IBMは2月4日、量子コンピューティングのロードマップを発表した。IBMが今後、どのように量子コンピューティングを推進していくのかを示すものなので、紹介してみよう。
今回発表されたロードマップは、昨年(2020年)9月発表の量子ハードウェアのロードマップに、今後どのようなソフトウェア/ツールを提供していくのかをマッピングしたもの。年ごとに、そしてソフトウェアのレイヤごとに計画中のツールが明記されている(図表1)。
IBMが目下念頭に置く目標は、「大多数のソフトウェア開発者が、ふだん使っている言語でクラウド上のQuantum APIを呼び出すコードを書くだけで量子コンピュータを活用できる世界」(IBMフェローのジェイ・ガンベッタ氏、IBM Quantum事業部バイス・プレジデント)である。
量子ハードウェアは2023年に1121キュービットという、現在の64量子ビットからすると仰ぎ見るような高パフォーマンスのハードウェアが計画されている(図表2)。しかし、目標とする世界へ到達するにはハードウェアの進展だけではだめで、「量子ハードウェアのパフォーマンスを根本的に改善するソフトウェアの改良が必要」と、ガンベッタ氏は語る。そのソフトウェアは、「古典コンピュータの制御システムとの間でインタラクティブに作動するソフトウェア」で、「ソフトウェアのレイヤごとに改良が進められる」という。
今年(2021年)はその第1弾として、カーネル開発者向けの「Qiskit Runtime」がリリースされる予定である。さまざまな回路を高速かつ効率的に演算処理する仕組みで、現在の100倍の処理性能を実現するという。
第2弾は2022年リリース予定の、これもカーネル開発者向けの「ダイナミック回路」である。現在実行中の状態から将来の状態を予測し、それに基づき最適な分岐を動的に提供する技術である。エラー訂正などに効果があるという。ガンベッタ氏は、「この技術は実現が困難だったが、“Mid-circuit measurement and reset”機能を開発したことにより実現し、大きな進歩を遂げた」と述べた。
2023年は、1121量子ビットの量子ハードウェアが登場する年だが、「この段階になると特定の回路がより頻繁に使われるようになる」とし、「それに向けた最適化された回路ライブラリをカーネル開発者向けに提供していきたい」と、ガンベッタ氏は抱負を語った。2025年以降は、数千量子ビット規模の大規模な量子回路を管理するツールや高度な制御機器を提供する計画である。
一方、アルゴリズム開発者向けのレイヤでは、2020年に「自然科学」と「最適化」のモジュールをリリースし、その後「金融」「マシン・ラーニング」などのモジュールも公開してきた。2023年には、量子アルゴリズムを効率的に実行するための「ビルド済み量子ランタイム」をリリースする計画。2025年以降は、さらに処理を効率的に行うための「古典コンピュータ(HPC)用のビルド済みランタイム」を投入する予定という。
そして最終的に、「これらをスケールできるようにし、クラウドと統合する」と、ガンベッタ氏は語った。「2024年には1000キュービット・システムでクラウドから量子サービスを構築しています」
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