多彩なフロントエンドに対応し
多様なデータソースにアクセス
JBCCはチャットボットに特化したAIソリューション「CloudAIチャットボット」を展開している。これはIBM Watsonを利用したクラウド型のAIチャットボットで、コールセンターやヘルプデスクをはじめとする社内外のさまざまな問い合わせ業務に対応する。ユーザー企業はFAQのセットを用意し、Watsonに学習させることで、AIがさまざまな問い合わせにチャット形式で回答していく。
CloudAIチャットボットの特徴は、多彩なフロントエンドツールに対応していること、そして多様なデータソースや外部サービスと連携できることである(図表1)。
フロント側は通常のブラウザはもちろん、LINE WORKS、Hangouts Chat、Microsoft Teamsなどのチャットツール、そしてスマートデバイスの専用アプリからのアクセスが可能である。最近の傾向としては、チャットツールの活用が急速に増えているようだ。
またバックエンド側では、問い合わせ(FAQ)システム、情報系および基幹系システム、各種ファイルサーバーなどの社内リソースに加え、Boxなどのクラウド型ストレージサービス、SalesforceなどのCRMやSFA、Garoon、kintone、Office 365、G Suiteなどさまざまな外部サービスと連携し、チャットボットが回答する際の知識ベースとして活用が可能である。問い合わせ業務で必要な多くのデータソースと連携できる点が大きな特徴であろう。
AIに学習させる手間を
RPA連携で解決する
「当社が展開しているAI戦略のポイントとしては、このようにフロントエンドツールが多彩で、社内外のさまざまなデータソースと連携できることに加え、AIに学習させる手間をいかに省力化するかという点が挙げられます」と語るのは、JBCCのクラウドエバンジェリスト 岡元信弘氏(ソリューション事業 ビジネスソリューション事業部)である。
CloudAIチャットボット導入のプロセスは通常、以下のような流れになる。
①FAQセットの用意
質問の例文と回答のセットを用意し、専用入力シート(Excel)に入力する。
②FAQの登録
専用入力シートから出力したCSVファイル群をFAQ管理システムに登録する。
③回答精度の確認
利用者からの質問頻度やWatsonがその質問に対してどの程度の確信度をもって回答しているかなどの情報を取得し、FAQ回答精度を確認する。
④FAQの再登録
回答精度が低い質問に対して、質問例文を追加・修正し、再登録する。
これらの作業のなかで、ユーザー側はFAQセットを用意するだけでAIチャットボットの利用が可能になる。とは言うものの、実際にはこのFAQセットの準備には想像以上の多大な工数が生じる。業務の内容にもよるので一概には言えないが、一般にAIチャットボットで700?1500程度のFAQセットを用意する場合、1つの質問に対して最低でも10パターンの類似する(同じ趣旨であるが、表現が異なる)質問を用意しないと適切な回答精度が得られないとされている。つまりFAQの準備には、膨大な作業量が発生するわけだ。
現在、CloudAIチャットボットの活用例として最も多いのは、人事・総務・経理など管理部門に寄せられる問い合わせへの対応業務であり、導入の約80%を占めるという。こうした管理部門にはすでに大量のマニュアルや規定集、説明書が用意されており、それらをFAQセットとして有効活用して学習の手間を省略できることが、これらの部門で導入が進む大きな理由と言える。
「AIチャットボットで課題になるデータの準備作業、およびAIに学習させる手間をいかに省略できるかが重要です。そこでFAQだけでなく、文書検索を活用する。FAQでは適切に回答できない場合も、文書検索を組み合わせることで回答率を上げられます。FAQと文書検索をセットにすることで、学習の手間を大幅に削減できると考えています」(岡元氏)
そのためCloudAIチャットボットでは、AI学習専用のWebサイトを用意している。これはAI専用のDropboxやBoxだと考えればよい。ここに学習させるファイルをドラッグ&ドロップ操作で投入していくと、Watsonが自動的に学習していく仕組みだ(図表2)。
AI学習専用サイトには手作業で投入してもよいが、ファイルサーバーの特定フォルダ内のファイルを同期させることも可能。また社内掲示板の情報をHTMLで自動アップロードすれば、どのリンクにどの情報があるかをWatsonが学習する。
ただしファイルサーバーのなかには、Windowsの旧バージョンを使用していたり、社内掲示板で運用しているCMS(Content Management System)によっては送信機能を備えていないなどの理由で、同期やアップロードを自動実行できないケースがある。大量のファイルを手作業でAI学習専用サイトに投入するとなれば、多大な工数が発生することに違いはない。
そこで最近では、AIとRPAを連携させて自動化する提案が急増しているという。ファイルサーバーの特定フォルダからAI学習専用サイトへファイルをアップロードする、WordファイルであればPDFに変換する、社内掲示板にあるマニュアルや規定書を回答例とする場合はそのHTMLをアップロードするといった作業を、RPAで自動化するのである。
「AI学習専用サイトを活用した文書検索を最大限に活用することで、FAQだけではカバーできない問い合わせに回答していけます。FAQと文書検索、そしてRPAの組み合わせは、当社のAIチャットボット提案の柱と言えます」(岡元氏)
「普段使いのツール」と連携する
CloudAIライト
「AIに学習させる手間を省くこと。そしてスムーズにAIチャットボットを社内に定着させるには、日常的に使い慣れた、いわゆる『普段使いのツール』と連携させることが重要だと考えています」と、さらに岡元氏は続ける。このコンセプトを体現するのが、「CloudAIライト」である。
汎用性の高い通常版のCloudAIに対して、より学習の手間を省き、「普段使いのツール」と連携させている点が大きな特徴である(図表3)。
CloudAIライトは、外部の手を借りずにユーザー主体で簡単に導入できるように設計されている。通常版はWatsonをベースにSEが導入を支援して、標準導入期間が約2カ月。これに対してCloudAIライトは、ユーザー主体の導入で10日程度である。
CloudAIライトには「CloudAIライト for Office 365」「CloudAIライト for G Suite」「CloudAIライト for kintone」の3つが用意されている。
通常版のCloudAIがファイル検索やDB連携、外部サービスであるBoxやSharePoint、CRM/SFA、その他のAPIとの連携が可能であるのに対し、CloudAIライトでは前述の3つのツールに限定してチャットボットを提供する。
たとえば「CloudAIライト for Office 365」では、Office 365標準のチャットツールであるTeamsを利用して、FAQ、資料検索、スケジュールや連絡先の確認などをサポートする。
TeamsはWeb会議や通話、チャットなどのコミュニケーションツールとして利用されていたSkype for Busi
nessのサービス終了を受け、2018年11月にリリースされた。Teamsも文書検索機能を備えているが、対象となるのはチャットでやり取りしたファイルのみ。たとえばSharePointに有益なファイルが存在したとしても、Teamsの検索対象にはならない。
そこで「CloudAIライト for Office 365」では、Share
PointとOneDrive内のファイルも検索して回答表示する。Teamsの機能をAIで大きくレベルアップできるわけである。
G Suiteでも同様に、資料検索、スケジュールや連絡先の照会、メールの確認などに対応し、Google Drive上のファイルを検索できる。
またkintoneの場合は、AIチャットボットによりkintoneアプリケーション上のデータを照会する。本特集で紹介する尾家産業では、「CloudAIライト for kintone」を利用し、IBM i上の在庫データをkintone上に送信して、AIチャットボットで営業担当者からの問い合わせに対応する仕組みを構築している。
上記のいずれの場合も、Office 365やG Suite、kintoneなどで日々行っている問い合わせや検索作業をサポートするので、学習データは不要である。
岡元 信弘氏
JBCC株式会社
ソリューション事業
ビジネスソリューション事業部
クラウドエバンジェリスト
[IS magazine No.27(2020年5月)掲載]