべきです。今回の電力負荷検証は、各メーカーが保証するものではないのでご注意ください」と、注意を促している。
V.24アダプター営業活動終了の
代替策を公表
Power E980・E950が発表された8月7日 に、日本IBMからV.24、V.35回線対応のWANアダプター「#EN13」の営業活動終了が発表された。
V.24やV.35は、全銀手順やJCA手順で通信する際に使用する通信インターフェース。日本では非常に多くのユーザーが利用しているため、イグアスでは3つの代替策を公表している(図表5)。
対応策①は、IBM認定再生品の利用。日本IBMでは#EN13と#EN13と同等の機能をもつ#2893アダプターの再生品の販売とそのサポートをスタートさせた。
対応策②は、既存のPower機で使用していた#EN13または#2893のPOWER9サーバーへの流用で、既存機からの移設の場合はIBMと保守契約を締結できる。
対応策③は、アプライアンスまたはソフトウェアでの対応。全銀手順/JCA手順向けの製品としては、ネオアクシスの「Toolbox for UST」(アプライアンス)、同「Toolbox JX Client」、JBアドバンスト・テクノロジーの「Qanat 2.0 ACMS+」等。FAX送信用としては、アイ・ディー・シーの「FREE MAUL Plus」、ファンディンカムの「WilComm」等を代替え案として推奨している。
2024年にはINSネット「ディジタル通信モード」がサービス終了になる。通信回線を見直す時期に来ていると言えるだろう。
[i Magazine 2018 Autumn(2018年8月)掲載]