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BCP対策を抜本から変える ~想定外に柔軟に対応可能な「機能するBCP」

2000年代初めからBCP対策に取り組んできたJBCCが、その抜本的な変革に取り組んでいる。きっかけは、災害のたびに生じた「BCP対策の不足」。そこで、JBグループだけでBCP対策を講じるという従来からのスタイルをあらため、外部コンサルティングサービスを導入した。同グループは今、CMTと呼ぶ初動実働部隊の活動を軸に、BCPのための新たな仕組み作りを急ぐ。

 

その都度、災害対策としての
不足が明らかになる

 JBグループは2005年に危機管理タスクを発足させて以来、継続的にBCP/災害対策に関する取り組みを実施してきた(図表1)。とくに2010年に策定した「災害対策基本規程」と「大規模災害対策基準」は、翌年の東日本大震災への対応で有用性の高さを実証し、それ以降のBCP/災害対策のベースとなってきた。

 

 

 ところが同グループでは2017年に、それらの抜本的な見直しに踏み切る。その背景についてBCP委員会リーダーの田中英昭氏(JBサービス 取締役上級執行役員 サービスマネジメント事業部 事業部長)は、次のように説明する。

「JBグループでは過去15年以上にわたってBCP/災害対策に取り組み、策定すべきものは策定し用意すべきものは用意して、着実に前進してきました。しかしながら実際に災害が発生し対応へと動くと、その都度、災害対策としての不足が明らかになり、根本的な見直しの必要性を痛感していました。

 ひるがえって考えると、従来のBCP/災害対策はJBグループがもつ知識のなかだけでやってきたものと捉えることもできます。そうならば外部の先進的な専門知識を導入して見直しを図ったらどうか。BCP/災害対策の抜本的な見直しは、この動機から始まりました」

 

田中 英昭氏 JBグループ BCP委員会リーダー/ JBサービス株式会社 取締役 上級執行役員 サービスマネジメント事業部  事業部長

 

 

ファーストプロトコルの
策定に取り組む

 JBグループが導入したのは、レスキューナウ社が提供する災害対策のアドバイザリー・サービスである。レスキューナウ社は、危機管理支援に特化した専門企業で、災害発生直後の初動体制の構築支援で数多くの実績をもつ。なかでも「CMT」(Crisis Management Team)と呼ぶ初動実働部隊を軸とする緊急対応の仕組み作りは高く評価されている。

 JBグループが2017年にまず取り組んだのは、このCMTの活動をベースとする「ファーストプロトコル」の策定である。ファーストプロトコルとは、災害発生から120分間の行動内容を規定するもので、その規定内容に従って担当者と役割を明確にし、行動に必要な設備・備品・資料・ツールなどを準備する。

 ファーストプロトコルの考え方と分刻みに何を行うかのノウハウとテンプレートはレスキューナウが提供するものだが、企業の特性に合わせてカスタマイズする必要がある場合はレスキューナウのアドバイザーが助言を行う。

 ファーストプロトコルは約40のステップで構成される。1ステップは、1つの行動、アクションを指す。つまり、災害発生から120分までの間にCMTとしてなすべきアクションが約40もあるということだ。

 指標となるのは、災害発生から3分間は自身の安全を確保し、その後は15分後、60分後、120分後のポイントで計3回の状況報告を災害対策本部に対して行うことである(図表2)。CMTはその120分間に、安否確認班、社内情報収集班、社外情報収集班、社内連絡班、庶務班に分かれ、ファーストプロトコルに規定された情報収集や整理、連絡・報告などを実行する。

 

 

災害時になすべき対応は
そのような状況でしか見えない

 JBグループでは2017年にファーストプロトコルの各ステップの詳細を詰め、2018年6月にその訓練を初めて実施した。

 訓練は、震度6弱の地震が平日の就業時間中に名古屋地区で発生し、静岡事業所が被災したとの想定のもとで実施された。ただしCMTのメンバーには、どこで災害が発生し、どのような被害が出ているかは知らされていない。また訓練を通して、さまざまな“現地情報”がCMTメンバーにもたらされるが(各拠点のJBグループ従業員を模してレスキューナウ担当者が情報発信)、それらの情報も一切メンバーに事前開示されることなく訓練が行われる(図表3)。つまりファーストプロトコルの訓練は、災害と被害を想定したシナリオ型の訓練ではなく、予想外や想定外を前提としたブラインド型の災害対策訓練であるのだ。それを120分間通して行い、想定外の情報をどう整理するか、定義したプロトコルどおりに行動できるかを確認する。

 

[図表3]ファーストプロトコル訓練の様子

 

[写真上]訓練は120分通して行われ、スタートから15分後、60分後、120分後を目途に災害対策本部に対して状況報告を行う

[写真下]安否班、社内班、社外班、広報班、庶務班に分かれ、ファーストプロトコルに規定された情報収集や整理、連絡・報告などを実行する

 

 

 CMTのリーダーとして訓練を体験した田中氏は、「班を分け担当分野を決めていても情報によっては複数の班が収集・整理したり、各班で収集した情報がすべてリーダーに集まり収拾がつかなくなる局面が生じるなど、机上ではわからない見えない課題が山ほど出てきました。災害時になすべき対応は、そのような状況に立たされたときにしか見えてきません。その教訓と災害対策訓練の重要性を痛いほど理解しました」と、感想を述べる。

 

JBグループの災害対策にとって
2017年は転換点

 ファーストプロトコルの策定から訓練までを経験した田中氏は、「2017年は、JBグループの災害対策にとって転換点となった年でした」と総括する。そしてその翌年の今年4月には、JBグループのリスク管理体制全体で大きな組織改編が実施された。

 その内容は、従来、「セキュリティ・BCP委員会」の下にあった「情報セキュリティ」と「BCP」の各部会をそれぞれ独立させ、「CSR委員会」と合わせて、新設の「内部統制委員会」の下に配置するというものである。

「内部統制はリスク管理も含めた広義の意味で用いていますが、その内部統制の観点で、JBグループとして整備状況および運用状況の評価を行い、改善を推進していくことが組織改編の目的です」と、BCP委員会の事務局を担当する児玉一郎氏(JBCCホールディングス 事業推進 経営管理)は説明する。

 

児玉 一郎氏 JBCCホールディングス株式会社 事業推進 経営管理

 

2018年度の重点項目は
グループ各社のBCP体制構築など

 田中氏がリーダーを務めるBCP委員会では、2018年度の活動方針として「グループ災害対策推進体制の確立と強化」を掲げた。その副題は「CMTをベースとした災害対応の流れを構築」というものである。

 実施する重点項目は、大規模自然災害対策、グループ各社の事業継続体制の構築、安否確認訓練、の3つとした(図表4)

 

 このうち「大規模自然災害対策」中の「災害発生時のファーストプロトコルの精度向上」の取り組みの1つが、6月に実施したファーストプロトコル訓練である。同様の訓練は下期にも実施する予定。また、災害発生から120分までのファーストプロトコルに続く、2時間後~6時間後を対象とする「セカンドプロトコル」があり、その策定に取り組む。セカンドプロトコルで規定するのは、災害対策本部がBCP対策として検討・決定すべき項目とその判断基準である。被災した拠点の事業をどこで引き継ぐか、あるいは縮小するか、従業員の安全の確保と生活支援をどうするか、被災した顧客への緊急サポートをどのように実施するかなど、CMTからの情報を基にした検討項目と意思決定のための判断基準を定義する。

 2番目の「グループ各社の事業継続体制の構築」に関しては、各社の主要業務継続のための条件の洗い出しや、未達要件の改善策の検討などを実施する計画である。JBグループは11の事業会社で構成され、それぞれが特徴ある異なる事業を全国および海外で展開しているため、まずは各事業会社で検討・構築を進める方針という。さらに、情報セキュリティ事故発生時のCMT体制の構築とファーストプロトコルの策定も、2018年度の取り組みテーマである。

 田中氏は、JBグループがBCPに取り組むときの基本的な考え方について、次のように述べる。

「企業が事業を継続させようとするならば、従業員がいて活動できることが大前提です。そこでJBグループでは従業員の安全の確認と確保が第一と考え、災害時の初動対策を講じています。また平常時の訓練も非常に重要で、定期的に繰り返し実施することによって、いざというときに冷静な判断と対処が可能になります。災害対策は、机上では立てられないこと、長期にわたる継続と粘り強い積み上げによってこそ実効効果のある災害対策になることを肝に銘ずるべきと思います」

[i Magazine 2018 Winter(2018年11月)掲載]

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