この記事では、IBM Power Systems Virtual Server(以下、Power VS)の登場前の背景と登場のインパクトに触れる。Power VSの登場は、緊急避難的な利用から本格利用への契機になるだろうか。
1990年代から始まる
IBM iクラウドサービス
IBM iのクラウドサービスは、1990年代に「ホスティングサービス」という形で始まっている。それを「クラウドサービス」と呼べるか議論が分かれるところだろうが、コンピュータ資源をサービスとして提供する点ではまさしくクラウドサービスであり、今もIBM iのホスティングサービスを「クラウドサービス」として提供中のベンダーは多い。これらのサービスは、当初から運用・保守のマネージドサービスがセットである。
2010年代に入ると、いくつか変化が起きる。
1つは、システムリソースをメニュー方式で提供する「メニュー型IaaS」の登場である。メニューは利用量に応じて“大・中・小(松・竹・梅)”に分けるのが一般的で、利用量がスパイクする月末・月初などを想定してバースト対応をメニューに加えるベンダーもある。
もう1つは、本誌が「SI型クラウド」と呼ぶ、受託開発したシステムをベンダーのクラウドセンターに配置し、月額ベースで、運用保守からアプリケーション保守までのサービスを含めて提供する形態である。
このほか物流管理や生産管理システムなど業種特化のアプリケーションをSaaSとして提供するベンダーもさまざま登場した。
IBM iクラウドサービスは
緊急避難的な受け皿か
2010年代は、IBM iユーザーが個々に抱えてきた問題が「待ったなし」の状況になり、その解決を外部サービスに求める動きが加速した時期である。
クラウドサービスはその解決策の1つで、システム運用の負荷軽減、要員難の解消、スピーディなアプリケーション調達、老朽化したIBM iシステムのモダナイゼーションなどの課題を解決する受け皿として、利用されてきた。本誌の推定ではこの3年間に約200社のIBM iユーザーが基幹システムをオンプレミスからクラウドへ全面移行させている。
とは言え、クラウドへ全面的に移行したIBM iユーザーは500社程度(本誌推定)で、全体から見ればまだ少数派である。本誌が昨年実施したユーザー動向調査でも「IBM i上の業務システムの一部または全部を、クラウドサービスに移行させる計画・予定がある」のは6.2%に過ぎなかった(本誌2020年Spring号、i Magazineサイトにレポートを掲載中)。
IBM iのクラウド移行が進まない理由として、支援ベンダーの不足やユースケースの不足、IBM iユーザーにフィットするクラウドサービスの不足などを指摘する声がある。たしかに、環境が十分に整っていないというのは事実だろう。
しかしもう1つ理由としてあるのは、環境が十分に整っていないこととも関係するが、多くのIBM iユーザーにとってクラウドは「待ったなし」の問題を解決するための緊急避難的な受け皿でしかなく、次世代の企業システムを築くためのプラットフォームとして捉えられていない、ということである。
このことは、IBMがIBM iのクラウド戦略を明確に打ち出してこなかったこととも関係している。IBMがSoftLayerを買収したのは2013年だが、IBM iのIaaSサービスを発表したのは2019年であり、6年のブランクがある。2013年以降、IBMがクラウド事業に邁進してきたのは周知のとおりだが、IBM iは脇に置かれてきた感がある。
エコシステムの形成へ
システム戦略の中で捉える
IBM Power Systems Virtual Serverの東京リージョンでの提供開始は、日本のIBM iユーザーにとって画期的な意味をもつと本誌は考えている。
1つは、IBMがIBM iの利用形態としてクラウドを正式に据えたことによる影響である。これによってIBMとベンダー間、ベンダーとベンダー間でPower VSを軸にしたエコシステムが築かれ、クラウド利用のための環境が急速に整備されていくものと考えられる。今回取材したベンダーはいずれも急ピッチでPower VS対応を進めており、自社の強みを生かすために他社との連携を模索している。
もう1つは、IBM iユーザーがIBM iクラウドを自社の中・長期のシステム戦略のなかで検討し始める大きな契機になると考えられることである。クラウドへ踏み出すのを躊躇していたユーザーも、IBM iクラウドがIBMによってIBM i利用の“王道”に据えられたことにより、「不安が払拭されるだろう」と見るベンダーは多い。
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