IBM iでのアプリケーション開発には、5250画面を使うイメージが強かったが、最近ではIBM iを操作したことのない若手開発者も増え、「Visual Studio Code」(以下、VSCode)など他の言語と同じような開発ツールを使って開発する例も増えている。
2017年本誌発行の特集「IBM i入門ガイド」ではEclipseベースの「Rational Developer for i」(以下、RDi)を紹介したが、ここではRDiの新たなアップデート情報や新しく登場した開発ツールを紹介する。
RDi
RDiの前身である「WebSphere Development Tools」が登場してから20年以上経つが、操作性や利便性向上に向けて、RDiは今も少しずつ進化している。
最新のV9.8では、インストール作業の大幅な改善があり、ダウンロードファイルを展開するだけで即実行できるようになった。これまでRDiをインストールする場合、事前にインストール管理を行う「Installation Manager」を導入しておく必要があったが、V9.8からは不要となった。ダウンロードしたモジュールをそのまま展開するだけなので、利用を開始するまでの初期セットアップ時間が大幅に削減されている。
従来から「IBM i Access Client Solutions」(以下、ACS)と親和性があり、スプール出力やSQL実行は可能であったが、最新のRDiにはACSが含まれるようになり、RDiで開発しながらACSの5250エミュレータを起動し、プログラムの実行確認などが可能となっている。
これ以外にもV9.8では、IBM iへのホスト接続にセキュア接続が可能となり、開発効率を向上させるためのMinimap表示、ソースの編集履歴をRDiから確認できるようになっている(図表1)。

引き続きRDiは120日間の評価版を提供しているので、まだ試したことがない人は以下サイトからダウンロードし、ぜひ体験してほしい。
IBM Rational Developer for i Download:https://www.ibm.com/support/pages/node/1115889
Visual Studio CodeとCode for IBM i
前述したRDiに比べて、無償で手軽に始められるのが、冒頭でも触れたVSCodeで、IBM iアプリケーションを開発するための拡張機能が「Code for IBM i」である。
Microsoft社が提供するVSCodeは、オープン系アプリケーション開発では主流となっている軽量なコードエディターである。さまざまな拡張機能が提供されているので、それぞれの用途に合わせカスタマイズして使用できるが、IBM i開発者向けにはCode for IBM i が提供されている。
RDiと同様にエクスプローラー形式でIBM i上のオブジェクトにアクセスでき、RPG、CL、COBOLをオンラインもしくはローカルでのオフライン編集が可能である。
IBM i上のライブラリーにアクセスし、直接編集できるのは大きなメリットである一方、直接ライブラリー上ではコンパイルできない点に注意が必要である。Code for IBM iを使ってコンパイルする場合は、IFS上にSTMF形式でソースファイルを配置する必要があるが、インラインでエラーも表示でき、対話式にコンパイルし、結果はスプールファイルと同等の内容がVSCode上で確認できるので便利である(図表2)。

ソースファイルをIFS上に配置することで(別途構成する必要はあるものの)、Gitなどで構成管理できるのはVSCodeならではのメリットである。
Code for IBM iについては、チュートリアルのほか、本誌の特集でも取り上げているので、ぜひそれらを参照しながら実際に試してほしい。なおCode for IBM i以外にも、データベース操作に特化したDb2 for IBM iや、それらすべてをパッケージした「IBM i Development Pack」なども提供されている。
IBM i Merlin
2022年に新しく「IBM i Modernization Engine for Lifecycle Integration」(以下、IBM i Merlin)が発表された。以前からあるオープンソースのWebベース開発ツールとの一番の違いは、IBM i上で稼働させるのではなく、OpenShiftを利用する点である。
IBM i Merlinはソースの編集だけでなく、バージョン管理、ソースのコンパイルを実装するためのJenkinsも含まれたオールインワンの開発パッケージである(図表3)。

以前はORION、Git、Jenkinsなどを個別にインストールかつセットアップする必要があり、オープンソースにあまり詳しくない人にとっては敷居が高かった。
その点IBM i Merlinは、構築にOpenShiftの理解が必要ではあるものの、そのまますぐに使えるところが大きな利点である。以下、IBM i Merlinの主な機能について紹介する。
IBM i Merlinで提供するエディターは、「IBM i Developer」と呼ばれる、前述したVSCode互換のWebベース統合開発環境である。開発者ごとのワークスペースが提供され、一般的な統合開発環境と同様のエクスプローラー形式でソースファイルを操作し、RPG、COBOL、CLなどを編集できる。
コンテンツアシスト機能、アウトライン表示、構文チェック機能など、RDiなどでも使えた編集機能はIBM i Developerでも使用可能である。なかでも大きな特徴は、IBM i Merlinに含まれるGitを使い、同じインターフェースからソースのバージョン管理が可能なことである。編集したソースをGitリポジトリーに登録し、他の開発者と共有することで、容易にチーム開発が可能となる。
IBM i Merlinにはほかにも「IBM i CI/CD」という、チーム開発で使用できるビルド・デプロイ機能を提供している。Jenkinsサーバーが内蔵されているので、Gitリポジトリーからソースを取得し、IBM i上に転送、ビルド・コマンドの実行が可能となる。Jenkinsに詳しくなくても構成できるよう、独自のインターフェースを提供し、ビルド管理が可能になっている(図表4)。

このIBM i Merlinの登場により、GitやJenkinsなどの専門知識がなくても、IBM iで継続的な開発・テスト・デプロイなどDevOpsの一連の流れを容易に実現できる。なお、IBM i Merlinは現在も機能を拡張しており、Db2 for iプラグインやARCADツールとの連携、デバッグ機能の改善など新しい機能を取り入れ、アプリケーションのモダナイズをサポートしている。

著者
藤村 奈穂氏
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
オープン・テクノロジー
新・IBM i入門ガイド[開発編]
01 IBM iの開発環境
02 IBM iの開発環境選択基準
03 IBM iの開発言語
04 IBM iの基礎[CL設計・開発]
05 IBM iの基礎[データベース]
06 IBM iの基礎[RPG開発]
07 IBM iの基礎[Java開発]
08 IBM iのシステム連携
09 IBM iの新しいアプリケーション例
10 開発編 FAQ
[i Magazine 2025 Spring号掲載]